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40年間「エビの子ども」と思われていた化石の正体は、24本脚の昆虫だった


中国科学院南京地質古生物研究所(NIGPAS)と英ケンブリッジ大学(University of Cambridge)を中心とする国際研究チームによって、最初期の昆虫のなかに、脚が6本どころか24本ある種がいたことが明らかになりました。


小学校で教わる「昆虫の脚は6本」という決まりは、昆虫の歴史の初期には成り立っていなかったことになります。


研究者は、昆虫を含むグループの学術的な呼び名が「脚が6本のもの」を意味しているのに、最初の昆虫たちはそれよりずっと多くの脚を持っていたと述べています。


では昆虫は、なぜ18本もの脚を手放して6本に落ち着いたのでしょうか。


研究内容の詳細は2026年8月26日に『Nature』にて発表されました。




目次



  • 40年間、それは「エビの子ども」だった
  • 胸までは、まぎれもなく昆虫だった
  • 18本の脚は、どこへ消えたのか

40年間、それは「エビの子ども」だった


40年間、それは「エビの子ども」だった
40年間、それは「エビの子ども」だった / Image by NIGPAS

昆虫とクモの見分け方は、たいてい脚の本数で教わります。


6本なら昆虫、8本ならクモ。


この線引きは、いま地球にいる何百万種もの昆虫にほぼ例外なく当てはまります。


ところが、その昆虫がどこから来たのかとなると、話は急にぼやけます。


昆虫の祖先は、海にいたエビやオキアミに近い甲殻類だと考えられています。


生きものの遺伝子は、世代を重ねるあいだに少しずつ書き換わっていきます。


その書き換わる速さから逆算すると、昆虫の仲間が甲殻類から分かれたのは、およそ5億年前までさかのぼります。


一方で、実物の化石はそこまで古くには届きません。


昆虫の化石記録には、以前から知られた大きな空白があるのです。


昆虫か、その親戚だといえる化石は、4億500万年前のスコットランドの地層に現れたきりです。


そこからおよそ8000万年にわたって、記録はぷっつりと途切れてしまいます。


遺伝子が語る歴史と、岩が語る歴史が食い違ったままになっていたわけです。


研究者はこの空白を「六脚類ギャップ」と呼び、昆虫がどんな姿で陸に上がったのかは長らく分からないままでした。


化石の状態から予想される体の構造
化石の状態から予想される体の構造 / Image by NIGPAS

しかしその空白を読み解く鍵になる化石は、実は40年前から人の手の中にありました。


1985年にテキサス州西部のテスヌス層で採集された、標本です。


黒っぽい岩に、黒いシミが乗ったような見た目でした。


同じ岩からはエビやカニに近い甲殻類が出るので、その幼生だろうと片づけられました。


そして標本は、サンディエゴの博物館の引き出しにしまわれたのです。


これを引っぱり出したのが、ケンブリッジ大学のエリック・ティヘルカ氏です。


きっかけは、たまたま手に取ったロシアの古い古生物学の本でした。


そのページに、この標本を写した線画が載っていたのです。


甲殻類の幼生だという見立てが、氏にはどうしても腑に落ちませんでした。


そこで線画を手がかりに標本の行方を追い、引き出しの中で眠っていた実物にたどり着きます。


胸までは、まぎれもなく昆虫だった


胸までは、まぎれもなく昆虫だった
胸までは、まぎれもなく昆虫だった / 胸までは昆虫の特徴を強く持っていましたImage by NIGPAS

黒い岩に黒い化石が重なっていると、普通に光を当ててもぎらつきに邪魔されて細部が見えません。


そこで研究チームが使ったのが、反射のぎらつきを抑える撮影法(交差偏光)でした。


ぎらつきが引くと、黒いシミの中から昆虫の体が浮かび上がってきました。


胸は3つの節に分かれ、頭からはむち状の触角が伸びています。


体の後ろには長い尾が1本、それを挟むように尾が2本ついていました。


腹の先には、卵を産みつけるための硬い管(産卵管)もありました。


そして胸には、しっかり3対6本の歩く脚がそろっていたのです。


胸から上には、おかしなところが一つもありませんでした。


ところが腹の第1節から第9節までには、脚が1対ずつ、つまり18本も並んでいたのです。


それもただの突起ではなく、胸の脚と同じようにいくつもの節に分かれた、れっきとした脚でした。


しかも後ろ寄りの脚は先端が平たく広がり、オールのような形をしていました。


体そのものの長さは約3.2センチ、尾まで含めると約5センチ。


そのうえこの標本は幼生ではなく、産卵管をそなえた成体のメスでした。


エビの子どもと見なされていた化石は、40年ぶりに大人の昆虫として名前を与えられたことになります。


研究チームはこの新種を「チョシャ・プラエクルソル」と名づけました。


ナバホの創世神話で大地に最初に住んだのが昆虫のような生き物だったことにちなみ、ナバホ語で昆虫を意味する語とラテン語の「先駆者」を組み合わせた名前です。


18本の脚は、どこへ消えたのか


ではオール状の脚は、何のためにあったのでしょうか。


手がかりの一つは、チョシャが埋まっていた岩にありました。


この地層は、浅い海沿いの三角州や海岸に積もったものと考えられています。


研究チームは、この平たい脚が水中を進むために使われたか、あるいはエラのように酸素を取り込む役割を担っていたと考えています。


つまりチョシャは、水と陸の境目にある湿った場所で、どちらにも出入りできる体をしていたことになります。


こうした初期の昆虫たちは、腐った植物や菌類の胞子などを食べ、水辺に溜まった有機物を分解する側にいたようです。


腹に脚が並ぶこの体つきに、ティヘルカ氏は前から心当たりがありました。


正体がはっきりしないまま、長く宙に浮いていた化石がほかに3つあったのです。


スコットランドの4億500万年前の地層から出たレバーフルミアと、イリノイ州のマゾンクリークで見つかった、まだ名前のついていない2点。


どれも腹に、脚のような突起を持っていました。


そこでチームは、チョシャを加えた4つを、生きている昆虫や甲殻類、すでに絶滅した種と細かく突き合わせました。


どの特徴を分け合っているかを比べることで、生きものの家系図のどこに置くのが最も自然かを探ったのです。


現在生きているすべての昆虫が入るひとかたまりの、すぐ外側です。


家系図でいえば、昆虫たちの枝が伸び始める根元のそばで、祖先にあたる甲殻類の枝からはすでに遠く離れた場所でした。


この4つは、議論の余地のない最古の昆虫群になりました。


そしてそれは、記録が途切れる4億500万年前のレバーフルミアと、3億2400万年前のチョシャの存在は8000万年の空白のほぼ両端に、昆虫が存在していたことを示しています。


24本足の昆虫
24本足の昆虫 / レバーフルミアとまだ名前のついていない2点(790と2342)、そして24本脚のチョシャを合わせた合計4点が昆虫の主要なグループに属することをしていていますImage by NIGPAS

ではなぜ現在の昆虫は6本足に揃っているのでしょうか?


答えは生活する場所にあったと考えられます。


腹に並んだ脚のうち、後ろ寄りのオール状のものは、水の中でこそ働く装備でした。


陸に上がってしまえば、水をかく形の出番はありません。


持ち続ける意味も、そのぶん小さくなっていきます。


研究チームは、腹の脚が小さくなり、やがて失われていったことを、昆虫が陸で暮らす体へと変わるうえで重要な作り変えだったと見ています。


チョシャたちの系統そのものは絶滅しました。


しかし初期の昆虫の一群は生き残り、今日のカブトムシやハチやチョウへとつながっていきます。


ティヘルカ氏は、現在の標準である6本という数は、余分な脚を長い時間をかけて手放していった末に残ったものだと述べています。


昆虫が陸を制した歴史は、新しい体を手に入れる歴史であると同時に、水中時代の装備を降ろしていく歴史でもあったことになります。


全ての画像を見る

参考文献

Amphibious Stem-Insect Reveals Early History of Insect Terrestrialization
https://english.cas.cn/newsroom/headlines/202608/t20260826_1188824.shtml

元論文

Amphibious stem-insect sheds light on colonization of land
https://doi.org/10.1038/s41586-026-10961-2

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。
大学で研究生活を送ること10年と少し。
小説家としての活動履歴あり。
専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。
日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。
夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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