部屋にこもった子どもがスマホを見つめたまま、なんだか浮かない顔をしているのが気になった保護者の方もいるかもしれません。
10代がネットで出会う危険については心配の声が高まっており、世界ではSNSの利用禁止や年齢による利用制限を取り入れる動きも出ています。
ところがこれまでの研究は、いじめならいじめと、1種類の害だけを調べるものがほとんどでした。
「どのアプリで、どんな嫌な体験が起きているのか」を分けて数えた研究は、あまりなかったのです。
そこで米ウィスコンシン大学マディソン校(UW-Madison)のアンジェラ・Y・リー氏らの研究チームは、アメリカの10代に20種類のアプリやサービスでの体験をたずねました。
では、「他人の投稿を見て、自分のことを悪く感じた」という10代が多かったのは、どのアプリだったのでしょうか。
研究内容の詳細は2026年9月18日に『Archives of Pediatrics and Adolescent Medicine』にて発表されました。
目次
- 10代472人に聞いた「ネットでの嫌な体験」
- 「他人の投稿で落ち込む」10代が多かったアプリとは?
- ネットと現実で違った「嫌な体験」の中身
10代472人に聞いた「ネットでの嫌な体験」

今回の研究でいう「オンラインの害」とは、ネット上のいじめや望まない性的な誘い、自分を傷つけることをすすめる内容など、ネットで起こる嫌な体験をまとめて指す言葉です。
調査は2025年2月から12月にかけて、南カリフォルニア大学の研究センターが運営する調査の仕組み(くじ引きのような方法で選ばれた家庭の人たちに、くり返し答えてもらうもの)を使って行われました。
対象は47州に住む13〜17歳の10代472人で、答えは性別や年齢などの割合をアメリカの10代全体に合わせて調整してあります。
参加者はまず、インスタグラム、TikTok、YouTube、スナップチャット、フェイスブックなど20種類のサービスを、過去4週間に使ったかどうかを答えました。
そのうえで、嫌がらせを受けた、他人が嫌がらせを受けるのを見た、暴力的な画像を見た、スマホなどを使っていて睡眠が妨げられたといった体験を、現実とネット、さらにサービスごとにたずねています。
ちなみに参加者の91.5%は自分のスマホを持っており、よく使われていたのはYouTube(77.1%)、インスタグラム(55.1%)、TikTok(54.4%)、スナップチャット(51.2%)でした。
リー氏は、特定のアプリでどれくらい嫌な体験が報告されるかが分かれば、SNSと心の健康をめぐる議論をもっと具体的にできると話しています。
「他人の投稿で落ち込む」10代が多かったアプリとは?

結論から言うと、「他人の投稿を見て、自分のことを悪く感じた」と答えた割合が高かったのは、インスタグラムとTikTokでした。
インスタグラムの利用者では16.6%、TikTokの利用者では13.4%が、そのアプリでこう感じていました。
一方、YouTubeでは4.1%、文字でやりとりするテキストメッセージでは5.6%にとどまりました。
インスタグラムとYouTubeを比べると、約4倍の開きがあったことになります。
睡眠でも同じような偏りが見られ、TikTok利用者の42.2%、インスタグラム利用者の27.8%が、それぞれのアプリのせいで睡眠が妨げられたと答えました。
テキストメッセージでは、この割合は10.2%でした。
暴力的な画像を見たという答えも、インスタグラム利用者では9.1%だったのに対し、YouTube利用者では1.9%でした。
論文は、アプリごとの違いは大きく、害は特定のアプリに集中していたとまとめています。
ネットと現実で違った「嫌な体験」の中身

では、ネット全体と現実の生活を比べるとどうだったのでしょうか。
過去4週間のうちに、他人が嫌がらせを受けるのを見た10代は44.7%、自分が直接嫌がらせを受けた10代は29.8%にのぼりました。
直接の嫌がらせは、現実で18.5%、ネットで16.4%と、ほぼ同じ割合でした。
いじめのような嫌がらせは、ネットの中でも外でも同じように起きているようです。
ところが、ほかの害ではネットの方がずっと多く、暴力的な画像はネットで10.7%(現実では1.6%)、望まない性的な画像は13.4%(同2.0%)、自分を傷つけることをすすめる内容は9.7%(同5.2%)でした。
さらに半数を超える51.5%が、スマホなどのテクノロジーを使っていたせいで睡眠が妨げられたと答えています。
一方、保護者の学歴や家庭の収入、スマホに保護者が使用制限(ペアレンタルコントロール)をかけているかどうかと、ネットでの嫌な体験との間には、はっきりした関係は見られませんでした。
また、性別や年齢によって、経験しやすい害の種類が違う傾向も見られました。
ただし、この研究にはいくつか注意点があります。
今回の調査はある一時点の様子を切り取ったもの(横断調査)なので、アプリを使ったことが原因で気分が落ち込んだとまでは言えません。
また、この調査は試験的に行われたもので、分析も前もって仮説を立てずに探るように進めたものです。体験はどれも本人の申告によります。
それでも研究チームは、ネットでの嫌な体験の割合は実際に測れるもので、病気などの危険を見張る公衆衛生の仕組みと同じように使えると述べています。
リー氏らは、こうした数字を追い続けることで、導入された対策が本当に害を減らしているかを確かめられると期待しています。
「SNSは子どもに悪い」とひとまとめに語るより、「どのアプリで、何が起きやすいのか」を知るほうが、ずっと役に立つ手がかりになりそうです。
スマホを取り上げるかどうかを考える前に、まずは自分や家族がどのアプリでどんな気持ちになっているのかを話し合ってみる価値はありそうです。
ちなみに筆者のスマホでいちばん気分が落ち込むアプリは、どうやら銀行の残高アプリのようです。
参考文献
Negative feelings about life are more common among teens on Instagram and TikTok (PsyPost)
https://www.psypost.org/negative-feelings-about-life-are-more-common-among-teens-on-instagram-and-tiktok/
元論文
Adolescents’ Experiences of Online Harms by Platform
https://doi.org/10.1001/jamapediatrics.2026.4692
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部
