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「スーパー氷」、第二次大戦の氷の軍艦計画から生まれた――極地や宇宙の建材をめざす


製氷皿から出したばかりの氷は、グラスに落としただけで角がぱきっと欠けます。


氷は硬いのに、力を受けると急に割れる。


そのもろさを、魚のタンパク質で変えた研究があります。


イスラエルのヘブライ大学の研究チームが、割れる前に純粋な氷の70倍のエネルギーを受け止める氷を作りました。


比べたのは、実験室で作った円柱の試験片と、純粋な氷です。


壊れ方そのものが変わった氷です。


使ったのは、魚が持つ「氷にくっつくタンパク質」を作り変えたのりと、セルロース(木の繊維を作っている成分)の細かい粒。


着想のもとは、第二次世界大戦のさなかに真面目に検討された「氷で軍艦を造る」計画です。


戦時中の案は木のパルプを氷に混ぜるだけでしたが、今回は繊維と氷を分子のレベルで結び付けます。


新しい氷は「バイオパイクリート」、あるいは「スーパー氷」と呼ばれています。


そもそも、なぜ氷で軍艦を造ろうとしたのでしょうか。




目次



  • 鉄が足りない戦時中に生まれた「氷の軍艦」計画
  • 魚のタンパク質を「のり」にして、繊維を氷につなぐ

鉄が足りない戦時中に生まれた「氷の軍艦」計画


鉄が足りない戦時中に生まれた「氷の軍艦」計画
鉄が足りない戦時中に生まれた「氷の軍艦」計画 / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部

鉄とアルミが足りなかったからです。


第二次世界大戦のさなか、イギリスの発明家ジェフリー・パイクが、ほぼ凍った水だけで船を造る案を出しました。


連合国側は、この案を真面目に検討しました。


氷山の上を平らに削って、史上最大の空母にする。


名付けて「ハバクック計画」。


ところが、ノーベル化学賞を受けた化学者マックス・ペルツが、天然の氷山では大きさも安定さも足りないと指摘します。


そこでパイクが考えたのが、水に木のパルプを混ぜて凍らせた、丈夫な氷でした。


型に流しやすく、削りやすく、安く作れる。


この氷は「パイクリート」と名付けられ、見込みがあると思われました。


しかし、遠くまで運べる船が急に手に入るようになったこともあり、計画はほとんど進まないまま終わります。


以来パイクリートは、技術者の間で「変わった材料」として知られるだけでした。


弱点も、はっきりしていました。


研究チームによると、木のパルプのセルロース繊維が氷の中でばらばらに散らばっているため、強さに限りがあるのです。


繊維をもっと細かくし、細かい網の目を立体の骨組みとして結び付ける。


そうすれば、氷はもっとコンクリートに近づくと研究チームは考えました。


では、氷の中で繊維同士をどうやって結び付けるのでしょうか。


魚のタンパク質を「のり」にして、繊維を氷につなぐ


魚のタンパク質を「のり」にして、繊維を氷につなぐ
魚のタンパク質を「のり」にして、繊維を氷につなぐ / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部

研究チームが「のり」に選んだのは、魚が持つ、氷にくっつくタンパク質です。


遺伝子を組み換えて、炭水化物(セルロースもこの仲間)にもくっつく部品を付け足しました。


氷にも繊維にも、両方にくっつく。


このタンパク質を、セルロースのナノ粒子(目に見えないほど細かい粒)を散らした液に混ぜ、凍らせました。


すると、氷の中にしなやかな分子の骨組みができ、引っ張ったときの強さが大きく上がりました。


研究を率いた生化学者、イド・ブラスラフスキー氏の言葉です。


「繊維を氷に混ぜるだけで終わらせず、材料同士が分子のレベルでどうつながるかを操りたかったのです」


変わったのは、強さだけではありません。


急に砕ける代わりに、ずっと多くのエネルギーを受け止めながら、少しずつ形を変えるようになりました。


円柱の試験片で測ったのが、冒頭の70倍という数字です。


この結果は、有望な概念実証(考えが成り立つことを示す実験)と位置づけられています。


北極や南極で使う材料の候補として、評価する価値があるとされています。


持続可能な建材が求められる中で、氷を建材にする考えへの関心も再び高まっています。


ナゾロジーでは以前、廃コンクリートと二酸化炭素から新しい建材を作る研究を紹介しました(廃コンクリートとCO2でつくる新しい建材が開発される)。


ただし、この試験は実験室で作った円柱の試験片で行われたものです。


極地の建物に使えるかどうかは、これから評価する段階です。


のりのタンパク質を作るのは、遺伝子を組み換えた細菌。


試験片の分なら足りても、小さな建物ひとつ分となると、二酸化炭素を出さずに細菌を育てる大きな設備が要ります。


一方で言えるのは、繊維をただ混ぜるのではなく分子のつながりを設計すれば、氷の強さと壊れ方を変えられるということです。


「氷は割れやすい」という当たり前が、繊維のつなぎ方ひとつで変わりうると、小さな円柱が示しました。


氷山を空母にする話は立ち消えましたが、氷を建材にする話は、まだ凍り付いてはいないようです。


全ての画像を見る

参考文献

WWII battleship made from ice inspires strong new building material (New Atlas)
https://newatlas.com/engineering/super-ice-new-material/

廃コンクリートとCO2でつくる新しい建材が開発される(ナゾロジー)
https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/97883

ライター

天道銀河: 科学、歴史、心理、宇宙、生き物、テクノロジーなど、気になるものにはジャンルを問わず首を突っ込む雑食系ライターです。ひとつの分野を深く極めるというより、さまざまな知識を広く集め、意外なつながりを見つけるのが好きです。専門家ほど深くはなくても、好奇心の広さなら負けません。「こんな世界もあるのか」と思えるような、面白くてわかりやすい話題を届けていきます。

編集者

ナゾロジー 編集部

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