物知りでおしゃべり上手な子が、友だちの話の途中で待ちきれずに口をはさんでしまいます。
「頭がいい子なら、ADHD(注意欠如・多動症)の困りごとも軽く済むはず」と思う人は多いかもしれません。
実際、IQ(知能指数)が高いことは、ADHDの症状から子どもを守ってくれるものだと広く考えられてきました。
ところが中国の研究チームが、ADHDと診断された子ども5138人を調べたところ、話はそう単純ではありませんでした。
言葉の力をはかるIQが高い子ほど、集中の困りごとは少ない一方で、思いつきで動いてしまう「衝動性」は強めに出ていたのです。
高い知能は、いつでも味方になってくれるわけではないようです。
研究内容の詳細は2026年7月22日に『Translational Psychiatry』にて発表されました。
目次
- 言葉が得意な子ほど「衝動性」が強め? 5138人を調べて分かったこと
- 頭の働きのテストと脳の画像でも、同じ傾向が見えた
- IQが高くても、困りごとが消えるわけではない
言葉が得意な子ほど「衝動性」が強め? 5138人を調べて分かったこと

研究を行ったのは、中国の北京大学第六医院で働く精神科医、ルー・リウ氏とチウジン・チエン氏らのチームです。
対象は、6歳から16歳でADHDと診断された子ども5138人です。
ADHDは、集中が続かない「不注意」や、じっとしていられない「多動」、あとのことを考えずに動いてしまう「衝動性」といった特徴が見られる、脳の発達にかかわる特性です。
子どもたちは決まった形式の知能検査を受け、ADHDの症状は保護者が評価の用紙に答えて点数にしました。
この研究のポイントは、IQを中身ごとに分けて見たことです。
全体のIQは、大きく2つの部分からできています。
1つは「言語性IQ」で、言葉を使って考える力や、知っている言葉の多さ、話を理解する力をはかります。
もう1つは「動作性IQ」で、形や空間をとらえる力、パターンを見つける力、目で見るパズルを解く力など、言葉を使わない力をはかります。
まず全体のIQで見ると、IQが高い子ほどADHDの症状は全体として少なめでした。
ここまでは、多くの人の予想どおりです。
ところが言語性IQに注目すると、高い子ほど不注意は少ない一方で、衝動性の点数は高くなっていました。
研究チームはこれを「もろ刃の剣」のような効果と呼んでいます。
言葉の力は、集中の面では困りごとが少ない側に、衝動の面では多い側に結びついていたわけです。
ただし、この研究は子どもたちの様子を調べて傾向を見る「観察研究」です。
言語性IQが高いから衝動的になる、という原因と結果の関係までは示されていません。
また調べたのはADHDと診断された子どもたちなので、ADHDではない子にそのまま当てはまるとは言えません。
では研究チームは、この関係をどうやって確かめ、どこまで説明できたのでしょうか?
頭の働きのテストと脳の画像でも、同じ傾向が見えた

研究チームはまず、行動の裏にある頭の働きを調べました。
使ったのは「実行機能」のテストを受けた3676人のデータです。
実行機能とは、毎日の生活をこなしたり、目標を達成したりするのに必要な頭の働きのことです。
その中には、短い間だけ情報を頭に置いて使う「ワーキングメモリ」や、急に湧いた「やりたい」を止める「抑制」の力が含まれます。
調べると、言語性IQも動作性IQも、高い子ほどワーキングメモリの成績がよいという関係がありました。
情報を頭に置いておけると、やるべきことに集中しやすくなります。
IQが高い子ほど不注意が少ないという結果と、話が合うわけです。
一方、動作性IQと衝動性の関係は、年齢によって形を変えていました。
年下の子どもでは、動作性IQが高いほど衝動性は低めでした。
ところが12歳以上になると、関係は「U字」の形になりました。
U字とは、動作性IQがいちばん低い子と、いちばん高い子の両方で、衝動性が高くなっていたという意味です。
そして「抑制」の力のテストでも、動作性IQとの関係はまっすぐではなく、行動で見られたU字とよく似た形になっていました。
研究チームはここから、行動に出た症状の裏に、情報の処理のしかたの違いがある可能性を読み取っています。
さらに262人の子どもについては、MRIという検査で脳の形を画像にして調べました。
注目したのは脳の「表面積」(脳の表面に広がるしわを広げたときの広さ)で、特に、これまで注意や多動との関係が指摘されてきた場所です。
すると、言語性IQが高い子ほど、「吻側前帯状皮質(ふんそくぜんたいじょうひしつ)」と呼ばれる場所の表面積が大きくなっていました。
ここは、感情を整えたり、心の中のぶつかり合いを解決したり、衝動をコントロールしたりすることにかかわる場所です。
また動作性IQは、脳全体の表面積とのあいだに、まっすぐではない関係を示しました。
研究チームは、行動、頭の働きのテスト、脳の画像という3つの結果が、同じ方向を指していると見ています。
そのうえで、不注意と衝動性には、それぞれ別の頭の仕組みがかかわっている可能性があると考えています。
ただしMRIを撮った子どもは全体の一部で、この結果も原因を示すものではありません。
IQが高くても、困りごとが消えるわけではない

最後に研究チームは、1100人の子どもを、ふだんの勉強や人づきあいでどれくらい困っているかをもとにグループに分けました。
保護者が答えた「生活の困りごと」の点数から、データの中に自然にできるまとまりを統計の手法で探したのです。
すると、子どもたちは3つのグループに分かれました。
1つ目は「困りごとが軽い」グループで、IQがいちばん高く、勉強の問題もいちばん少ない子たちです。
ところがこのグループの子どもたちにも、はっきりした衝動性が見られました。
知能が高くても、ADHDの症状がすべて消えるわけではなかったのです。
2つ目は「勉強の困りごとが重い」グループで、IQがいちばん低く、不注意もいちばん強い子たちでした。
この子たちは衝動性がほとんど目立たず、行動を止めることよりも、集中することや学ぶことに大きな困りごとを抱えていると見られます。
3つ目は、IQも症状の重さも、その中間にあたるグループです。
この分け方から、IQが高ければ人づきあいの困りごとも自然に少なくなる、というわけではないことが見えてきました。
IQが高いADHDの子も、平均的なIQの子と同じくらい、人づきあいで苦労している場合があるのです。
以前から一部の研究者は、知能の高さが困りごとを見えにくくして、診断を難しくすることもあると考えていました。
研究チームは、IQがどの面でも同じように子どもを守ってくれるという見方は当てはまらないとしています。そのうえで、特にIQが高い子では、衝動を止める力の弱さに目を向ける必要があると述べています。
では、なぜ言葉の力が高いと衝動性が強めに出るのでしょうか?
この研究を紹介した海外の科学ニュースでは、ひとつの可能性が挙げられています。
言葉の力が高い子は、人とのやりとりをすばやくこなせるのかもしれません。
そのすばやさが、知らないうちに、考える前に動くやりとりのくせを強めていくこともありうる、という見方です。
ただしこれはあくまで仮説で、今回の研究で確かめられたことではありません。
少なくとも、IQの高さだけを見て「この子は大丈夫」と決めてしまうのは、早すぎるのかもしれません。
答えを言いたくてうずうずしているあの子の手は、頭の回転に体が追いつこうと、全力で走っている最中なのかもしれません。
参考文献
High intelligence may exacerbate impulsivity in children with ADHD (PsyPost)
https://www.psypost.org/high-intelligence-may-exacerbate-impulsivity-in-children-with-adhd/
元論文
The paradox of high IQ in ADHD: dissociable effects on inattention and impulsivity – insights from behavior, cognition &brain in 5138 children
https://doi.org/10.1038/s41398-026-04270-5
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部
