公園の池でカモが水にもぐって顔を出すと、背中の羽根の上を水が玉になって転がっていきます。
アメリカ・モンタナ州の地層から見つかった恐竜のふんの化石の中に、鳥の羽根が残っていました。
恐竜のふんの化石から羽根が見つかったのは、これが初めてです。
しかもその羽根は立体の形のまま残っていて、恐竜がいた時代の岩から見つかった羽根の中でも、おそらく一番よい状態だといいます。
時代は、約6600万年前に恐竜の時代を終わらせた大量絶滅の少し前です。
この羽根は、今の鳥の祖先が大量絶滅を生きのび、ほかの多くの鳥が消えた理由を考える手がかりになるかもしれません。
研究内容の詳細は2026年9月1日に『Current Biology』にて発表されました。
目次
- 恐竜のふんの割れ目から、羽根がのぞいていた
- ふんの中の羽根は、どんな鳥のものだったのか?
- なぜ今の鳥は生き残り、この鳥は消えたのか?
恐竜のふんの割れ目から、羽根がのぞいていた

今回「初めて」なのは、羽根の化石が見つかったこと自体ではありません。羽根の化石はこれまでにも見つかっています。初めてなのは、恐竜のふんの化石の中から羽根が見つかったことです。とはいえ、羽根の化石そのものも、見つかる数はとても少ないものです。
けれども羽根は、恐竜のなかで空を飛ぶ力がどう生まれたのかを知るための、大事な手がかりです(恐竜の嘔吐物の化石から「新種の翼竜」を発見)。
今の鳥のグループ(現生鳥類)がどのように現れたのかを知るうえでも、羽根は欠かせません。
白亜紀という時代の前半の地層からは、骨といっしょに残った羽根がいくつもの場所で見つかっています。
ところが後半の地層からは、ほとんど見つかっていません。
そして今の鳥のグループが姿を見せたのは、この白亜紀の後半です。
そのため、今の鳥が現れるころに鳥の羽根がどう変わっていったのかは、ほとんど分かっていませんでした。
そこへ出てきたのが、今回の恐竜のふんの化石です。
ふんの化石は、糞石(ふんせき)とも呼ばれます。
この糞石は2016年、モンタナ州のヘルクリーク層という地層で掘り出されました。
掘り出したのは、シカゴのフィールド自然史博物館で古生物を研究するジンマイ・オコナーさんの同僚です。
化石が出たのは、白亜紀の終わりの地層の、いちばん上の部分でした。
つまり、恐竜の時代を終わらせた大量絶滅の少し前のものです。
ふんの持ち主は、獣脚類(じゅうきゃくるい)と呼ばれる恐竜のなかまで、中くらいの大きさのものだったとみられています。
オコナーさんによると、この糞石には表面にたまたま割れ目が入っていて、そこから羽根が1本まるごと見えていたそうです。
この幸運な割れ目がなければ、中に羽根があることに気づかなかったかもしれない、とオコナーさんは話しています。
ふんの中に羽根があったのですから、この恐竜は羽根をもつ生き物を食べたと考えられます。
では、恐竜のふんの中に羽根を残したのは、どんな鳥だったのでしょうか?
ふんの中の羽根は、どんな鳥のものだったのか?

研究チームは、マイクロCT(中身を3Dの地図のように写し取る装置)で、糞石の中を調べました。
すると、割れ目から見えていた1本のほかにも、羽根がいくつも入っていました。
羽根のほかに、鳥の脚の骨と魚のうろこも見つかりました。
こうした骨から、羽根の持ち主はヘスペロルニス類という鳥のなかまだと考えられています。
ヘスペロルニス類は、空を飛べず、水辺でくらしていた鳥のなかまです。
今の鳥にかなり近い親せきですが、今の鳥のグループには入りません。
羽根のつくりも、水辺の鳥だという見立てと合っていました。
羽根の真ん中には軸が通っていて、そこから細い枝のような毛がたくさん生えています。
今回の羽根では、この細い毛がとても密に並んでいました。
こうした並び方は、今の水鳥の羽根にも見られる、水がしみこみにくくなるしくみです。
研究者たちは、この羽根の一部は今のペリカンの羽根と同じくらい水をはじいたかもしれない、と報告しています。
では、いっしょに出てきた魚のうろこは何だったのでしょうか。
うろこは、ガーという魚のとても小さなものでした。
研究チームは、これをこの鳥の最後の食事だとみています。
鳥は死ぬ少し前に、魚を食べていたと考えられるわけです。
研究チームの見立てどおりなら、鳥がガーを食べ、その鳥を恐竜が食べ、残ったふんが化石になったことになります。
そうだとすれば、1つのふんの化石に「食べた」と「食べられた」の2段重ねの手がかりが残っていたことになります。
なぜ今の鳥は生き残り、この鳥は消えたのか?

この羽根には、もう1つ目を引く特徴がありました。
羽根の真ん中の軸は断面が四角く、中が小さな空気の部屋でつまっていたのです。
今の鳥では、このつくりが羽根を軽く保ちながら、飛ぶのに十分な硬さを与えています。
オコナーさんは「恐竜の時代でこれを見るのは初めてです」と話しています。
軽くて硬い今どきの羽根のつくりは、大量絶滅より前に、すでにできあがっていたことになります。
その一方で、マイクロCTで見つかったほかの羽根の中には、今はもう絶えた形のものもありました。
それらは今の鳥の羽根より古いタイプで、ひものように細長い羽根でした。
こうした羽根では、体の熱を保つのが難しかったかもしれません。
今の鳥にかなり近い鳥のなかまでも、この古いタイプの羽根は大量絶滅のときまで残っていた、と研究チームはみています。
ここで、大量絶滅のことを思い出してください。
この大量絶滅は、小惑星の衝突がきっかけで起きたとされています。
衝突のあとには、地球がひどく冷えこむ「衝突の冬」が来たという説があります。
今の鳥の祖先はこの出来事を生きのびましたが、ヘスペロルニス類をふくむほかの多くの鳥は絶えてしまいました。
研究チームは、今の鳥のグループの外にいた仲間がみな消えたことに、羽毛のちがいが関わったかもしれないと考えています。とくに、体の熱を逃がさない役目をもつ体の羽根のちがいです。
オコナーさんも、熱を保ちにくい羽根のせいで、ヘスペロルニス類とその近い親せきが衝突のあとの厳しい寒さを乗りこえられなかったのかもしれない、と話しています。
ただし、これはまだ確かめられていない仮説です。
確かめるには、同じ時代のいろいろな鳥の羽根が、もっとたくさん必要だといいます。
そして前に書いたとおり、羽根の化石はとても珍しいものです。
それでも今回の発見で、ふんが羽根をよく守ってくれる場所になることが分かりました。
オコナーさんは「みんな探し始めるべきです」と呼びかけています。
これからの化石ハンターは、ふんの化石を見つけるたびに、まず割れ目をのぞきこむことになりそうです。
参考文献
These are the first feathers ever found in fossilized dinosaur poop (Science News)
https://www.sciencenews.org/article/dino-poop-fossil-feathers-extinction
元論文
Bird feathers from a Late Cretaceous coprolite
https://doi.org/10.1016/j.cub.2026.08.054
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部
