アメリカのイリノイ大学シカゴ校(UIC)で行われた研究によって、心配性の人たちに心配する時間と場所をあえて決め、そこでのみ集中して心配するようにすると、2週間後には心配や不安が和らぎ、不眠まで軽くなることが示されました。
心配への対処といえば、つい気をそらしたり考えを打ち消したりと「減らす」方向に向かいがちなのに、この研究が参加者に出した指示は真逆の「思う存分、心配してください」でした。
しかも必要だったのは、最初に1回、やり方の説明を受けることだけでした。
論文では、心配が始まる時間と場所を1つに絞り込むことが、この訓練の狙いだと説明されています。
なぜ心配を「禁止」するのではなく「予約」すると、心が静まり、夜の眠りまで変わるのでしょうか。
研究内容の詳細は『Behavior Modification』にて発表されています。
目次
- 心配が止まらないのは「スイッチ」が増えすぎたから
- 毎日30分、決まった時間と場所で心配してもらった
- 心配を1つにまとめるとなぜ効果的なのか?
心配が止まらないのは「スイッチ」が増えすぎたから

朝は目覚ましが鳴る前から仕事の段取りが頭の中を回り始め、通勤中は親の健康が気になり、夜はベッドの中で将来のお金の計算が止まらない。
心配性の人が抱えているのは1つの大きな悩みというより、朝から晩まで途切れずに続く、こうした小さな心配の連続です。
実際、慢性的な心配性の人は1日の約6割を心配に費やすという報告があり、これは心配の少ない人(約2割)の3倍にあたります。
研究チームが注目したのは、心配の中身ではなく、心配が「いつ、どこで」始まるかでした。
毎日いろいろな場所や時間で心配を繰り返すうちに、その場所や時間そのものが、心配を自動的に呼び出すスイッチになっていく。
心理学ではこれを条件づけと呼び、研究チームもこの考えを出発点にしました。
こうなるとデスクを見れば仕事の不安が、ベッドに入れば明日の予定への焦りが、本人の意思とはおかまいなしに再生され始めます。
心配性の毎日が苦しいのは、いわば家のあちこちに心配のスイッチが増えすぎた状態で暮らしているからです。
高所や犬のように恐怖の対象がはっきりしていれば、対象に少しずつ触れて慣れていく治療が使え、実際にこの「慣れ」は恐怖症の治療で大きな実績を上げてきました。
ところが心配は、スイッチが生活のあちこちに散らばっているせいで、どこで何に慣れればいいのかが定まりません。
この行き止まりを先に抜けていたのが、不眠症の治療でした。
眠れない夜にベッドの中で粘り続けると、やがてベッドそのものが「眠れない場所」のスイッチに変わってしまいます。
だから不眠の治療では、ベッドを眠る目的だけに使わせて、この結びつきを断ち切ります。
同じことが心配にもできるのではないか——そう考えて「心配タイム」を組み立てたのは、1983年の別の研究チームでした。
ただ、そのとき比べる相手になったのは、毎日の記録をつけるだけで、心配を減らす訓練は受けなかった人たちでした。
片方だけが「効きそうな方法」を教わって毎日取り組んでいれば、プラセボ的な差が出ても不思議はありません。
心配タイムの手順が効いたのか、それとも効きそうだという期待や、研究者に気にかけてもらったことが効いたのか、この比べ方では分けられないのです。
今回の研究チームが引き受けたのは、この30年越しの宿題です。
毎日30分、決まった時間と場所で心配してもらった

実験には、心配の強さを測るテストで高い点を出した大学生53人が参加し、最終的に46人のデータが解析されました。
その平均点は、心配が止まらなくなる病気(全般性不安障害)と診断された患者と肩を並べる水準でした。
参加者は23人ずつ2つのグループに分けられ、2週間それぞれ別の訓練に取り組みました。
一方のグループは、毎日同じ時間・同じ場所で30分間、できるだけ集中して心配し、可能なら解決策まで考えること。
それ以外の時間に心配が浮かんだら「これは心配タイムで考えよう」と先送りして、目の前のことに注意を戻すこと。
もう一方の比較グループへの指示は「心配を我慢すると逆に増えてしまうので、浮かんだらその場で存分に心配してください」というものでした。
こうすることで「時間と場所を決める場合」と「時間と場所を決めない場合」を比べられます。
2週間後、はっきりと結果がみえてきました。
心配の強さの下がり幅は決める側が大きくなっていたのです。
(※決めない側も多少は下がったものの及びませんでした)
また研究では「ここまで下がれば大きく改善したと言える」という線を決めて、そのラインを超えた割合を比較しました。
すると決める側は65%、決めない側は30%で、2倍以上の開きがつきました。
一方、不安の点数(心配とは別)でも、決める側においてほぼ半分まで低下したものの、決めない側ではほとんど動いていませんでした。
さらに本人が感じる不眠の重さも、決める側で4割ほど減りましたが、決めない側は同じままでした。
心配を1つにまとめるとなぜ効果的なのか?

効果の鍵とみられているのは、やはりスイッチの数です。
心配タイムを繰り返すうちに、心配は「あの時間・あの場所」というスイッチと結びつき直し他の場所や時間は、心配が出てこない、ただの風景に近づいていくとする考えです。
日中に勝手に始まる心配が減るのも、心配と特定の時間や場所が結び付きなおした結果だと考えられます。
他にも心配スイッチが1つに定まると、期待できることがあります。
恐怖症の治療で使われるのは、怖い対象に少しずつ触れて慣れていく手順でした。
心配タイムを決める場合、あちこちに散っていた心配が、毎日同じ30分に集まってきます。
同じ相手に毎日向き合うかたちになるので、恐怖症のときと同じ「慣れ」が起きやすくなると研究チームは考えています。
夜の眠りが変わった理由も、研究チームは同じスイッチの話で説明しています。
ベッドと心配の結びつきが薄れれば、布団の中で心配が始まりにくくなり、眠りを邪魔しにくくなるというわけです。
ただし、うつ症状と前向きな気分については、2つのグループの差が届きませんでした。
気分全体を底上げする万能薬ではなく、動いたのは心配、不安、いやな気分の強さ、そして不眠——心配のすぐ隣にあるものだけだった、ということです。
また参加者が診断を受けた患者ではなく学生であること、効果の持続を追跡していないことから、研究チームは今回の結果をあくまで予備的なものと位置づけています。
それでも、やることは1日30分の決まった時間と場所、そして時間外の心配をそこへ回す練習だけで、特別な道具はいりません。
夜のベッドで心配が始まったら「それは明日の心配タイムで」——研究が示した第一歩は、それだけのシンプルな習慣です。
(※なお、不安や不眠が日常生活に支障をきたすほど強い場合は、専門家に相談してください。)
元論文
A Preliminary Investigation of Stimulus Control Training for Worry: Effects on Anxiety and Insomnia
https://doi.org/10.1177/0145445512455661
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。
大学で研究生活を送ること10年と少し。
小説家としての活動履歴あり。
専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。
日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。
夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部
