会議で上司に意見を言うとき、相手の目を見るか手元の資料を見るか、ちょっと迷うことがあります。
話している相手の目をどれくらい見るかには、その人の性格の一面が表れているのかもしれません。
大学生39人に上司役と話し合ってもらう実験で、自分をまじめだと答えた人ほど、上司役の目をよく見ていたのです。
そしてその視線は、まわりの人が「この人はまじめだ」と感じることとも関係していました。
上司の前で自分がどこを見ているか、少し気になってきます。
ただし調べたのは少人数の大学生で、本物の職場ではなく、実験として用意した話し合いでの結果です。
研究内容の詳細は2025年11月29日に『Journal of Applied Social Psychology』にて発表されました。
目次
- 上司役と話し合う部下の視線を、メガネで記録した
- まじめな人が上司役の目を見ていたのは、どんな時?
- まわりの人は、その視線から何を読み取っていたのか?
上司役と話し合う部下の視線を、メガネで記録した

職場では、上に立つ人が相手と目を合わせることで、自信や、話にしっかり関わっている姿勢、リーダーとしての力を伝えています。
では、部下の側も、視線で自分について何かを伝えているのでしょうか?
研究チームによると、部下が相手に伝えているかもしれない性格の特徴は、これまで実際に観察されていませんでした。
そこでチームが注目したのが、「まじめさ」です。
まじめさは心理学で「誠実性」と呼ばれ、信頼できる、粘り強い、任された仕事をしっかりこなす、といった傾向を指します。
研究チームは、これを職場で部下に最も求められる性格の特徴と位置づけています。
そして調べる合図として選んだのが、相手の目に視線を向けるしぐさです。言葉を使わない合図の中でも、特に目立ち、力のあるものだからです。
実験に参加したのは大学生39人で、そのうち21人が男性、平均年齢は24歳でした。
参加者は、どこを見ているかを記録できるメガネ(視線計測メガネ)をかけて、4人の話し合いに加わります。
ただし、ほかの3人は参加者のふりをした研究チームのスタッフでした。
そのうち1人がいつも上司役になり、本物の参加者と残りの2人が部下役になります。
参加者には「役はたまたま決まった」と伝えてありましたが、スタッフは決められた通りにふるまっていました。
こうしておけば、話し合いごとに違いが出ても、それは主に参加者本人のふるまいから生まれたものだと考えられます。
話し合いのテーマは、給料を上げるか、休みを増やすかといった待遇のうち、どれを選ぶかでした。
部下役はそれぞれ自分の希望する待遇を推し、ほかの人の希望には反対しなければなりません。
参加者はさらに、自分の性格についてのアンケートにも答えています。
性格は「ビッグファイブ」(外向性、協調性、誠実性、神経症傾向、開放性)という、性格を5つの面から測る方法などで調べました。
ここで分かったのは、まじめさと視線の向け方に関係がある、ということです。
目を合わせればまじめな人になれる、という話ではありません。
また、この研究を紹介した記事は、少人数の学生での結果なので、もっと多くの人や違う人たちを調べれば結果が変わるかもしれないと注意しています。
では、まじめな人は、話し合いのどんな場面で上司役の目を見ていたのでしょうか?
実験では、そのタイミングまで細かく記録されていました。
まじめな人が上司役の目を見ていたのは、どんな時?

話し合いは4回に分けて行われました。
毎回、上司役が案を出し、部下役が順番に自分の意見を述べていきます。
つまり参加者には、自分が話す時間と、ほかの人の話を聞く時間の両方がありました。
研究チームは、メガネが記録した「見ている点」を、専用のソフトで1コマずつ調べました。
そして部屋にいたほかの人たちを写した静止画の上に、その点を1つずつ重ねていきました。
こうすると、参加者がどの瞬間に、誰のどこを見ていたかを細かく割り出せます。
上司役やほかの部下役を、どこで、どれくらい見ていたのかが分かるわけです。
その結果、自分をまじめだと答えた人が上司役の目をよく見ていたのは、特に自分が話している時でした。
研究チームは、まじめな部下ほど、話す時に視線をいわば道具のように使っている可能性があるとみています。
上司役の目に視線を向けることで、自分の意見を後押ししているようだ、というのです。
視線には、相手の様子をつかむ働きと、自分から何かを伝える働きの両方があります。
相手の目をまっすぐ見ると、注意を引いたり、相手を話に引き込んだりもします。
まじめな人は、この「伝える」ほうの働きを、自分が話す場面で使っているのかもしれません。
まわりの人は、その視線から何を読み取っていたのか?

この実験では、話し合いに加わったスタッフが、見た印象をもとに参加者の性格などを評価していました。
調べると、上司役やほかの部下役によく目を向けていた人ほど、スタッフから「まじめだ」と評価される傾向がありました。
これは自分が話している時の視線でも、人の話を聞いている時の視線でも同じでした。
研究チームは、まじめさが部下の視線の向け方を形づくり、その視線がまわりの人の印象に影響している、と結果を読んでいます。
つまり目の向け方は、まじめさを伝える合図の1つになっているかもしれないのです。
一方で、ほかの性格も視線の向け方と関係していましたが、まわりの人がそれを視線から読み取っている様子は見られませんでした。
たとえば開放性(好奇心や想像力が強く、新しいものや新しい考えを好む性格の特徴)が高い人ほど、話す時に目を合わせることが少なめでした。
目をそらす人は嘘をついていると受け取られることもありますが、視線が伝える意味はそれほど単純ではありません。
研究チームは、部下の側が自分の性格や力をどう伝えているのかを調べることが大切だとしています。
話し合いの場で伝わっているのは、話の中身だけではないのかもしれません。
参考文献
New eye-tracking study reveals how followers use gaze to show conscientiousness (PsyPost)
https://www.psypost.org/new-eye-tracking-study-reveals-how-followers-use-gaze-to-show-conscientiousness/
元論文
Eyes on the Leader: Gaze Behavior as a Cue for Follower Conscientiousness
https://doi.org/10.1111/jasp.70039
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部
