動物園のふれあいコーナーでウサギにニンジンを差し出すと、小さな口でもぐもぐ食べる姿につい頬がゆるみます。
広島県の大久野島は、数百匹のアナウサギがすむことから「うさぎの島」と呼ばれ、観光地としてにぎわっています。
島のウサギたちは、観光客が与えるエサによって数が保たれているといいます。
ところがこの島には、ウサギのほかに、もともとこの土地にすむ野生のイノシシも暮らしています。
福島大学の兼子伸吾教授らの研究チームは、このイノシシが島で見せている行動と、その背景にある要因を調べました。
観光客のエサやりは、ウサギ以外の動物のふるまいにまで関わっているのでしょうか。
研究内容の詳細は2026年7月28日に『Journal of Ecotourism』にて発表されました。
目次
- 「うさぎの島」はエサやりで支えられている
- 大久野島のイノシシが見せた「ある行動」とは
「うさぎの島」はエサやりで支えられている

大久野島のウサギは、アナウサギと呼ばれるヨーロッパ原産の外来種(もともとその土地にいなかった生き物)です。
研究チームによると、島でのエサやりは量が多く、十分に管理されていないといいます。
その結果、島には植物がまかなえる量を超えるほどのウサギがすみついています。
ウサギの口が届く高さ(ラビットライン)までは、木の枝や葉が失われてしまっているのです。
さらに観光客が少ない時には島のエサが足りなくなり、ウサギが毒のある植物をかじった跡も見つかっています。
つまりこの島では、人が与えるエサが、ウサギの数や島の緑のようすまで左右しているわけです。
人が動物にエサをあげると、動物のふるまいや数、ほかの生き物との関係が変わることがあります。
しかし観光地でのエサやりが、エサの対象ではない別の動物にどう響くのかは、まだ十分に調べられていませんでした。
そこで気になるのが、同じ島で暮らすイノシシです。
これまで、イノシシがウサギを食べることがあっても、それは主に死んだウサギを食べているのだと考えられてきました。
以前ナゾロジーではこういう記事も紹介しています(死体と交尾するイノシシを発見ーー白骨化するまで「腐敗」を見届ける)
ところが大久野島のイノシシは、その考えに当てはまらない行動を見せていたのです。
大久野島のイノシシが見せた「ある行動」とは

研究チームが報告したのは、イノシシが生きたウサギを襲って食べる様子が目撃されたという事例です。
大久野島では以前にも、イノシシが健康なウサギを捕食したという目撃情報がありました。
そのため、こうした捕食は一度きりの出来事ではなく、繰り返されている可能性が示されたのです。
イノシシの行動は、それだけではありません。
ウサギのために与えられたエサを食べたり、ウサギの死体をあさったりする様子も報告されています。
では、なぜ大久野島でこのようなことが起きているのでしょうか。
研究チームは、観光客のエサに支えられて、島にたくさんのウサギが暮らしていることが背景にあるとみています。
イノシシはウサギの食べ残しのエサをあさり、島に数多くあるウサギの死体も食料にしていると考えられるのです。
さらに、イノシシがウサギとしょっちゅう近い距離で出会うことも、外来種のウサギと在来種(もともとその土地にいた生き物)のイノシシの間に、これまでにない関係を生んでいるのかもしれません。
ただし、今回の報告はあくまで目撃にもとづくものです。
研究チームも、観光客のエサやりがイノシシの捕食を引き起こしたという因果関係(原因と結果のつながり)までは示されていないと述べています。
それでも研究チームは、この事例は珍しい動物の行動の記録にとどまらないと指摘します。
観光客のエサやりが、エサを受け取るウサギ以外の生き物にも、間接的な影響を与えている可能性を示しているからです。
大久野島は国立公園であり、毒ガス製造施設の跡や砲台の跡などの戦争遺跡が残る歴史ある島でもあります。
研究チームは、ウサギや植物、エサやりの対象ではない野生動物のようすを継続して調べることが、持続可能な管理のために欠かせないとしています。
この事例は、持続可能な観光や生き物の多様性を守るために、野生動物へのエサやりのあり方を見直す大切な手がかりになるといいます。
ウサギにエサを差し出すという小さなふるまいの影響も、島の中では思いもよらない動物にまで、さざ波のように広がっているのかもしれません。
参考文献
「うさぎの島」でイノシシが生きたウサギを捕食 観光客のエサやりが生態系に与える影響を示唆 (大学ジャーナルオンライン)
https://univ-journal.jp/1002025/
元論文
Wild boar predation on feral rabbits in a tourist-fed island population: ecological and management implications from Okunoshima Island, Japan
https://doi.org/10.1080/14724049.2026.2705843
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部
