スペインのカタルーニャ古生物学研究所ミケル・クルサフォン(ICP)を中心とする研究チームが、1億2500万年前のワニの仲間の化石から、尾に残された明暗の縞模様を見つけ出しました。
ワニの仲間で体の模様が保存されていた例としては、これが最も古いものになります。
驚かされるのは、その縞が今のワニの尾にある模様とよく似ていることです。ワニが尾に縞をまとう姿は、恐竜が歩き回っていた時代からすでにあったことになります。
論文の共著者アルベルト・セジェス博士は「尾が何色だったかを確実に述べることはできませんが、さまざまな模様を持つ現生種と、それほどかけ離れてはいなかったと考えられます」と述べています。
100年以上も博物館の収蔵庫に置かれていた化石から、なぜ今になって皮膚の模様が浮かび上がったのでしょうか。
研究の詳細は2026年6月13日に『Zoological Journal of the Linnean Society』にて発表されました。
目次
- ワニガラはいつからワニのものだったのか?
- その縞は、鱗をまたいで続いていた
- 尾はまだ古いのに、呼吸は現代式
ワニガラはいつからワニのものだったのか?

動物園でワニを見ても、たいてい記憶に残るのは「なんか泥っぽい色」くらいのものです。
ところが実際の多くのワニには、尾や体に暗い縞が走り、脇腹や四肢には斑点や不規則な模様があります。
しかもこの模様は若い個体ほどくっきりしていて、歳を重ねるにつれて薄れていきます。
問題は、その模様がいつからワニのものだったのかを教えてくれる化石が、これまでなかったことです。
ワニの仲間(ワニ形類)は2億3000万年以上におよぶ長大な化石記録を持ちますが、皮膚や軟骨のような軟らかい組織が残った例はほとんどなく、報告は海で暮らしたグループにほぼ限られていました。
硬い皮骨板ばかりが大量に残り、その上に乗っていたはずの皮膚は失われてしまうのです。
きっかけは地道な作業の途中に訪れました。
研究チームがカタルーニャやヨーロッパ各地の博物館に散らばるモンセック産の化石をデータベース化していたとき、ある標本に紫外線を当てると、岩肌に何かの構造が浮かび上がることに気づいたのです。
その標本はMGB-512、全長わずか50センチほどの小さなワニ、モンセコスクス・デペレティ(Montsecosuchus depereti)でした。
イエネコほどの大きさしかないこの化石は、20世紀の初めにスペイン・カタルーニャ州の採石場で見つかり、1915年に記載され、1990年に現在の属名に移されています。
骨格については何度も研究されてきましたが、皮膚については何も報告されていませんでした。
紫外線の下では、化石化した組織が周囲の岩とは違う光り方をします。
通常の光では岩と一体になって見えていた輪郭が、そこで初めて分離するのです。
「紫外線のおかげで、そうでなければ岩の中に完全に隠れたままだったはずの細部を見ることができます」と、筆頭著者のオスカル・カスティージョ=ビサ博士は説明します。
その縞は、鱗をまたいで続いていた

浮かび上がったのは、体のあちこちに点々と残る鱗でした。
鱗は体の前から後ろへ進むほど大きくなり、背骨から外側へ離れるほど小さくなります。
最も大きかったのは尾の鱗で、長さは1.3センチ近くに達していました。
体長50センチの動物としては、かなり大ぶりの鱗です。
そして尾の付け根、左側のとりわけ保存の良い一角に、それはありました。
暗い帯と淡い帯が、交互に横向きに並んでいたのです。
帯は1枚の鱗の中で終わらず、隣の鱗へそのまま続いていました。
後ろ側の帯はV字に曲がり、淡い帯をよく見ると、小さな丸い斑点がびっしり集まってできています。
斑点は帯の前方ほど大きく密で、後ろへいくほど小さく疎らになり、暗褐色の地色へとぼやけながら溶けていきます。
鱗の前半分は、一様に暗く沈んでいます。
研究チームは、これが模様以外のものである可能性をひとつずつ潰していきました。
紫外線の当たり方のいたずらではないか。
鉱物が後から結晶しなおした跡ではないか。
あるいは、石を割ったときに皮膚がきれいに剥がれず、たまたま濃淡がついただけではないか。
しかし同じパターンが何枚もの鱗で繰り返され、皮膚と母岩の光り方がはっきり異なっていることから、淡い帯も暗い帯も同じ皮膚の面の上に並んでいると結論づけられました。
この縞が果たしていた役割として研究チームが挙げるのが、体の輪郭をぼかす迷彩(分断色)です。
遠くから見れば太い明暗の帯が数本並んでいるだけですが、近づくにつれて細い淡色の帯が次々と見えてくる。
見る距離によって姿を変えるこの効果が、水辺に潜む小さな体のシルエットを崩していたと考えられます。
研究チームは色素の粒を探す分析までは行っていません。
それでも、恐竜時代のワニの尾にどんな模様が走っていたかは、これではっきりと読み取れます。
そしてもうひとつ、同じ皮膚から見つかったものがあります。
水の動きを感じ取るセンサー(皮膚感覚器)と思われる、小さなドームです。
現生のワニでは触覚や水圧の変化を捉え、濁った水の中で獲物の位置を知るのに使われています。
ただしモンセコスクスでは、鱗と鱗の隙間を埋める微小な鱗にだけ現れ、しかも首、四肢、胴と尾の縁という体の周縁部に限られていました。
背中側や体の中央では見つかっていません。
このことから研究チームは、このセンサーがまず体の縁の小さな鱗で局所的に生まれ、のちの一部の系統で体じゅうへ広がっていったと考えています。
尾はまだ古いのに、呼吸は現代式

一方で、この小さなワニには現生のワニが持っているものがいくつか欠けていました。
まず目につくのが尾です。
今のワニの尾には、鱗が高く盛り上がってひれのようになった構造があり、水中で体を推し進める役目を果たしています。
モンセコスクスの尾にその痕跡はありません。
四肢の鱗も、現生種のように強く隆起してはいませんでした。
全体として、ナイルワニよりもいくぶん滑らかなシルエットをしていたわけです。
泳ぎのための装備は、現生のワニほど整っていなかったのです。
ところが胸を紫外線で照らすと、まったく逆の光景が現れました。
青みがかって浮かび上がったのは軟骨です。
骨でできた肋骨の先に軟骨の中間部が続き、さらに胸側の軟骨につながる。
この骨と軟骨の三段構えが、はっきり残っていたのです。
この三段構えは現生のワニと同じ仕組みで、胸郭の容積を細かく調節できるため、呼吸の効率を高めます。
さらに前方の肋骨には、そこから突き出た小さな三角形の突起(鉤状突起)が並んでいました。
呼吸を助ける筋肉が付着する場所で、鳥類や恐竜、ワニの仲間に広く見られるものです。
呼吸を速く深く保てるほど体は活発に動けるため、この動物が現生のワニより体温を高めに維持できていた可能性も出てきます。
泳ぐための体はまだ現生ワニのものになっていないのに、息をするための仕組みだけは、すでに完成間近のところまで来ていたことになります。
この化石が石の中で過ごした1億2500万年に比べれば、博物館で眠った100年など、ほんの一瞬です。
その一瞬の終わりに当てられた紫外線が、ようやく尾の縞を照らし出しました。
参考文献
Skin and color pattern of 125-million-year-old crocodile revealed by extraordinary fossil from the Pyrenees
https://phys.org/news/2026-06-skin-pattern-million-year-crocodile.html
元論文
Soft tissue preservation in the Barremian Montsecosuchus depereti (Neosuchia: Atoposauridae)
https://doi.org/10.1093/zoolinnean/zlag076
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。
大学で研究生活を送ること10年と少し。
小説家としての活動履歴あり。
専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。
日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。
夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部
