閉経は、卵巣がエストロゲンなどのホルモンを周期的に出さなくなる、体の大きな節目です。
エストロゲンは脳の細胞の働きや血管を支え、炎症を抑えると考えられてきました。
女性は長生きする分を差し引いても、男性よりアルツハイマー病になる生涯のリスクが高いことが知られています。
カリフォルニア大学サンフランシスコ校の研究チームは、閉経が早かった女性ほど、高齢期の記憶力の衰えが速い傾向があったと報告しました。
アルツハイマー病と診断される時期も、早い傾向がありました。
対象は、高齢の女性2,603人。
登録時の平均は78歳で、最長18年にわたって毎年、記憶や思考の速さのテストを受けました。
閉経の時期を変えて比べた実験ではなく、長く追いかけて関連を調べた研究です。
研究チームのモデルの推計では、閉経が十年早いと、アルツハイマー病と診断されずに過ごせる老後が二年近く短くなる、という計算です。
では、脳の中では何が起きていたのでしょうか。
研究内容の詳細は2026年8月25日に『JAMA Network Open』にて発表されました
目次
- 自然な閉経では「白質の傷」が速くたまっていた
- 閉経の年齢が脳の将来を考える「中年期の目印」に
自然な閉経では「白質の傷」が速くたまっていた

研究チームが使ったのは、長く続く2つの追跡調査のデータ。
初潮と閉経の年齢は本人の申告で、閉経が自然だったか手術によるものかも尋ねています。
研究の間に亡くなった参加者は脳の解剖でアルツハイマー病の痕跡を調べ、一部の参加者は2年ごとにMRIで脳を撮影しました。
MRIで測ったのは脳全体の体積と、「白質高信号(はくしつこうしんごう=MRIで白く光って見える、神経の連絡路の傷の目印)」の量です。
自然に閉経した女性では、閉経が早いほど白質高信号がかなり速くたまり、この関連は年齢が上がるほど強まっていました。
手術で卵巣を取った閉経では、この関連は見られませんでした。
一方で、記憶の衰えと診断の早さについては、手術による閉経のほうが関連が強い傾向でした。
卵巣を取る手術では、ホルモンが徐々に減る自然な閉経と違って、急に大きく下がります。
研究チームは、白質の関連が自然な閉経に限られたことを、ゆるやかなホルモンの変化に特有のものとみています。
閉経から何十年もたった脳に、なぜ差が残るのでしょうか。
閉経の年齢が脳の将来を考える「中年期の目印」に

研究チーム自身も、閉経から数十年たった後にこの関連が見つかったことに驚いたといいます。
関連は閉経のあとも消えず、むしろ年を重ねるほど強まっていました。
研究を率いたライリー・ボーヴ氏は、生殖期のホルモンに長くさらされることが、脳の健康を長く保つ役割を担っているかもしれない、と話しています。
研究チームは、閉経の年齢を、中年期に分かるリスクの目印として位置づけています。
脳の構造や記憶の変化が表に出る前に、対策を向ける余地がある、という考えです。
ただし閉経の年齢は本人の申告で、参加者の9割は白人です。
閉経の年齢は、ふだん振り返ることのない数字。
それが数十年先の脳を考える手がかりになりうる、という見方が加わりました。
折り返し地点の目印は、案外、体のほうが先に知っているものです。
参考文献
Earlier menopause is linked to faster memory decline and earlier Alzheimer’s onset (PsyPost)
https://www.psypost.org/earlier-menopause-is-linked-to-faster-memory-decline-and-earlier-alzheimers-onset/
Menopause age, reproductive span and hormone therapy duration predict the volume of medial temporal lobe brain structures in postmenopausal women (Psychoneuroendocrinology)
https://doi.org/10.1016/j.psyneuen.2023.106393
元論文
Age at Menopause and Brain Atrophy Among Older Women
https://doi.org/10.1001/jamanetworkopen.2026.30973
ライター
天道銀河: 科学、歴史、心理、宇宙、生き物、テクノロジーなど、気になるものにはジャンルを問わず首を突っ込む雑食系ライターです。ひとつの分野を深く極めるというより、さまざまな知識を広く集め、意外なつながりを見つけるのが好きです。専門家ほど深くはなくても、好奇心の広さなら負けません。「こんな世界もあるのか」と思えるような、面白くてわかりやすい話題を届けていきます。
編集者
ナゾロジー 編集部
