アメリカのライス大学などで行われた研究によって、自分の成功を打ち明けるかどうかは直前に相手が何を話したかで激変し、相手が失敗を明かした直後には、成功を語る気持ちが、相手が自分の結果を明かさなかった場合の4分の1以下にまで落ち込むことが明らかになりました。
自慢したいから成功を語り、恥ずかしいから失敗を隠す。
そう説明されてきた行動の裏で、人が重く見ていたのは自分の見え方よりも、目の前の相手の痛みのほうでした。
研究者は「誰かが苦労したと打ち明けたとき、人は張り合うためではなく、慰めるために自分の苦労を持ち出すのです」と述べています。
では、自分のほうがうまくいってしまったとき、人はその気まずさをどう処理しているのでしょうか。
研究内容の詳細は『Organizational Behavior and Human Decision Processes』にて発表されました。
目次
- 自慢と謙遜では、説明がつかなかった
- 謝る、遅らせる、そして偽る
- 傷のなめ合いでは、なかった
自慢と謙遜では、説明がつかなかった

同僚が昇進を見送られたと打ち明けてきた日に、自分のプレゼンが上手くいった話をそのまま続けられる人は多くありません。
さっきまで誰かに話したくてたまらなかった自分の朗報は、その瞬間、行き場をなくします。
こうした出し入れは長いあいだ、「自分がどう見えるか」の問題として説明されてきました。
成功を語るのは有能に見せて評価を上げるため、伏せるのは謙虚に見せて嫌われないため。
失敗を明かすのは助けを求めたり誠実さを示したりするため、隠すのは低く見られたくないため。
一見してわかりやすい説明です。
しかし、実はこうした研究のほとんどは、話を最初に切り出す側を調べたものでした。
会話は往復するものなのに、後から返す側が何を差し出すかは、一種の盲点のように詳しく調べられていなかったのです。
そこでライス大学のエミリー・プリンスルー氏らの研究チームは、相手の結果を先に知ってしまった人が、自分の結果を差し出すか、手元にしまうかを決める、ほんの一瞬の判断を分析することにしました。
調査では健康診断の結果、就職の合否、投資の損得と場面を変えながら、9つの実験に合計8229人が参加しました。
たとえば健康診断の実験では、相手のほうから先に結果を打ち明けられる場面を想像してもらいました。
参加者には、その相手に返す言葉の候補が二つ示されました。
ひとつは「すごいね」と受け止めて終わる返事、もうひとつは「実は自分も結果が出ていて」と自分の結果まで続ける返事です。
どちらかを選ばせると答えが白か黒かになってしまうため、研究チームは二つの返事に100点を好きな配分で振り分けてもらいました。
自分の結果まで続ける返事に置いた点数が、そのまま「言いたい度」になります。
相手が良い結果を報告したとき、自分の結果も良かった人の言いたい度は70.17点でした。
ところが相手が悪い結果を報告すると、自分の結果は同じ良い知らせなのに、言いたい度は16.33点まで落ちます。
そして相手が悪い結果を報告し、自分も悪い結果だった場合には、今度は自分の悪い知らせの言いたい度が87.12点まで上がりました。
相手の一言が入った瞬間に、状況が激変していたのです。
謝る、遅らせる、そして偽る

相手の一言に反応していたのは、打ち明けるかどうかという判断だけではありませんでした。
就職面接を舞台にした別の実験では、参加者が相手に返す言葉の数が調べられました。
返答の長さは全体で平均20.07語でしたが、「相手が不採用で、自分が内定を得ていた」場面でそれでも内定を明かした人は、平均31.11語と、全体平均より5割ほど長くなっていました。
長くなったぶんに何が入っていたのかは、中身を見ると分かります。
落ちた相手に内定を明かした人の20.0%が、運がよかっただけだと控えめに言ったり、申し訳なさをにじませたりしていました。
同じ内定でも、相手が落ちていると、言葉に緩衝材が挟まるということです。
やわらげ方は、言葉だけではありませんでした。
相手が落ちて自分だけが受かっていた場面では、内定を明かした人の40.0%が、まず相手を気づかう言葉を書き、自分の結果はそのあとに置いていました。
悪い知らせどうしなら自分の結果はすぐ出せるのに、自分だけが良い結果だと、切り出すまでに一段階挟まるということです。
なかには、言葉や順番をやわらげるのではなく、嘘をついてしまう人もいました。
同じ場面で内定を伏せた人のうち、26.5%は黙るだけでなく、まだ結果を待っているところだと書いたり、そもそも面接ではなく友人に会いに来たことにしたりと、事実と違う内容を書いています。
では、そこまでして何を守っていたのか。
自分の判断の理由を書いてもらった別の実験が、その答えを見せてくれます。
相手が失敗して自分が成功していた場面では、58.7%が相手を傷つけたくないという趣旨を挙げていました。
二人とも失敗していた場面では、38.2%が相手を助けたいという趣旨を挙げています。
自慢だと思われたくない、笑われたくないといった自分の見え方への言及は、はるかに少数でした。
守ろうとしていたのは、自分の評判よりも、目の前の相手の気分だったのです。
これらは場面を参加者の頭の中で想定してもらった結果ですが、見知らぬ者同士を3分間のチャットでつないだ473組でも、話すか伏せるかの偏りは同じでした。
参加者は実際に課題を解き、本当にボーナスを得たり逃したりしています。
相手がボーナスを逃したと打ち明けたとき、自分も逃していた人は、96.2%がそれを口にしました。
ところが同じ相手を前にして、自分はボーナスを得ていた人が、それを口にしたのは39.8%です。
落ち込んでいる相手を前にしたとき、自分の結果が良いか悪いかだけで、打ち明ける人の割合は2倍以上も違っていました。
傷のなめ合いでは、なかった
ここまでなら、人は相手が暗いときは自分も暗いほうへ揃えたがるのだ、という説明でも通りそうです。
ですが、それだけでは説明できませんでした。
実験において、それはジャンルの違う話でみえてきました。
相手の投資失敗談に対して自分の健康診断の悪い結果を伝える場合を想定すると、自分の言いたい度はぐっと下がりました。
暗い話でさえあれば慰めになるのなら、ジャンルが違ってもとにかく合わせるはずですが、そうではありませんでした。
ベイズビジネススクールのアイリーン・スコペリッティ教授は、つまずいたと聞かされた人が自分のつまずきを持ち出すのは「張り合うためではなく慰めるため」であり、自分だけがうまくいっていたときには、相手を嫌な気持ちにさせるくらいなら黙っていたいと考えることが多い、と説明しています。
ただし、その気づかいが届いているかどうかは別の問題です。
成功を伏せれば、気を遣われたと感じて距離を置かれることがあります。
同じ失敗を持ち出せば、張り合われたと受け取られることもあります。
論文は、こうした善意の返し方が本当に目的を果たしているのかを、次の課題に挙げています。
元論文
Responses to Outcome Disclosure: People Asymmetrically Disclose or Hide Their Outcomes to Protect Others’ Emotions
https://www.elsevier.com/locate/obhdp
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。
大学で研究生活を送ること10年と少し。
小説家としての活動履歴あり。
専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。
日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。
夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部
