ライブの帰り道は、街灯もコンビニの看板も、なぜかその歌手の色に見えてきます。
昆虫の研究者が選んだ置き場所は、新しく見つけた虫の学名。
アメリカのカリフォルニア大学リバーサイド校の研究チームが、オーストラリアの虫から12の新種を見つけました。
見つかったのは、木の花を食べる小さなカメムシの仲間です。
そのうち、黄色い体に赤い差し色が入った4種に、歌手テイラー・スウィフトにちなむ名前が付けられました。
属の名前は、新しく作られた「スウィフティフィルス」です。
名前の由来は、彼女の見た目と、アルバムの題名です。
研究内容の詳細は2026年9月9日に『Insect Systematics &Evolution』にて発表されました
目次
- 「黄色に赤」の小さな虫が、歌手の名前をもらうまで
- 「似た色」のわけと、名前を付けることの意味
「黄色に赤」の小さな虫が、歌手の名前をもらうまで

舞台はオーストラリアに生える木、モクマオウです。
英語では「シーオーク」と呼ばれ、この木の花を食べる小さなカメムシの仲間が暮らしています。
大きさはレンズ豆(平たい小さな豆)より小さく、目が大きいのが特徴です。
研究チームは、この木から集められて保管されていた593点の標本を調べました。
標本は、オーストラリア各地のモクマオウの仲間から集められたものです。
体のつくりと色、そして遺伝子を、すでに知られている種と比べる。
その結果、12の新種が見つかり、5つの新しい属に分けられました。
種が生徒なら、属(ぞく)はクラスです。似た者どうしを一つの部屋にまとめる入れ物と考えてください。
新しい属のなかに、「スウィフティフィルス」と名付けられたものがあります。
ここに入った4種が、テイラー・スウィフトにちなんだ名前を持っています。
決め手は、黄色い体に入った赤い差し色でした。
研究チームの昆虫学者サラ・シュローダー氏は、こう話しています。
「テイラーといえば赤い口紅が有名です。ファンは親しみを込めてブロンディと呼びます」
ブロンディは、金髪の人を指す呼び名。
金髪に赤い口紅という姿が、虫の黄色と赤にそのまま重なったわけです。
シュローダー氏自身が、長年のファンでした。
「テイラーの音楽は、私の人生の大きな節目の多くを支えてくれました」
「だから、この種に彼女の名前を付けて、音楽へのお返しを贈るのは、私には自然なことでした」と続けます。
ナゾロジーでは以前、テイラー・スウィフトのライブで地面が揺れた話を紹介しました(テイラー・スウィフトのライブによりM2.3の地震が発生!)。
名前の付け方も、ファンならではです。
本人の名前からは「タイロラエ(taylorae)」。
残りは、アルバムの名前をラテン語にした言葉です。
「Lover」はアマートル(amator)、「Fearless」はイントレピドゥス(intrepidus)。
「The Tortured Poets Department」からは、ポエトールム(poetorum)が生まれました。

研究チームは論文で、「観客を沸かせる才能、胸を締め付ける歌詞、多くの人に届けた喜びと安らぎ」に敬意を表すと書いています。
ただ、名前の話はこの研究のほんの一部です。
論文によると、モクマオウで暮らすこの仲間は、種が違っても色の模様がよく似ているそうです。
なぜ、似た色になったのでしょうか。
「似た色」のわけと、名前を付けることの意味

研究チームの考えは、花に紛れるための色ではないか、というものです。
モクマオウの花にまぎれて目立たなくなるように、別々の種が同じような色に近づいてきたのかもしれません。
こうした変化は、収斂進化(しゅうれんしんか。別々の生き物が、同じような姿に近づくこと)と呼ばれます。
ただし、論文はこれを「示唆される」と書いており、まだ仮説の段階です。
世界には植物を食べるカメムシの仲間が数多くいますが、オーストラリアでの多様性はよく分かっていませんでした。
この虫を集めて記録する仕事は、リバーサイド校の昆虫学者クリスティアーネ・ワイラウフ氏らが以前から続けてきたものです。
シュローダー氏は博士課程の研究として、その中の正体不明の虫を引き継ぎました。
「本当にわくわくしました」とシュローダー氏。「新種を発表できるのは、科学者にとって夢のようなことです」
氏は、見つけた種を正式に発表して名前を付けることが、生き物を守る土台になると話しています。
そこにいると分かっていない生き物は、守りようがないからです。
名前の付いていない昆虫は、まだ何百万種もいる可能性があります。
この研究で言えるのは、モクマオウで暮らす虫の中に、名前の無い種と属がいくつも残っていたことです。
分け方の根拠は、体のつくりの記録と、遺伝子から見えてきた新しい系統(生き物どうしの近さの家系図)の仮説です。
似た色が花に紛れるためかどうかは、この研究では確かめられていません。
示されたのは、その可能性までです。
調べたのはオーストラリアのモクマオウの仲間から集められた標本で、ほかの木に付く仲間はこの研究の範囲の外です。

保管されていた標本の中に、まだ名前の無い虫が眠っていた。歌手の名前とともに、そのことを思い出させてくれる研究です。
ライブで地面を揺らした歌手の名前が、今度は虫の学名に刻まれました。ファンの愛は、地面も学名も揺るがすようです。
参考文献
Meet Swiftiephylus, an Australian bug named after Taylor Swift (Science News)
https://www.sciencenews.org/article/swiftiephylus-bug-named-taylor-swift
Restiid-Feeding Semiini (Hemiptera: Miridae: Phylinae) From Western Australia: Description and Phylogenetic Analysis of the New Plant Bug Genus Restiophylus, n. gen (Annals of the Entomological Society of America, 2015)
https://doi.org/10.1093/aesa/sav105
Nineteen New Genera and 82 New Species of Cremnorrhinina from Australia (Bulletin of the American Museum of Natural History, 2016)
https://doi.org/10.1206/amnb-925-00-1-279.1
元論文
New genera and species of Australian sheoak-associated plant bugs (Hemiptera: Miridae: Phylinae: Pilophorini and Semiini)
https://doi.org/10.1163/1876312x-bja10090
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、絵や図を1枚はさむ。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部
