アメリカのミシシッピ大学(University of Mississippi)で行われた研究によって、AIで作成した動画広告が視聴者に受け入れられるかどうかの要因が、AIを使用した理由や動機、背景などに結びついていることが見えてきました。
AIを使った理由が広告の中身と噛み合っていれば、視聴者はAIを使ったと告げられても評価を落としにくくなっていたのです。
この成果は、AIを活用して広告動画などを作成しようとする企業にとって非常に重要になると考えられます。
研究内容の詳細は2026年7月29日に学術誌『Journal of Interactive Advertising』にて発表されました。
目次
- 「AIで作りました」の一文で、評価が2段階も落ちていた
- 「亡き愛犬をAIでよみがえらせた」と添えると、不気味さが許された
- AIが高度になれば、この問題は消えるのか?
「AIで作りました」の一文で、評価が2段階も落ちていた

AIで作った動画には、人物の指が余計に生えていたり、犬の走り方がどこかぬるりとしていたりする瞬間があります。
「これはAIだな」と気づいた途端、それまで見ていた気持ちがすっと冷めます。
では、粗を見つけるより先に「AIで作りました」と告げられたら、どうなるのでしょうか。
研究チームがこの問いの背景として挙げたのが、コカ・コーラをめぐる正反対の反応です。
同社がクリスマスCMをAIで作り直した版は、「魂がない」「本物らしくない」と広く批判されました。
ところが、ファン自身がAIで自分だけの作品を作れるようにした同社の企画は、好意的に受け止められました。
同じ会社が、同じAIという道具を使ったのに、反応はまるで逆になったわけです。
人々は単純にAIを拒否しているだけなのか、それとも許容する場合があるのか、だとしたら、どんな場合なのでしょうか?
その謎を確かめるべく研究者たちはまず「AIで作った」と知らせること自体の影響を調べました。
最初の実験で研究チームは、架空の団体が犬の里親募集を呼びかける短い動画広告をAIで作り、2つの版を用意しました。
これをアメリカ在住の176人に、無作為に半数ずつ見せています。
どちらの版も、映っている犬も流れる音楽も、まったく同じものです。
違いは、片方の冒頭にだけ「この動画は人工知能を使って作られました」という一文が表示される点でした。
広告への好感度は7点満点で、4点が「良い」と「悪い」のちょうど境目にあたります。
結果、広告への好感度は、表示なしの人たちで平均5.60、表示ありの人たちで3.63でした。
犬の映像そのものは何ひとつ変えていないのに、一文の表示だけで、良い側から悪い側へ2点近く滑り落ちたことになります。
さらに表示を見た人は、同じ映像を「不気味だ」と感じやすくなっていました。
そして不気味だと感じた人ほど、広告を見ても心はあまり動かされておらず、心が動かなかった人ほど、広告の評価も低かったという連鎖もみえてきました。
この時点では「AIで作った」という一言は、広告の評価を引き下げる呪文のように見えます。
しかしそれが全てなのでしょうか?
「亡き愛犬をAIでよみがえらせた」と添えると、不気味さが許された

「AIで作った」という札が張られると、価値は決して戻らないのか?
この疑問を解明するため研究者たちは「AIで作った」に加え「その理由」を添えた場合を確かめてみることにしました。
題材は架空のペットフードブランドの広告で、亡くなった愛犬のジョイを悼む女性のもとへ、ジョイが駆け寄ってくる物語です。
研究チームはこの広告を4本作り、アメリカ在住の178人を無作為に4組へ分けて1本ずつ見せました。
4本はどれも同じ物語で、AIで作ったことも4本すべてで視聴者に伝えています。
違いは2つだけです。
1つは、映像に出る歪みの大きさです。
どちらも、同じ犬と同じ人物が写った実写の素材を、種類の違うAIで作り変えたものです。
片方は犬の姿や動きに目立つ歪みが出た動画、もう片方は元の映像とほとんど見分けがつかない自然な動画です。
もう1つの違いは、AIを使った理由や動機を視聴者に伝えるかどうかでした。
伝えない側に入るのは、「この動画はAI技術で生成されました」という一文だけで、なぜ使ったのかには触れません。
しかし理由や動機を語る版では、ジョイを大切な家族として紹介したうえで、物語の途中に
「もう一度、ほんの一瞬でも、彼女がジョイに会えたら? 私たちはAIの映像技術でジョイの動画を作りました。彼女が喪失と向き合い、思い出を大切にできるように」
というメッセージが差し込まれました。
映像そのものは同じでしたが、理由や動機を物語の一部に組み込んだわけです。
すると視聴者の好感度は、理由を語った広告で平均5.44、理由のない広告で平均3.45となりました。
どちらも「AI製」と知らせた広告どうしなのに、AIを使う理由を物語に結びつけたかどうかによって、これだけの差がついたのです。
さらに興味深いのは、理由を添えると、品質のハンデがほとんど効かなくなった点でした。
理由がない場合、自然な動画が4.39だったのに対し、歪んだ動画は2.52まで評価が落ちていました。
ところが理由を添えた広告では、自然な動画が5.67、歪んだ動画も5.21と差が僅かなものになっていたのです。
同じ歪んだ動画が、理由を動画内に添えるだけで評価が2.52から5.21まで上がったことになります。
では理由を添えると、なぜネガティブな影響が弱まるのでしょうか。
研究チームは、その答えを視聴者の受け取り方に求めました。
1つは、「安上がりに済ませたのだろう」というネガティブな疑いです。
もう1つは、「新しい表現をしたくてAIを選んだのだろう」というポジティブな受け取り方です。
すると、理由を語らない広告では、歪んだ映像を見た人ほどネガティブな疑いを強め、ポジティブな受け取り方は弱めていました。
しかし理由を語る広告では、歪んだ映像を見ても、ポジティブな受け取り方ははっきりとは弱まりませんでした。
ネガティブな疑いのほうは残りましたが、その強まり方は理由を語らない広告より小さくなっていました。
亡き愛犬をもう一度映すためにAIを使ったのだと分かれば、同じ歪みの意味も変わります。
費用を削った結果ではなく、あえて選んだ表現の結果に見えてくると研究チームは説明しています。
AIが高度になれば、この問題は消えるのか?

ここまでの落ち込みは、AIの出来が悪いから起きたことなのでしょうか。
そうだとすれば、AIがもっと上手くなるほど、不気味さは薄れていくはずです。
今回の4本のうち、歪みの少なかったほうの動画が、その手がかりになります。
これを作ったのは、2026年4月の時点で最も写実的な部類に入るとされる生成AIです。
実際、できあがった映像はもとの実写と見分けるのが難しいほどだったと論文は書いています。
では、その見分けのつかない映像を、視聴者はどう感じたのでしょうか。
研究チームは4本すべてについて、「AI製」と伝えた上で、不気味さを7点満点でたずねています。
好感度とは向きが逆で、点が高いほど気味が悪いという意味です。
また7点満点の真ん中は4点、つまり「どちらでもない」の線となっています。
結果は、平均4.27でした。
見分けがつかないほど自然な映像なのに、平均はその線を越えて、気味が悪い側に入っていました。
越え方はわずかですが、偶然のばらつきでは説明しにくいと研究チームは報告しています。
では、この不気味さはどこから来たのでしょうか。
論文が疑っているのは、やはり「AI製」の知らせそのものです。
AIが作ったと先に知らされると、人は「どこかおかしいはずだ」という構えで映像を見始めます。
そして自覚のあるなしにかかわらず粗を探すので、ふだんなら見過ごす小さなずれにも目が留まります。
同じ映像でも、AI製だと知らされたほうが不自然に見えてくるわけです。
粗を見つけていなくても評価が変わることは、先行研究でも示されています。
まったく同じ美術作品を見せて、片方には「AIが作った」、もう片方には「人が作った」とだけ説明した実験があります。
AIが作ったと言われたほうが、創造性でも、心を動かされる度合いでも、質でも、低く評価されました。
創造性や芸術性は人間だけのものだ、という感覚が私たちにはあると論文は言います。
そこにAIが並んだり追い越したりすると、人間の特別さが脅かされたように感じて、評価が辛くなるのです。
この結果は、AIが上手くなっても「AI製」という知らせが視聴者の印象にネガティブな要素を与えていることを示しています。
チェ助教も、広告を作る人々に対して「最近は多くのマーケターが『AIを使ってみようか』と言い始めていますが、私はそれはお勧めしません」「まずキャンペーンのアイデアから始めて、『AIは本当に必要か』と問うべきです。答えがイエスなら、その理由がはっきりしていなければなりません」と述べています。
もっとも、今回の研究があらゆる生成AIに当てはまる共通現象とまでは言い切れないでしょう。
この研究が見たのは、動物に関する動画広告をみた時の結果であり、日用品の便利さを売りにするような、感情に訴えない広告でも同じことが起きるのかは、まだ分かっていません。
また静止画の広告については、今回の調査範囲外にあり確かめられていません。
それでも今回の研究は広告の作り手にとって重要な情報になるでしょう。
参考文献
Why some AI ads fail while others succeed
https://phys.org/news/2026-08-ai-ads-succeed.html
元論文
Overcoming the Uncanny Valley Effect in AI-Generated Emotional Ads: Matching AI to Ad Themes
https://doi.org/10.1080/15252019.2026.2701061
ライター
ナゾロジー 編集部
編集者
ナゾロジー 編集部
