駅でスマホの乗り換え案内をにらんでいたら、目の前で手を振る友人に最後まで気づけませんでした。
何かに集中していると、目に入っているはずのものを見落とすことがあります。
では、頭のいい人や注意深い性格の人なら、こうした見落としは少ないのでしょうか?
イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校のダニエル・シモンズ氏らは、知能を調べる実験と性格を調べる実験に、それぞれ1000人ずつ参加してもらい、この疑問を確かめました。
その結果、知能に関わる一部の能力は見落としを予測したものの、その力は弱く、一貫してもいませんでした。性格については、見落としを予測するという証拠がほとんど、あるいはまったく見つかりませんでした。
「賢い人ほど見落とさない」という直感は、今回の実験ではほとんど支持されなかったことになります。
ただし調べたのは、オンラインで画面上の課題に取り組む中での見落としです。
日常のあらゆる場面に同じことが当てはまるかは、まだ分かりません。
研究内容の詳細は2026年6月3日に『Royal Society Open Science』にて発表されました。
目次
- 集中すると「見えているのに見えない」
- それでも「よく気づく人」はいるのか?
- では、見落としは何で決まるのか?
集中すると「見えているのに見えない」

集中しているときに、はっきり見えるはずのものに気づかない現象は「非注意性盲目」(注意がほかに向いているせいで、見えているものを見落とすこと)と呼ばれます。
たとえば、動画の中でボールのパスを数えている人は、画面を横切る見慣れない人影を見逃すことがあります。
これは、視力が悪いからとも、頭が悪いからとも限りません。
注意には限りがあり、脳はいま取り組んでいる作業に関わる情報を優先するためです。
それでも、いつも見落としにくい人がいるのかどうかは、これまでにも調べられてきました。
候補に挙がったのは、知能やワーキングメモリ(短い間、情報を頭にとどめて操作する力)、そして開放性や没入傾向(感覚や想像の体験に深く入り込みやすい傾向)といった性格の特徴です。
実際、自分から物を探したり注目したりする課題なら、こうした測定で成績を予測できます。
ところが、予想外のものに気づくかどうかになると、話が違いました。
シモンズ氏らが以前、これまでの研究をまとめて分析したところ、個人差で気づきを予測できるという証拠は比較的少なかったのです。
多くの研究は参加者が少なく、結果もばらばらでした。
そこでシモンズ氏らは今回、この種の個人差を調べた研究としては、これまでで最も大きな2つの実験を行いました。
では、知能や性格とは別に、「よく気づく人」というのはそもそもいるのでしょうか?
それでも「よく気づく人」はいるのか?

実験は、複数の国の参加者を対象に、オンラインで行われました。
参加者は、見落としを調べる3つの課題に取り組みました。
1つ目は、線の長さを判断している間に、予想外の図形が一瞬だけ現れる課題です。
2つ目は、図形の動きを数えている間に、予想外の物体が画面を横切る課題です。
3つ目は、記号の中から目当ての数字を探している間に、別の物体が現れる課題です。
そのうえで、知能の実験の参加者には、視覚的な推論(目で見た情報をもとに考える力)とワーキングメモリのテストを受けてもらいました。
性格の実験では、ビッグファイブと呼ばれる5つの性格特性(外向性、協調性、誠実性、神経症傾向、開放性)、没入傾向、注意に関わる症状(ADHD〈注意欠如・多動症〉に関わるもの)、完璧主義に関わる特徴を測りました。
予想外のものに気づいた人の割合は、課題によって39%から66%まででした。
では、ある課題で気づいた人は、別の課題でも気づいたのでしょうか?
答えは「ほんの少しだけ」です。
ある課題で気づいた人は、別の課題でもわずかに気づきやすい傾向がありました。
しかしそのつながりは弱いものでした。気づきやすさに小さな個人の傾向はあるのかもしれませんが、「いつもよく気づく人」という強く安定した特徴があるとまでは言えませんでした。
知能に関わる測定も、一部の条件でだけ気づきと結びついていました。
たとえば、推論やワーキングメモリの一部のテストで点数が高い人は、やさしい条件でわずかに気づきやすくなっていました。
ところが、ある条件で「気づきやすい」と予測した測定が、別の条件では逆に「気づきにくい」と予測することもありました。
知能との関係は小さく、一貫していなかったのです。
性格では、さらに証拠が乏しくなりました。
どの性格の測定も、気づきを一貫して予測することはありませんでした。
知能の測定をすべて合わせても、性格の測定をすべて合わせても、気づくかどうかについての参加者どうしの違いは、ごくわずかしか説明できませんでした。
では、見落としは何で決まるのか?

研究を伝えた記事は、見落としが人ごとの安定した違いよりも、その場で求められることや状況の作りに左右されるのかもしれない、と見ています。
見落としは、決まった人に起こる弱点というより、その場の状況しだいで起こるものなのかもしれません。
ただし、状況の影響についても、今回の結果はすっきりしていません。
図形の動きを数える課題では、やさしい条件でも難しい条件でも、気づいた人はどちらも約45%でした。
「本来の作業が難しいほど見落としが増える」というよく知られた結果は、今回は再現されなかったのです。
研究を伝えた記事は、いくつかの限界も挙げています。
オンラインの実験だったため条件の管理に限りがあり、参加者には高齢の人が比較的少なかったといいます。
また、一度課題を経験した人は内容を覚えていて、次は予想外のものをわざと探すかもしれないため、同じ人の見落としを何度も測るのは難しいそうです。
待ち合わせで友人を素通りしてしまっても、自分の頭のせいにして落ち込む必要はなさそうです。
参考文献
Intelligence and personality traits do not predict inattentional blindness (PsyPost)
https://www.psypost.org/intelligence-and-personality-traits-do-not-predict-inattentional-blindness/
元論文
Do individual differences in cognitive ability or personality predict noticing in inattentional blindness tasks?
https://doi.org/10.1098/rsos.260708
ライター
天道銀河: 科学、歴史、心理、宇宙、生き物、テクノロジーなど、気になるものにはジャンルを問わず首を突っ込む雑食系ライターです。ひとつの分野を深く極めるというより、さまざまな知識を広く集め、意外なつながりを見つけるのが好きです。専門家ほど深くはなくても、好奇心の広さなら負けません。「こんな世界もあるのか」と思えるような、面白くてわかりやすい話題を届けていきます。
編集者
ナゾロジー 編集部
