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金星は衛星を飲み込んだ可能性がある――灼熱地獄への引き金か


アメリカのカリフォルニア大学リバーサイド校(UCR)などで行われた研究によって、金星はかつての衛星を逆に引きずり寄せ、飲み込んでしまった可能性が高いことが明らかになりました。


地球とそっくりな大きさを持つ金星に衛星がない理由は長く謎とされてきましたが、衛星を失うのに、別の天体の衝突のような大事件は必要なかったのです。


研究者は「この発見をしたときは衝撃を受けました。幅広いシナリオを調べていたので、きっとさまざまな結果が出るだろうと思っていたのに、どれもほとんど同じ方向(衛星を飲み込む方向)へ向かったのです」と述べています。


では、地球の月はなぜ無事で、金星の衛星だけが落ちてしまったのでしょうか?


研究内容の詳細は2026年9月14日に『The Astrophysical Journal』にて発表されました。




目次



  • なぜ金星には衛星がないのか?
  • 衛星の運命は「惑星の自転」と「衛星の公転」の速さ比べ
  • 金星の灼熱地獄は衛星の落下が引き金かもしれない

なぜ金星には衛星がないのか?


画像
Credit:Canva

夜空を見上げれば、そこには月。


地球に住む私たちにとっては、当たり前の光景です。


ところが太陽系を見渡すと、水星と金星には衛星が1つもありません。


とりわけ不思議なのが金星です。


金星は大きさも重さも地球とほぼ同じで、「地球の双子」とも呼ばれます。


それなのに、太陽のまわりを回る向きとは逆向きに243日もかけてゆっくり自転し、衛星を1つも持っていないのです。


金星に衛星がない理由として、これまで主に2つの考えが語られてきました。


1つは、金星がそもそも衛星を生むような大衝突を経験しなかったという考えです。


地球の月は、若い地球に大きな天体がぶつかり、飛び散った破片が集まって生まれたと考えられています。


その大衝突が、金星には起きなかったのかもしれないというわけです。


もう1つは、金星にもいったん衛星ができたものの、あとから別の天体がぶつかって衛星を壊してしまったという考えです。


衛星は生まれなかったか、何かに壊されたか。


どちらも筋の通った説明です。


しかし衛星には、もう1つの最期があります。


ほかの天体にぶつけられることもなく、自分の惑星に引きずり寄せられて落ちていく、という最期です。


UCRの天体物理学者で筆頭著者のスティーブン・ケイン氏と、フランスのボルドー大学の研究者らのチームは、この3つ目の道を確かめることにしました。


金星に大衝突で衛星ができたとしたら、その衛星は今日まで生き残れたのか。


衛星の重さや金星の回転の速さを幅広く変えながら、これを体系的に計算した例はまだなかったのです。


衛星の運命は「惑星の自転」と「衛星の公転」の速さ比べ


衛星の運命は「惑星の自転」と「衛星の公転」の速さ比べ
衛星の運命は「惑星の自転」と「衛星の公転」の速さ比べ / Credit:Canva

衛星が惑星から遠ざかっていくのか、それとも近づいていくのか。


それを決めるのは、惑星の自転と衛星の公転の「速さ比べ」です。


衛星は、惑星の重力に引かれる力と、公転によって外へ向かう遠心力が釣り合うことで、惑星のまわりを回り続けています。


ただ中心の惑星は完全に固まった球体ではないため、衛星の引力で、惑星の表面はわずかに衛星のほうへ盛り上がり「コブ」のような質量の偏りが発生します。


惑星の自転のほうが速いと、この「コブ」は自転に運ばれて衛星より先へ進み、コブが持つ重力で衛星を前へ引っ張ります。


惑星規模のコブはその質量によって惑星の重心とは異なる無視できない重力源となり、惑星の自転によって衛星の公転を加速させることになります。


そして公転の勢いが増した衛星は遠心力が重力を上回り、少しずつ外側の軌道へ移っていきます。


実際、地球は月の公転より約27倍も速く回っているので、月は年に約4cmのペースで離れていく側にいます。


(※これまでの研究により、地球が月を生むことになるジャイアントインパクトを経験した直後では、地球は5時間ほどで1回転していたと考えられています。)


反対に惑星の自転のほうが遅いと、コブは衛星より遅れ気味になり、今度は衛星を後ろへ引っ張ります。


公転の勢いをそがれた衛星は遠心力が弱まり、少しずつ内側へ落ちていきます。


金星の場合、1回自転するのに地球時間で243日も要することが知られており、もし衛星があったとしたら、金星へ落下する運命は免れないでしょう。


では、生まれたばかりで、今よりずっと速く回っていた金星ならどうだったのでしょうか。


この場合、衛星は最初こそ離れていきますが、徐々に変化が出てきます。


実は衛星が外へ移るための勢いは、無から湧いてくるのではなく、惑星の自転の勢いを吸い取ったものです。


そのぶん、惑星の自転にはブレーキがかかります。


このとき、最初の金星の自転速度が十分でないと、衛星が逃げ切る前に金星の自転がどんどん遅くなり、やがて衛星の公転のほうが速くなって、衛星は近づく側へ転じます。


加えて衛星の重さも重要になります。


重い衛星ほど安定して回っていられそうですが、実際は逆です。


衛星が2倍重くなると、金星にできるコブは2倍大きくなり、そのコブを引き戻す衛星の引力も2倍になります。


そのため金星の自転にかかるブレーキは4倍に強まりますが、衛星のほうは自分も2倍重いぶん動きにくく、外へ逃げる速さは2倍にとどまります。


こうして重い衛星ほど、金星の自転があっという間に衛星の公転に追い抜かれてしまうのです。


研究者たちは、この仕組みをベースに、金星と衛星の関係を計算したモデルを作成しました。


結果、初期の金星が今の486倍の速さで回り、1日が12時間だった場合、地球の月と同じ重さの衛星は45億年生き延びることが示されました。


ただし、生き延びられる条件の幅は、地球の月よりずっと狭いものでした。


太陽に近い金星では、衛星が金星の近くを回るしかなく、近い衛星ほど潮のブレーキが急激に強まるうえ、太陽の潮の力も金星の回転を遅らせるからです。


一方、1日が16時間を超えると、衛星は重さにかかわらず100万年もたたずに落ちてしまうことが示されました。


また金星がもっと速く回っていても、衛星が地球の月の2倍以上だった場合、多くの条件でおよそ3000万〜17億年のうちに速さ比べがひっくり返り、潮の力で引き裂かれる距離(ロッシュ限界)まで引きずり込まれました。


ケイン氏は「この発見をしたときは衝撃を受けました。幅広いシナリオを調べていたので、きっとさまざまな結果が出るだろうと思っていたのに、どれもほとんど同じ方向へ向かったのです」と語っています。


金星の灼熱地獄は衛星の落下が引き金かもしれない


金星の灼熱地獄は衛星の落下が引き金かもしれない
金星の灼熱地獄は衛星の落下が引き金かもしれない / Credit:Canva

衛星を失ったことは、金星にとって小さな出来事ではなかったかもしれません。


衛星が墜落するときには、莫大なエネルギーが金星の地表と大気に注ぎ込まれます。


論文は、それが金星の水の喪失や、灼熱の温室状態への移行(暴走温室)に関わった可能性を指摘しています。


また、砕けた衛星の破片が降り注いだなら、大気に含まれる希ガスなどの比率にその名残が刻まれている可能性があり、NASAの金星探査機ダヴィンチ(DAVINCI)による大気の直接観測で確かめられるかもしれないと論文は述べています。


この結果が示す意味は、金星だけにとどまりません。


恒星の近くを回り、自転がゆっくりな岩石の惑星は、大きな衛星を持ち続けにくいと考えられるからです。


ケイン氏は「他の恒星を回る地球の双子について考えるとき、人々が抱く疑問の一つが『その惑星に衛星はあるのか』です。私の研究は、そうしたケースの多くにとって憂慮すべきシナリオを示しています。自転が十分に速くなければ、衛星は地表に墜落し、その惑星の歴史の流れを変えてしまうでしょう」と話しています。


月の浮かぶ夜空は、地球が回転の勢いを保ってきたからこそ手に入った眺めなのかもしれません。


全ての画像を見る

参考文献

Venus ate its moon
https://news.ucr.edu/articles/2026/09/14/venus-ate-its-moon

元論文

Tidal Demise: The Evolution and Fate of a Hypothetical Venus Moon
https://doi.org/10.3847/1538-4357/ae9d6c

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。
大学で研究生活を送ること10年と少し。
小説家としての活動履歴あり。
専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。
日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。
夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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