映画館を出たとたん、恋人と同じ場面の話を同時に切り出して、思わず顔を見合わせることがあります。
恋人と「今、同じことを感じている」と思える瞬間は、ふたりの関係の満足度と結びついているようです。
恋人のいる人たちの日記を調べた研究で、この感覚をよく味わえた日ほど、関係への満足や充実感が高いという傾向が見られました。
「恋人は本当の自分を分かってくれている」という感覚も、同じように高くなっていました。
しかもこのつながりは、「性格が似ている」と感じるかどうかとは別に見られたといいます。
研究内容の詳細は2026年9月17日に『Journal of Social and Personal Relationships』にて発表されました。
目次
- 恋人と「同じように感じている」と思える日は、関係の満足度も高かった
- 「似ている」と「同じように感じる」はどう分けたのか?
- 私たちの恋愛に何が関係する? まだ分からないこと
恋人と「同じように感じている」と思える日は、関係の満足度も高かった

恋人と一緒にいて、「あ、今この人も同じことを感じている」と思える瞬間があります。
研究の世界では、この感覚を「Iシェアリング」と呼びます。
自分の心の中の体験(主観的な体験)を、相手と同じように味わっていると感じること、という意味です。
たとえるなら、同じ曲を聞いて同じところで胸が高鳴ったと感じる、そんなイメージです。
これまでの研究では、恋人とのIシェアリングを感じる人ほど、関係に満足しやすく、「恋人は本当の自分を知っている」と感じやすい傾向が示されていました。
今回の研究は、それを「1日ごと」に細かく見ようとしたものです。
最初に204人がアンケートに答え、続く日記の調査には162人が参加しました。
その結果、恋人と感じ方を共有していると思える回数が多いほど、調べたすべての項目が高いという関係が見つかりました。
項目は、関係への満足、関係の充実感(ふたりの関係がいきいきと育っている感じ)、「恋人は本当の自分を分かっている」という感覚、恋人に思いやりのある行いをしていると本人が感じているかの4つです。
そしてこのつながりは、「性格が似ている」と感じることとは別に残っていました。
「性格が似ている」と感じることとは別に、同じように感じる瞬間がふたりの関係と結びついている可能性があるわけです。
ただし、これは関係値が「一緒に動く」という関係を見つけたもので、共有の感覚が満足を生み出すと確かめたものではありません。
参加者の年齢や国といった詳しい条件も、論文の要旨には書かれていません。
では、「性格が似ている」と「同じように感じる」を、研究ではどうやって分けて調べたのでしょうか?
「似ている」と「同じように感じる」はどう分けたのか?

実はこの研究には、Iシェアリングとよく似た名前のもう1つの感覚が登場します。
それが「Meシェアリング」です。
こちらは、たとえば「自分と恋人は性格が似ている」と感じることを指します。
名前はそっくりですが、中身はけっこう違います。
Meシェアリングは、性格のような「その人らしさ」が似ているという感覚です。
一方のIシェアリングは、ある瞬間に心の中で感じていることが同じだという感覚です。
「性格が似ているから、同じように感じるんでしょ」と考える人もいるでしょう。
もしそうなら、関係の満足と結びついているのは、本当は性格の似かたのほうかもしれません。
そこで研究では、Meシェアリングとは別に、Iシェアリングだけでも関係の良さとのつながりが見られるかを確かめました。
その答えが、先ほどの「性格が似ていると感じることとは別に残っていた」という結果です。
もう1つの工夫が、日記を使ったことです。
調査は2段階になっていて、まず一度きりのアンケート(ある時点の様子を切り取る調査)を行い、そのあと日ごとの記録をつけてもらいました。
一度きりのアンケートで分かるのは、「共有を感じやすい人は、満足しやすい人でもある」という人どうしの比べっこです。
これに対して日ごとの記録なら、同じ人の中で、共有の感覚が多い日と少ない日を並べて見られます。
つまり「その日の感じ方」と「その日の関係の良さ」が一緒に上がり下がりするのかを、ふだんの暮らしに近い形でのぞけるわけです。
では、この結果は私たちの毎日の恋愛にどう関係してくるのでしょうか?
私たちの恋愛に何が関係する? まだ分からないこと

研究者たちは、日々のIシェアリングの多さが、恋愛のいくつもの別々の面と結びついていると考えています。
その中には、関係から得られる満足や充実感も含まれます。
ここで面白いのは、つながっていた項目の幅の広さです。
満足や充実感だけでなく、「本当の自分を分かってもらえている」という感覚や、恋人に思いやりのある行いをしているという本人の感覚とも関係していました。
恋人との相性というと、性格や趣味が合うかどうかを思い浮かべる人が多いかもしれません。
この研究は、その日その場で同じように感じられたかという小さな瞬間にも目を向ける見方を示しています。
とはいえ、まだ分からないことも残っています。
共有の感覚が満足を高めるのか、満足している日だから共有を感じやすいのか、その向きはこの研究だけでは決められません。
わざと共有の瞬間を増やせば関係が良くなるのかも、まだ確かめられていない問いです。
それでも、ふたりで同じものを見て同じように感じた瞬間は、ふだん思う以上に関係の中身と結びついているのかもしれません。
今夜、恋人と同じ場面で同時に吹き出したら、それはふたりの小さな記念日として、こっそり数えておいてもよさそうです。
参考文献
Seeing I to I Makes Sparks Fly: Daily Diary Investigation of I-Sharing and Relationship Quality (Journal of Social and Personal Relationships)
https://doi.org/10.1177/02654075261475433
元論文
Seeing I to I Makes Sparks Fly: Daily Diary Investigation of I-Sharing and Relationship Quality
https://doi.org/10.1177/02654075261475433
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部
