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オスなしで増える微小動物ヒルガタワムシ、染色体の修復を世代を超えて行っていた


コピーを重ねた書類は、いつか読めなくなる。オスを持たない生き物の設計図も、そうなるはずだった。


生き物には、切れたDNAをつなぎ直す相同組換え(そうどうくみかえ、同じ並びを持つ染色体を手本に、切れた場所を直す仕組み)があります。


有性生殖をする生き物では、この仕組みが減数分裂のときに染色体どうしを引き合わせ、遺伝子を子へ配る役目も担っています。


ヒルガタワムシの一種アディネタ・ヴァガは、オスを介さずに増えます


DNAを傷つけるような過酷な環境に、並外れて強いことでも知られる動物です。


研究チームがこのワムシのゲノムを調べると、卵ができるときに、有性生殖と同じ型の組換えが起きていました。


その組換えは、DNAの傷を直すためにも使われていました。


壊れた染色体は一世代では直りきらず、世代を重ねながら少しずつ元に戻る。


研究チームはこの修復のモデルをBIHER(切断をきっかけに、相同な配列を伸ばして直す修復)と名づけ、データがこれを支持すると述べています。


調べたのは実験室で育てた系統で、乾燥を4回くり返した11系統と、水につけたままの11系統。


では、その「元に戻る」は、ゲノムのどこに残っていたのでしょうか。


研究内容の詳細は2026年9月11日に『Science Advances』にて発表されました




目次



  • 乾燥を4回くり返し、ゲノムの「そろい」を数える
  • 一度失われた領域が、二本そろった状態に戻っていた

乾燥を4回くり返し、ゲノムの「そろい」を数える


乾燥を4回くり返し、ゲノムの「そろい」を数える
乾燥を4回くり返し、ゲノムの「そろい」を数える / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部

手がかりになったのは、ヘテロ接合性(2本ある染色体の同じ位置で、配列が違っていること)です。


祖先ではばらついていた場所が、子孫ではそろってしまう。


この「そろい」がどこに、どれだけ現れるかを、世代を追って数えました。


実験は、世代ごとに子を1匹だけ選んで続ける形で行われた。


選択の働きを弱め、偶然起きた変化がそのまま残るようにするためです。


片方は水につけたまま、もう片方には10日間の乾燥を4回くり返しました。


たどった世代数は、乾燥させた系統でおよそ75、水につけたままの系統でおよそ135。


終点では、祖先でばらついていた場所のうち、平均4.23%がそろっていました。


揃う速さは、乾燥させた系統のほうが速い。


ただし、そろい方には二つの原因があり得ます。


一つは、その部分がまるごと失われる欠失。


もう一つが、対になるもう1本の染色体を手本にした組換えです。


二つを分けるのは、その場所の配列がどれだけ読み取れたかです。


読み取れた量が減っていれば、欠失。


量はそのままで配列だけがそろっていれば、組換えの跡です。


染色体の端には似た配列のくり返しが多く、読み取りがずれて偽の信号を生みます。


そこで、ゲノムを50〜100キロ塩基(染色体の長さの250分の1ほど)ずつに区切り、祖先と子孫を見比べて、こうした偽の信号を抑えています。


一度失われた領域が、二本そろった状態に戻っていた


一度失われた領域が、二本そろった状態に戻っていた
一度失われた領域が、二本そろった状態に戻っていた / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部

そろった場所の長さはさまざまで、染色体の端まで続く長いものもありました。


端まで続く長い跡は、染色体が一か所で入れ替わる交叉で説明できます。


内側だけが長くそろっていれば、入れ替わりが二か所で起きたと考えられます。


短い跡は、片方の配列がもう片方に写し取られる遺伝子変換によるものらしい。


研究チームは、相同な染色体どうしが対になって並ぶ時期に、これらが起きたと見ています。


読み取れた量が、逆に増えている場所もありました。


読み方は、二つ。


その部分のコピーが余分に増えた場合と、祖先で失われていた部分が二本そろった状態に戻った場合です。


実際に、祖先で欠けていた染色体1の領域が、二本そろった状態に戻っている系統がありました。


一度失われた部分が、世代を経て戻ってくる


研究チームがBIHERと呼ぶのは、壊れた染色体が複数の世代をかけて少しずつ戻るというモデルです。


ナゾロジーでは以前、マウスのクローンを作り続けると、見た目は正常でもDNAに突然変異がたまり、58世代目で限界に達したという研究を紹介しました(「クローンからクローン」は58世代目が限界)。


研究チームは、減数分裂のときのBIHERと、この動物の染色体の構造とが組み合わさることが、極限の環境で生きるための鍵になっている可能性を挙げています。


BIHERは、ゲノムに残った痕跡からデータが支持した修復のモデルです。


組換えや遺伝子変換の見分けも、痕跡からの推定を含みます。


比べたのは各条件11系統で、実験室で育てた1種についての結果です。



有性生殖で染色体を配る仕組みが、オスのいない動物では、世代をまたいで染色体を直す側に回っていました。


干上がっては水を得るたびに、設計図を少しずつ写し直す。ずいぶん気の長い自己修復です。


全ての画像を見る

参考文献

Transgenerational chromosome repair in the asexual bdelloid rotifer Adineta vaga (Science Advances)
https://doi.org/10.1126/sciadv.aee0891

Extreme resistance of bdelloid rotifers to ionizing radiation (PNAS)
https://doi.org/10.1073/pnas.0800966105

DNA repair during nonreductional meiosis in the asexual rotifer Adineta vaga (Science Advances)
https://doi.org/10.1126/sciadv.adc8829

「クローンからクローン」は58世代目が限界、”突然変異”が蓄積する(ナゾロジー)
https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/193344

元論文

Transgenerational chromosome repair in the asexual bdelloid rotifer Adineta vaga
https://doi.org/10.1126/sciadv.aee0891

ライター

天道銀河: 科学、歴史、心理、宇宙、生き物、テクノロジーなど、気になるものにはジャンルを問わず首を突っ込む雑食系ライターです。ひとつの分野を深く極めるというより、さまざまな知識を広く集め、意外なつながりを見つけるのが好きです。専門家ほど深くはなくても、好奇心の広さなら負けません。「こんな世界もあるのか」と思えるような、面白くてわかりやすい話題を届けていきます。

編集者

ナゾロジー 編集部

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