創造力は、人を喜ばせる発明にも、人を困らせる仕返しにも使われます。
では、その力を復讐に向けたとき、ひときわ独創的な案を出しやすいのは、どのような人なのでしょうか。
米国のテキサス州立大学の研究チームは、自己愛傾向が強い人や、日ごろから悪意ある発想や行動が多いと答えた人ほど、独創的で悪意のある復讐案を多く生み出す傾向を報告しました。
調べたのは、大学生が架空のトラブルを読んで考えた仕返しのアイデアです。
研究を率いた心理学教授のナタリー・セバロス氏は「社会は一般に創造性を良いものと捉えますが、それを他人に危害を加えるために使う人もいます」と述べています。
研究は2026年8月1日付の『Journal of Intelligence』に掲載されました。
目次
- 創造力の「暗い側面」を調べる
- 報酬を踏み倒した隣人に、どう仕返しするか
- なぜ、創造力を人を傷つけるために使うのか
創造力の「暗い側面」を調べる

芸術や発明に限らず、人をだましたり、嫌がらせを考えたりするときにも、発想の工夫は使われます。
こうした創造性の暗い側面が「ダーククリエイティビティ」で、特に、独創的なアイデアを意図的に他人を傷つけるために使うことを「悪意ある創造性」と呼びます。
その研究で注目されているのが、「ダークトライアド」と呼ばれる3つの性格傾向です。
自己愛、つまりナルシシズムは、自分を特別視し、周囲からの称賛を強く求める傾向を指します。
サイコパシーは他者への共感や罪悪感の乏しさ、マキャベリズムは自分の利益のために計画的に人を操ろうとする傾向です。
先行研究では、これらの特徴と、他人を傷つける新しい方法を考え出すこととの関連が調べられてきました。
たとえば2021年のメタ分析では、3つのうち自己愛が、とりわけ自己申告による一般的な創造性と結びつきやすいとされています。
ただ、「自分は創造的だ」と思っていることと、実際に独創的な案を出せることは同じではありません。
そこで今回の研究では、自己愛の強さなどの性格や過去の行動などのデータも収集し、その場で考えた復讐案の創造性の高さと比較することにしました。
報酬を踏み倒した隣人に、どう仕返しするか

研究チームは、米国の1つの大学に通う18〜25歳の学生248人の回答を分析しました。
参加者の約82%は女性でした。
性格や日常の問題解決への自信に加え、うそを工夫したり、不当な扱いへの仕返しやいたずらを考えたりする頻度を尋ねています。
発想課題の舞台は、隣人とのトラブルです。
隣人に部屋の改装を手伝ってほしいと頼まれ、報酬を約束されます。
ところが仕事を終えると、隣人は「そんな約束はしていない」と支払いを拒みます。
参加者は、この相手への独創的な復讐案をできるだけ多く書き出しました。
現実には実行しない案でもよい、と伝えられています。
回答は、参加者の性格などを知らない2人の評価者が、独創性と悪意の程度を別々に採点しました。
研究チームは案の総数に加え、「相手に害を与え、かつ独創的」という両方の基準を満たす案の数を調べました。
たとえば、隣人を単純に殴る案は、悪意はあっても独創性に乏しいとされる一方、隣人の庭に侵入性の植物を広げるような案は、長期的に相手を困らせる発想として、より独創的だと評価されます。
結果として、自己愛の強い人や、過去の悪意ある行動・発想を多く申告した人ほど、有害性と独創性の両方を備えた復讐案を多く挙げる傾向がありました。
とくに過去の行動・発想との関連は、自己愛を含む性格や問題解決への自信を考慮しても残りました。
単に「自己愛が強い人は、以前から仕返しもよく考えていた」という重なりだけでは説明できなかったのです。
一方、サイコパシーやマキャベリズムの強さと、今回の復讐課題の成績との明確な結びつきは確認されませんでした。
「ダークな性格なら何でも同じように復讐の発想につながる」という結果ではなかったのです。
なぜ、創造力を人を傷つけるために使うのか

研究チームが挙げる説明の一つは、自己愛の強い人にとって、不当な扱いが自尊心への脅威になりやすいというものです。
研究チームは、復讐の工夫が、傷ついた気持ちを和らげ、自分が状況を動かせる感覚を取り戻すために使われる可能性を指摘しています。
もう一つの説明候補が、過去の経験による学習です。
人をだましたり、仕返しをしたりして望む結果を得ると、その方法をまた使いやすくなるかもしれません。
それが繰り返されれば、トラブルに直面したときに、悪意ある案を考えることが習慣になっていく可能性があります。
いわば、悪知恵にも「経験によって磨かれる部分」があるのではないか、という仮説です。
ただし、今回の研究は一時点の調査であり、過去の行動が復讐の発想を鍛えたという因果関係を確かめたものではありません。
性格や過去の回答などを合わせても、独創的で悪意ある案の数の個人差を説明できたのは約9%で、性格だけから誰かの危険性を決めつけられる結果ではありません。
それでも、今回の研究では、実際に書かれた復讐案を調べることで、性格や問題解決への自信だけでは捉えられない部分に、日ごろの悪意ある発想や行動が結びついていたことがみえてきました。
今後、人を長期的に追跡すれば、悪意ある工夫で得た成功体験が、次の復讐の発想を育てるのかを検証できます。
創造力の暗い側面を理解するには、才能の大きさだけでなく、その力を何のために、どう使ってきたのかにも目を向ける必要があるようです。
元論文
Self-Reports of Past Malevolent Behavior and Narcissism as Predictors of Malevolent Creativity on a Real-World Ideation Task
https://doi.org/10.3390/jintelligence14080176
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。
大学で研究生活を送ること10年と少し。
小説家としての活動履歴あり。
専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。
日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。
夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部
