「泣くのをやめなさい」「そんなことで怒らないの」「怖がる必要なんてない」。
どれも子育ての中で、一度は口にしてしまいそうな言葉です。
しかし米国の心理学者ジョニス・ウェッブ(Jonice Webb, Ph.D.)氏によると、こうした何気ない言葉は、使われ方によっては子どもの感情そのものを“否定”するメッセージになることがあります。
ウェッブ氏は、親が使いがちな9つの言葉を挙げながら、子どもの感情に寄り添うための言い換えを紹介しています。
目次
- 子どもの「行動」を変えたいなら、その前にある「感情」に目を向ける
- 親が使いがちな9つの言葉とその言い換え
子どもの「行動」を変えたいなら、その前にある「感情」に目を向ける
子どもが泣いたり、怒鳴ったり、反抗的な態度を取ったりすると、親としてはどうしても目の前の「行動」を止めたくなります。
もちろん、人を叩いたり物を投げたりする行動まで許す必要はありません。
しかしウェッブ氏が注目するのは、そうした感情的な行動の背景には、怒りや悲しみ、不安、悔しさといった「気持ち」があるということです。
そこで行動を止めることだけに終始すると、子どもにとって「この気持ちをどう扱えばいいのか」を学ぶ機会にはなりにくいとウェッブ氏は考えています。
たとえば「怒るな」と言われれば、その場では怒りを表に出さなくなるかもしれません。
しかし本当に必要なのは、怒りそのものをなくすことではなく、「自分はいま怒っている」と気づき、それを人を傷つけない方法で表現できるようになることです。
ここで関係してくるのが、感情にまつわる「自己調整」の力です。
米アリゾナ州立大学による2010年のレビュー研究では、感情が生じたときに注意や行動を調整する力は幼少期に急速に発達し、その後も成人期までゆっくり向上していくことが報告されています。
また、こうした自己調整能力が低い子どもほど、攻撃性など外に表れやすい一部の問題行動が多い傾向も確認されています。
つまり子どもに必要なのは、「怒ってはいけない」と感情を消すことではなく、怒ったときにどうすればいいのかを少しずつ身につけていくことなのです。
そして感情を理解し、うまく扱う力は、子ども時代だけの問題ではない可能性があります。
2015年の研究では、米国の低所得地域から集められた子どもたちについて、幼稚園時点で教師が評価した社会的・感情的能力と、その13〜19年後の状態を比較。
その結果、幼稚園時点の社会的・感情的能力は、その後の教育や雇用、犯罪、物質使用、メンタルヘルスに関する複数の指標と有意に関連していました。
こうしたことを踏まえると、自分の感情に気づき、それを適切に扱う力は、子どもの発達における重要な能力の一つだと考えられます。
さらにウェッブ氏が問題視しているのが、親から子へと子育てのパターンが受け継がれていくことです。
自分が子どものころに「泣くな」「そんなことで怒るな」と感情を軽く扱われて育った場合、それを普通の接し方だと思い、自分の子どもにも同じように対応してしまうことがあります。
実際、2009年の論文でも、厳しい子育てや温かく支援的な子育てなどには、強くはないものの世代をまたいだ一定の連続性があることが報告されています。
そこでウェッブ氏は、子どもへの日常的な言葉を少し意識して変えることを提案しています。
もちろん、間違った言葉を「一度でも使えば、大きな問題となる」というわけではありません。
ウェッブ氏自身も、ほとんどの子どもはこうした言葉を何度も聞いたことがあるだろうとしています。
問題なのは「あなたの感情は間違っている」「その気持ちは迷惑だ」「一人で処理しなさい」といったメッセージが繰り返し伝わってしまうことです。
では、具体的にはどのような言葉を変えればいいのでしょうか。
親が使いがちな9つの言葉とその言い換え
ウェッブ氏が示した9つの例を、なぜその言い換えが重要なのかと合わせて見ていきましょう。
1つ目は、「泣くのをやめなさい」です。
これを、「どうして泣いているの?」と言い換えます。
親としては、泣いている子どもを早く落ち着かせたいだけかもしれません。
しかし「泣くのをやめなさい」とだけ言われると、子どもには「悲しんだり泣いたりすること自体がよくない」というメッセージとして伝わることがあります。
一方、「どうして泣いているの?」と尋ねれば、注目する対象が「泣いているという行動」から「なぜ悲しいのか」へ移ります。
子ども自身が、自分はいま何を感じているのかを考えるきっかけにもなります。
2つ目は、かんしゃくを起こしている子どもへの、「かんしゃくが収まったら教えて」です。
代わりに、「大丈夫。全部出していいよ。それから話そう」と伝えます。
前者は、親としては「落ち着いてから話そう」という意味で使っているのかもしれません。
しかし子どもには、「その気持ちは自分一人で何とかして」と突き放されたように伝わる可能性があります。
それに対して後者は、感情が出ていること自体は否定せず、そのあとで一緒に話すことを伝えています。
感情を無理に消させるのではなく、「落ち着いたら一緒に考えよう」という姿勢を示しているのです。
3つ目は、「もういい加減にして!これ以上付き合えない」です。
これを、「二人とも落ち着けるように少し休もう」と言い換えます。
子どもが激しく怒っていると、対応する親の側もイライラしてしまいます。
その状態でお互いに言葉をぶつけ続ければ、問題を考えるどころではなくなるでしょう。
そこで、子どもだけを責めるのではなく、親も含めていったんその場から距離を置き、落ち着く時間を作ります。
ここでは親自身も感情を持つ人間であり、それを調整する必要があることを子どもに示すことにもなります。
4つ目は、「その態度を直しなさい」です。
これを、「怒っているか、何かつらそうに聞こえるけど、そうなの?」と言い換えます。
ぶっきらぼうな返事や反抗的な口調を見ると、親はまず態度を注意したくなります。
しかし「態度が悪い」とだけ言われても、子ども自身がなぜそんな態度になっているのか理解できていないことがあります。
そこで、まず「怒っているの?」「何か嫌なことがあったの?」と感情の方へ目を向けます。
もちろん、怒っているから失礼な態度を取っていいという意味ではありません。
まず感情を確認し、そのうえで「では、どう伝えればいいのか」を考えることが重要なのです。
5つ目は、「行動する前に考えなさい!」です。
代わりに、「どうしてこうなったんだろう。一緒に考えてみよう」と伝えます。
何かに失敗した子どもに「考えてから行動しなさい」と注意するのは簡単です。
しかし、失敗が起きたあとだからこそ、「どこでうまくいかなかったのか」「次はどうすればいいのか」を振り返る材料があります。
ただ叱って終わるのではなく、一緒に振り返ることで、次に似た状況になったときの行動を考える練習に変えられます。
6つ目は、「もっと行儀よくできるまで、自分の部屋に行きなさい」です。
これを、「怒っているんだね。それは○○が原因かな?」のように言い換えます。
ここでウェッブ氏が重視しているのは、感情的になった子どもをすぐに遠ざけるのではなく、まず何を感じているのかに目を向けることです。
繰り返し「落ち着くまで一人でいなさい」と対応されると、子どもには「怒りや悲しみは一人で処理しなければならない」というメッセージとして伝わる可能性があります。
そこでまず、「なぜ怒っているのか」を一緒に探ります。
自分の感情が何から生じたのかを理解することも、自分の気持ちを扱うための第一歩になるからです。
7つ目は、たとえば店に入る直前まで泣いている子どもへの、「もう泣き止んで。お店に入るよ」です。
これを、「私を見て。深呼吸して、1から5まで数えてみよう」と言い換えます。
この例が他と少し違うのは、感情を認めるだけではなく、実際に落ち着くための行動まで示していることです。
子どもは強い感情を抱くことがあっても、それをどう落ち着かせればいいのかを最初から知っているわけではありません。
そこで大人と一緒に深呼吸したり、ゆっくり数を数えたりすることで、「気持ちが高ぶったときには、こうやって落ち着く」という方法を経験させます。
8つ目は、「緊張することなんてないよ」です。
これを、「誰だって緊張するよ。大丈夫。話してみて」と言い換えます。
これは親が良かれと思って言いやすい言葉でしょう。
子どもを安心させたくて、「怖くないよ」「心配する必要なんてないよ」と励ますことがあります。
しかし本人が実際に怖かったり緊張したりしている以上、「怖くない」と言われても、その感情がなくなるわけではありません。
むしろ「自分は怖いのに、怖くないと言われた」と感じることもあります。
そこでまず、「緊張することはある」「そう感じても大丈夫」と感情そのものを認めます。
そのうえで何が不安なのかを話し、次にどうすればいいのかを一緒に考えるのです。
そして9つ目は、「そんな口の利き方をしないで」です。
これを、「もう一度、もう少し優しい言い方で言ってみて」と言い換えます。
ここでは「怒りを感じるな」と求めているわけではありません。
怒っていたとしても、相手を傷つけない方法で伝えられることを教えています。
前者が「その言い方はダメ」と止める言葉なのに対し、後者は「では、どう言えばいいのか」を実際にやり直す機会を与えているのです。
こうして9つを並べてみると、どれにも共通する考え方があります。
それは、感情と行動を分けることです。
「怒ってはいけない」のではなく、「怒ってもいい。でも人を叩いてはいけない」。
「悲しんではいけない」のではなく、「悲しいなら、その気持ちをどう扱えばいいのか考えよう」。
子どもの感情を認めることは、子どもの要求や行動を何でも許すことではありません。
感情そのものは否定せず、その感情をどう表現し、どう行動するかについてはきちんと教える。
ウェッブ氏が9つの言い換えを通して伝えているのは、そうした子どもとの向き合い方です。
次に、子どもが泣いたり怒ったりしたとき、それをただ「やめなさい」と押し込めるのではなく、「この子はいま何を感じているのだろう」と、その感情にも目を向けてみてください。
参考文献
9 Things the Emotionally Attuned Parent Says to Their Child
https://www.psychologytoday.com/us/blog/childhood-emotional-neglect/202608/9-things-the-emotionally-attuned-parent-says-to-their-child
元論文
Emotion-Related Self-Regulation and Its Relation to Children’s Maladjustment
https://doi.org/10.1146/annurev.clinpsy.121208.131208
Early Social-Emotional Functioning and Public Health: The Relationship Between Kindergarten Social Competence and Future Wellness
https://doi.org/10.2105/AJPH.2015.302630
The intergenerational transmission of parenting: Introduction to the special section.
https://psycnet.apa.org/doi/10.1037/a0016245
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部
