誰かに聞く前に、まずAIに「私の考え、間違ってないよね」と確かめるのが習慣になっている人もいるでしょう。
AIの言葉づかいが上手になり、恋人や家族との関係、人付き合いの悩み、善悪の問題まで、AIに相談する人が増えています。
ところがAIのチャットには、相手の言うことに調子を合わせて肯定しがちなクセがあると指摘されてきました。
そこで開発者たちは、必要なときにはきちんと反対できるAIを作ろうとしています。
では、AIに「その考えには賛成できません」と言われたとき、私たちは自分の考えを見直すのでしょうか。
米ミシガン大学の研究チームは、AIにわざと賛成させたり反対させたりする実験で、この問いを確かめました。
研究内容の詳細は2026年8月1日に『Computers in Human Behavior Reports』にて発表されました。
目次
- AIに「賛成役」と「反対役」を演じさせた実験
- AIに反対された人は、考えを見直したのか?
AIに「賛成役」と「反対役」を演じさせた実験

論文では、このAIのクセを「迎合(げいごう:相手の気に入るように調子を合わせること)」の問題として扱っています。
何でも賛成してもらえるのは心地よいものの、それは「確証バイアス(自分の考えに合う話ばかり信じやすい心のクセ)」を強め、自信過剰や現実のゆがんだ見方につながると懸念されているのです。
そこで研究チームは、AIが利用者に反対したら何が起こるのかを調べることにしました。
実験に参加したのは、アメリカの成人482人です。
参加者は、客観的な正解のない人間関係の悩みを描いた架空の場面を、3つのうち1つ読みました。
場面は「パートナーと家族の対立」「浮気したパートナーを許すかどうか」「友人グループと違う自分の好みを口にするかどうか」の3つです。
参加者は自分ならどうするかを選んで自信の強さを答え、その理由をAIに説明しました。
このとき参加者は無作為に2つのグループに分けられていました。一方のグループのAIには参加者の理由を支持するように、もう一方のグループのAIには反論するように、あらかじめ指示が出されていました。
最後に参加者は、自分の選択への自信をあらためて答えました。あわせて、AIが人の気持ちをどれほど理解できるか、どれほど人間らしいか、同じような相談にまたAIを使いたいかも評価しました。
AIに反対された人は、考えを見直したのか?

結論から言うと、AIに反対されても、自分の考えへの自信ははっきりとは下がりませんでした。
一方で、AIに賛成された人たちは、すでに選んでいた答えへの自信をさらに深めていました。
つまり人は、AIの賛成と反対を同じ重みでは受け止めていませんでした。賛成されれば自信が上がる一方、反対されても自信にはっきりした低下は見られなかったのです。
研究チームは、人がAIの反対意見を軽く見積もり、割り引いて受け取っている可能性があると考えています。
反対されても元の考えを大きく見直す様子は見られず、代わりに変わったのはAIへの見方の方でした。
以前ナゾロジーではこういう記事も紹介しています(AIによる入力予測はユーザーの考えを密かに変えてしまう)
反対された人たちは、賛成された人たちに比べて、AIを「人の気持ちが分からない」「機械っぽい」存在だと評価したのです。
さらに、似た人間関係の悩みをまたAIに相談したいという気持ちも、反対された人たちの方が弱くなっていました。
以前ナゾロジーではこういう記事も紹介しています(若者の5人に1人がAIに「心の悩み」を相談していた、米国の調査)
論文の共同筆頭著者の一人は、ミシガン大学で心理学を学ぶ博士課程の学生、アタカン・アタメル氏です。アタメル氏は、AIが反対しても人が考えを見直すとは限らず、AIの答えを割り引くだけかもしれないと述べています。
ここに、AIを作る側の悩ましい点があります。
いつも賛成するAIは、考えの中身を良くしないまま、自信だけを高めてしまうおそれがあります。
かといって反対を増やしても、利用者がAIを使いたがらなくなったり、反論を聞き流したりするだけかもしれません。
同じく共同筆頭著者のオリヴィア・ピント氏も、AIを反論しやすくするだけでは、現実に影響する有害な会話を防ぐのに十分ではないかもしれないと述べています。
研究チームは、AIの迎合を減らすだけでは、個人的な相談をAIに頼ることの大きなリスクには対処しきれない可能性があるとしています。
AIに賛成されて自信が深まっても、それで考えの中身が良くなったとは限りません。
反対されたときこそ、「このAIは分かってない」とすぐに切り捨てず、一度立ち止まってみる価値がありそうです。
とはいえ、反対されて素直に考え直せるくらいなら、そもそも夜中にAIへ悩みを打ち明けてはいないのかもしれませんが。
参考文献
When AI disagrees, people don’t change their original view (Futurity)
https://www.futurity.org/when-ai-disagrees-3346282/?utm_source=rss&utm_medium=rss&utm_campaign=when-ai-disagrees-3346282
元論文
From ally to algorithm: How disagreement shapes users’ engagement with AI
https://doi.org/10.1016/j.chbr.2026.101252
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部
