地球から遠く離れた宇宙には、死んだ星の亡きがらでありながら、規則正しく光を放ち続ける「ゾンビ星」があります。
ところがその中には、規則的な点滅とは別に、ときどきひときわ明るく燃え上がる奇妙な星がいます。
そこで米メリーランド大学ボルチモア郡校(UMBC)などの研究チームは、NASAとJAXAが共同で運用する宇宙望遠鏡「XRISM」を使い、この星が燃え上がっている最中の様子を詳しく調べました。
ゾンビ星を何度も光らせていたものの正体は、何だったのでしょうか。
研究内容の詳細は2026年9月18日に『Science Advances』にて発表されました。
目次
- 11分ごとに点滅するゾンビ星と謎の「フレア」
- ゾンビ星を燃え上がらせる「犯人」の正体
- 落ちていくガスは途中で「形」を変えていたらしい
11分ごとに点滅するゾンビ星と謎の「フレア」

今回の舞台は、地球から約1万3000光年離れた「BP Crucis」という連星、つまり2つの星がペアになった天体です。
片方は、太陽のおよそ60倍の大きさをもつ青い極超巨星(巨星の中でもとりわけ大きく明るい星)「Wray 977」です。
もう片方の「GX 301-2」は、超新星爆発を起こした星の亡きがらである中性子星です。
以前ナゾロジーではこういう記事も紹介しています(2つの星の性質をもつ奇妙な中性子星を発見! 恒星進化のミッシングリンクか)
太陽と同じくらいの質量が直径およそ20kmの球に詰め込まれた、とてつもなく高密度な天体です。
死んでもなお激しく活動を続けることから、海外の科学メディアはこれを「ゾンビ星」と呼んでいます。
しかもGX 301-2は「パルサー」と呼ばれるタイプで、非常に強い磁場をもち、高速で自転しています。
そのため、X線を含む強い電磁波のビームを、首を振るように宇宙へ放ち続けているのです。
パトカーの回転灯のように、このビームが地球を向くたびに、望遠鏡には「ピカッ」という点滅が届きます。
GX 301-2の場合、その間隔はおよそ11分です。
ところがこの星は、ほかの多くのパルサーと違い、この規則的な点滅とは別に、たびたびX線の「フレア」を起こしてひときわ明るく輝きます。
このフレアがなぜ起きるのかは、これまではっきりしていませんでした。
怪しいとにらまれていたのが、相棒のWray 977が吹き出す「恒星風」です。
核融合で燃える星はどれも放射線や電気を帯びた粒子の流れを吹き出しており、太陽ではこれが「太陽風」として地球にオーロラをもたらしています。
Wray 977の恒星風はそれよりずっと激しく、電離したガス(プラズマ)が1本の巨大な流れとなって、時速およそ54万kmで噴き出しています。
ゾンビ星を燃え上がらせる「犯人」の正体

手がかりは、フレアが起きるタイミングにありました。
GX 301-2は41.5日かけてWray 977の周りを回っており、フレアは相棒に最も近づいたときと最も離れたときに起こり、最も近づいたときに最も強くなります。
そのため研究者たちは以前から、中性子星がプラズマの流れを通り抜けるときにフレアが起きるのではないかと疑っていました。
しかし、それを裏づけるだけの証拠はありませんでした。
そこで研究チームは、フレアと重なる16時間にわたってXRISMでBP Crucisを観測し、X線の「スペクトル」を細かく記録しました。
スペクトルとは光をエネルギーごとに分けたもので、そこに現れる暗い線(吸収線)や明るい線(輝線)から、光の通り道にあるガスの様子を読み取ることができます。
チームが注目したのは、電子を1個か2個だけ残した鉄のイオンが刻む線です。
これらの線は、観測の始めには吸収線として現れ、終わりには輝線に変わり、その間には吸収と輝きが入り混じっていました。
しかも線の位置は、光の波長が長い側へずれる「赤方偏移」を示していました。
中性子星自身の動きや地球の公転などの影響を差し引くと、光をさえぎっていたガスは、中性子星から見て秒速150kmを超える速さで、中性子星のほうへ向かっていたことが分かりました。
論文はこの変化を、中性子星へ流れ込んで降り積もる物質の直接の証拠だと位置づけています。
つまり長く疑われていたとおり、相棒の巨星が噴き出すプラズマが中性子星に落ち込んでいく様子が、フレアの最中にとらえられたのです。
研究チームによると、外へ流れ出るガスではなく、内側へ流れ込む電離したガスによるX線の吸収をとらえたのは、この観測が初めてです。
筆頭著者のロイ・ラヒン氏(UMBC、NASAゴダード宇宙飛行センター)は「恒星風のプラズマがコンパクトな天体に落ちていく明確な兆候は、これまで見たことがありませんでした」と話しています。
巨大な星が吐き出すガスがゾンビ星を光らせているこの構図を、海外の科学メディアは宇宙規模の「おなら」にたとえています。
落ちていくガスは途中で「形」を変えていたらしい

観測からは、ガスの落ち方そのものが刻々と変わっていた様子もうかがえます。
論文によると、フレアのあいだにガスの流れ込み方は、主に中性子星へまっすぐ落ちる形から、横向きに回り込む円盤のような形へと移り変わっていた可能性があります。
共著者でインドのマニパル自然科学センターの天文学者ナズマ・イスラム氏は「濃いプラズマの流れが中性子星のすぐ近くでどう振る舞うのかが見えました」と語っています。
研究チームはこのデータをもとに、プラズマが中性子星に落ち、その周りを渦巻く様子をシミュレーションしました。
紹介記事の説明では、中性子星の表面に物質が十分な量たまると星が爆発し、地球で観測される明るい閃光を放つといいます。
以前ナゾロジーではこういう記事も紹介しています(観測史上もっとも巨大な中性子星が発見される)
チームは今後もXRISMでフレアを観測し、GX 301-2とWray 977の恒星風との関係をさらに詳しく調べたいとしています。
NASAゴダード宇宙飛行センターでXRISMのプロジェクト科学者を務めるブライアン・ウィリアムズ氏は、BP Crucisを「恒星風から物質を取り込むパルサーを研究するための理想的な実験室」と呼んでいます。
論文も、今回の観測が、ガスが天体に降り積もる仕組みについての仮説を直接確かめる手段になると述べています。
一度死んだ星の輝きは静かな余韻などではなく、隣の巨星から吹きつけるガスを取り込みながら燃え上がる、生々しい営みの表れだったのです。
それにしても、相棒の「おなら」を浴びるたびにピカッと光ってしまうとは、ゾンビ星もなかなか気の毒な同居生活を送っているようです。
参考文献
A giant cosmic 'fart' is making a wobbling zombie star repeatedly flash us, 'groundbreaking' observations reveal (Live Science)
https://www.livescience.com/space/astronomy/a-giant-cosmic-fart-is-making-a-wobbling-zombie-star-repeatedly-flash-us-groundbreaking-observations-reveal
元論文
Direct spectroscopic observation of matter falling onto a compact stellar object
https://doi.org/10.1126/sciadv.aef6686
ライター
天道銀河: 科学、歴史、心理、宇宙、生き物、テクノロジーなど、気になるものにはジャンルを問わず首を突っ込む雑食系ライターです。ひとつの分野を深く極めるというより、さまざまな知識を広く集め、意外なつながりを見つけるのが好きです。専門家ほど深くはなくても、好奇心の広さなら負けません。「こんな世界もあるのか」と思えるような、面白くてわかりやすい話題を届けていきます。
編集者
ナゾロジー 編集部
