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「磁石を作る細菌」を食べた線虫は平均寿命が43%延びた


冷蔵庫の磁石にメモを留め、隣のヨーグルトを手に取る。細菌と磁石は、朝の台所の常連です。


今回紹介するのは、そんな身近な「磁石」を細胞の中に持つ、ちょっと変わった細菌の話です。


中国科学院合肥物質科学研究院のアン・シュー教授らの研究チームは、この細菌を線虫に食べさせると、平均寿命が43.39%延びたと報告しました。


日数でいえば、約17.2日だった平均寿命が約24.6日になった計算です。


しかも延びたのは、ただ生きている時間だけではありませんでした。


年を取ってからも神経の働きがよく、腸の状態も保たれ、元気に過ごせる期間まで長くなっていたのです。


老化は体の働きを少しずつ弱め、多くの慢性の病気にかかりやすくします。


その対策として、これまで薬や遺伝子を使う方法が探られてきました。


そこへ「細菌を食べさせる」という、まったく違う方向からの手が見えてきたわけです。


研究内容の詳細は2026年6月26日に『Free Radical Biology and Medicine』にて発表されました。




目次



  • 磁石の粒を持つ細菌を、線虫に食べさせた
  • 寿命を延ばしたのは、細菌のどんな力だったのか?
  • 細菌は線虫の体の中で何を止めていたのか?

出どころの画像(ライセンス未確認。編集者が置き場と可否を決める)
出どころの画像(Credit: ScienceDaily)


磁石の粒を持つ細菌を、線虫に食べさせた


磁石の粒を持つ細菌を、線虫に食べさせた
磁石の粒を持つ細菌を、線虫に食べさせた / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部

今回の主役は、走磁性細菌(細胞の中にナノサイズの磁石の粒を持つ細菌)と呼ばれる仲間です。


走磁性細菌の細胞の中には、マグネトソーム(磁石の性質をもつ鉄の結晶を膜で包んだ小さな粒)と呼ばれるつくりが並んでいます。


走磁性細菌は体になじみやすい性質を示しており、薬を運ぶ役目やがん治療への応用がこれまで研究されてきました。


ところが、細菌そのものを実際に役立てる研究はまだ限られていて、老化との関係はあまり調べられていませんでした。


そこで研究チームが選んだのが、マグネトスピリルム・マグネティクムという種の「AMB-1」という株です。


AMB-1は鉄を材料に鉱物の粒をつくる力を持ち、酸化を防ぐ働き(抗酸化作用)もあるかもしれないと見られていました。


これを食べさせた相手は、線虫の一種シー・エレガンス(C. elegans)です。


老化の研究で広く使われている、いわば研究の定番の生き物です。


研究チームは、AMB-1を与えた線虫と、比べる相手としてOP50(線虫の飼育でふつうのえさにする大腸菌)を与えた線虫を用意しました。


以前ナゾロジーではこういう記事も紹介しています(線虫の寿命を500%延長させることに成功「人間の400歳分」)


そして寿命や神経の働き、腸の状態を比べたところ、冒頭の結果が得られたのです。


では、細菌を食べただけで、なぜ線虫はこれほど長生きしたのでしょうか。


研究チームは、走磁性細菌ならではの特徴に目を向けました。


寿命を延ばしたのは、細菌のどんな力だったのか?


寿命を延ばしたのは、細菌のどんな力だったのか?
寿命を延ばしたのは、細菌のどんな力だったのか? / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部

走磁性細菌らしさといえば、やはり磁石の粒です。


そこで研究チームは、マグネトソームを作れるかどうかが寿命の延びにかかわっているのかを調べました。


比べたのは、3種類のAMB-1です。


1つめは、自然のままのAMB-1(野生型)。


2つめは、RNM-AMB-1です。磁石に反応しない状態になっていますが、その状態が元に戻りうるタイプです。


3つめは、磁石に反応しないNM-AMB-1です。


もし「細菌を食べること」そのものが効いているなら、3種類とも同じように寿命が延びてもおかしくありません。


ところが結果は、きれいに分かれました。


寿命を延ばす効果がいちばん強かったのは、野生型のAMB-1でした。


RNM-AMB-1は、野生型ほどの効果を示しませんでした。


そしてNM-AMB-1を食べた線虫では、寿命が延びなかったのです。


研究チームはこの結果から、マグネトソームを作る力が、寿命を延ばすうえで大きな役割を果たしていたと見ています。


同じ細菌でも、磁石にかかわる性質しだいで、線虫への効き目が変わったことになります。


では、磁石を持つ細菌は、線虫の体の中で何を変えていたのでしょうか。


細菌は線虫の体の中で何を止めていたのか?


細菌は線虫の体の中で何を止めていたのか?
細菌は線虫の体の中で何を止めていたのか? / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部

手がかりになったのは、線虫の体の中の「鉄」と「脂」でした。


AMB-1を食べた線虫では、OP50を食べた線虫と比べて、鉄(2価の鉄イオン、Fe²⁺)の量が34.11%減っていました。


過酸化脂質(酸化して傷んだ脂)も、52.19%減っていました。


鉄がたまることと、細胞の中の脂が酸化で傷むこと。


この2つと結びついた細胞の死に方が、フェロトーシスです。


線虫では、年を取るにつれてフェロトーシスが起きます。


AMB-1は、この老化にともなうフェロトーシスをはっきりと抑えていました。


遺伝子の働きにも、変化が出ていました。


AMB-1は、フェリチン(鉄をため込むたんぱく質)の設計図になる遺伝子「ftn-1」の働きを強めました。


反対に、「bli-3」という遺伝子の働きを弱めました。


bli-3は、線虫が持つただ1つのNADPHオキシダーゼ(NOX、活性酸素をつくる酵素)の仲間で、フェロトーシスを後押しする役を持つ遺伝子です。


つまり細菌は、細胞の死を後押しする側の遺伝子にブレーキをかけていたことになります。


こうした変化によって、フェロトーシスにかかわる指標が抑えられていました。


さらに研究チームは、RNA干渉(RNAi、特定の遺伝子の働きを弱める手法)を使って遺伝子を調べる実験も行いました。


その結果、フェロトーシスにかかわる遺伝子「ads-1」が、AMB-1による長生きに重要な役割を果たしていることが分かりました。


ads-1は、AGPSという酵素の設計図になる遺伝子です。


研究チームは、AMB-1がフェロトーシスを抑えることで、線虫が健康に年を取るのを助けたと結論づけています。


研究チームはさらに、今回の結果が微生物を使った新しい老化対策の道を示し、高齢者の医療で走磁性細菌を広く使うための土台になりうるとも述べています。


一方で、マグネトソームを作る力が、どんな道すじで鉄を減らし、フェロトーシスを抑えることにつながるのかは、今回の発表では語られていません。


全ての画像を見る

参考文献

Scientists gave worms magnetic bacteria. They lived 43% longer (ScienceDaily)
https://www.sciencedaily.com/releases/2026/09/260924020357.htm

元論文

A novel role for magnetotactic bacterium: Magnetospirillum magneticum AMB-1 prolonged healthy lifespan of Caenorhabditis elegans via regulating ferroptosis
https://doi.org/10.1016/j.freeradbiomed.2026.06.050

ライター

天道銀河: 科学、歴史、心理、宇宙、生き物、テクノロジーなど、気になるものにはジャンルを問わず首を突っ込む雑食系ライターです。ひとつの分野を深く極めるというより、さまざまな知識を広く集め、意外なつながりを見つけるのが好きです。専門家ほど深くはなくても、好奇心の広さなら負けません。「こんな世界もあるのか」と思えるような、面白くてわかりやすい話題を届けていきます。

編集者

ナゾロジー 編集部

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