SNSを眺めていると、最初は穏やかだったコメント欄が、会話が続くにつれて少しずつ批判的になっていくことがあります。
こうした現象に、最初はなごやかな雰囲気だったのに、どうしてこんなに荒れてしまったんだろう、と疑問に思う人も多いかと思いますが、新たな研究は、それがある人間心理と関係している可能性を指摘します。
それが、「すでに誰かが言ったことではなく、自分ならではのことを言いたい」という差別化(differentiation)の欲求です。
米シカゴ大学(University of Chicago)のHongkai Mao氏らの研究チームは、Redditに投稿された20億件を超えるコメントの分析と大規模な実験から、人と違う発言をしようとする動機が、オンライン上の会話から徐々にポジティブさを失わせる可能性を示しました。
この研究の詳細は、2026年6月22日付で『Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)』に掲載されています。
目次
- SNSでは「会話が続くほど」否定コメントが増えてくる
- 「人と違うことを言おうとすると否定的なコメントになりやすい」は本当か?
- 実験でも「他人と違うことを言おう」とすると否定的な意見になった
SNSでは「会話が続くほど」否定コメントが増えてくる
研究チームがまず注目したのは、SNS上の会話が長く続くにつれて、その内容が次第にネガティブ(否定的)になっていくのではないかという問題です。
SNSがネガティブになる理由としては、怒りや批判を含む投稿ほど人の注意を引きやすく、拡散されやすいことなどが以前から指摘されてきました。
しかし研究チームは、そこにもう1つの仕組みが存在すると考えました。
それが「他の人とは違うことを言いたい」という欲求です。
SNSのスレッドでは、最初の数人なら「面白いね」「すごいね」といった素直なコメントでも、それ自体が十分な発言になります。
ところが50人、100人と参加者が増えていけば、似たような意見はすでに誰かが書いています。
すると新しいことを言おうとした人にとって、
「でも、ここは問題では?」
「実はそれほど良くないのでは?」
「みんな褒めているけれど、自分は違うと思う」
といった否定的な視点が、まだ出ていない意見として選ばれやすくなるのです。
研究者らがこの予測を立てた背景には、ネガティブな情報のほうがポジティブな情報よりも表現の種類が多いという考えがあります。
たとえば何かを褒める表現には似た内容が多くなりがちですが、批判する場合には、欠点、危険性、例外、反対意見など、さまざまな方向から異なることを言えます。
さらに周囲が好意的なコメントばかりなら、否定的な意見を出すだけでも多数派から外れるため、他のコメントとの差が生まれやすくなります。
そこで研究チームは、会話が進んで独自の意見を出すことが難しくなるほど、人々は差別化の手段として否定コメントを選びやすくなるのではないかと予測し、実際のSNSデータを使って検証しました。
研究チームが分析したのは、2008~2022年のRedditに存在した2150のコミュニティに投稿された、約20億5000万件のコメントです。
すると、スレッドの後半に投稿されたコメントほど、内容が否定的になる傾向が確認されました。
50コメントまでを対象とした分析では、最初の5コメントのうち否定的と判定されたものは24.63%でしたが、最後の5コメントでは25.50%に増えていました。
たった50コメントという比較的短い範囲でも、後半になるほど否定的なコメントがわずかに増えているという傾向が実際に確認できたのです。
またコミュニティ単位の長期的な変化を調べたところ、62%のコミュニティでコメントがより否定的になる変化が確認されました。
ただこうした問題でよく言われるのが、世の中が悪くなった、社会全体が荒んできたことが原因じゃないかというものです。
実際この研究も2008年~2022年のコメントを調査しており、この期間に世の中も大きく変化しており、政治的な意見の分断も進んだという印象があります
そこで研究チームは、同じ期間に648の媒体から発表された491万本のニュース記事についても調査しました。
しかしニュース記事では、Redditと同じように時間とともにネガティブになる傾向は確認されなかったのです。
「人と違うことを言おうとすると否定的なコメントになりやすい」は本当か?
では、本当に「他人と違うことを言おうとする」と、否定的なことを言いがちになるのでしょうか。
これを明らかにするため研究チームは、Redditにおけるそれぞれのコメントが他の内容からどれくらい意味的に離れているかをAIによって分析しました。
その結果、否定的なコメントやスレッドの後半に投稿されたコメントほど、内容の意味的な独自性が高くなっていたのです。
つまり、会話が進むにつれて、「他の人とは違う内容を書こうとする」傾向が高まっており、その結果として独自性を出しやすい否定コメントが選ばれやすくなっていることが、データ的にも示されたのです。
コミュニティ全体についても同じような分析を行うと、時間が経ったコミュニティほどコメント内容の意味的な多様性が高く、その多様性が高いほど全体の内容も否定的になっていました。
さらに意味的な多様性を統計的に考慮すると、コミュニティの経過時間とネガティブ化との関連は見られなくなりました。
研究チームは、SNSの雰囲気がだんだん荒んでいくという問題については、次のような予測をしていましたが、実際調査結果もこの流れと一致していたのです。
会話が続く
→ すでに多くの意見が出る
→ 他人と違うことを言いにくくなる
→ ネガティブな視点が「まだ言われていない意見」として使いやすくなる
→ 全体のポジティブさが少しずつ失われる
さらに、この傾向は最初の会話がポジティブだった場合ほど強く現れました。
これは、周囲がポジティブな発言ばかりの状況では、ネガティブな発言そのものが他人との差を作りやすいためだと研究チームは考えています。
反対に最初から否定的な会話では、後からポジティブな意見を書くことも周囲とは異なる発言になります。そのため最初から否定的だったスレッドでは、時間とともにネガティブになる傾向は弱くなっていました。
実験でも「他人と違うことを言おう」とすると否定的な意見になった
Redditのデータだけからでは、「人と違うことを言いたい」という心理が本当にネガティブ化を引き起こしているのかまでは判断できません。
そこで研究チームは、3685人を対象とした大規模な実験を行いました。
参加者にはニュースの見出しと、それについて先に参加した人たちが書いたコメントを見せ、そこに自分のコメントを追加してもらいました。
このとき、実験は参加者を大きく2つの条件に分けました。
一方には、「これまでの人とはできるだけ異なる、独自のコメントを書いてください」と求め、最も独自性の高いコメントを書いた参加者には5ドルの報酬を設定しました。
もう一方には反対に、「観点が他の人に近いコメントを書いてください」と求め、最も類似性の高いコメントを書いた人に報酬を与えました。
実験では、この手続きを5つの連続したラウンドに分けて行いました。
最初のラウンドの参加者がコメントを書き、そのコメントの一部を次のラウンドの参加者が読み、それを踏まえて新たなコメントを書きます。
そのコメントがさらに次のラウンドへ渡されるという形で、オンライン上の会話が徐々に積み重なっていく状況を人工的に再現したのです。
結果は明確でした。
他の人とは違うコメントを書くよう促された条件では、ラウンドが進むにつれてコメントが否定的になる傾向が現れたのです。
しかも、この変化は最初のニュースがポジティブだった場合に最も強く見られました。
中立的なニュースでもネガティブ化は確認されましたが、もともとネガティブなニュースになるほどその傾向は弱まり、最もネガティブなニュースでは有意な変化は確認されませんでした。
一方、他の人と似たコメントを書くよう促された条件では、同じようなネガティブ化は起きませんでした。
むしろポジティブまたは中立的なニュースでは、ラウンドが進むにつれてコメントがよりポジティブになる傾向が確認されています。
この実験から、少なくとも「他人と差別化するよう促されること」自体が、コメントをネガティブな方向へ変化させる原因になり得ることが示されました。
SNSが荒れるのは「性格が悪い人が多いから」とは限らない
今回の研究で興味深いのは、「SNSでは人々が悪口を書きたがっているからネガティブになる」と説明しているわけではない点です。
むしろ研究から浮かび上がったのは、
悪口を書きたいわけではなくても、「他の人とは違うことを言いたい」と考えた結果、否定的な方向へ進んでしまうことがあるというのです。
また論文のタイトルが「ネガティブさの増加」ではなく、「ポジティブさの侵食(erosion of positivity)」となっているのも興味深い点です。
実際、Reddit上の会話の多くが、時間とともに完全なネガティブ領域まで落ち込んだわけではありません。
研究者らは、SNSの会話が最終的に悪意や攻撃で埋め尽くされるというより、最初にあった好意的な雰囲気が、会話が続くにつれて少しずつ薄れていく現象として捉えています。
もちろん、この研究はRedditだけを分析したものなので、SNSの特性として述べるには限界がありますが、それでも研究チームは、匿名性が高く、同じ話題について多くの人が順番にコメントするYouTubeやTikTokなどでは似た現象が起こる可能性を予測しています。
一方、Facebookのように実名性や人間関係による評判の影響が大きいSNSでは、同じ現象が弱くなる可能性もあります。
人とはちょっと違った事を言いたい、という欲求は自然なものであり、誰もが抱く心理です。しかしそのためやたらと批判めいたことを言ってしまっていないか、注意するようにしたいですね。
元論文
Differentiation drives the erosion of positivity on social media
https://doi.org/10.1073/pnas.2527316123
ライター
相川 葵: 工学出身のライター。歴史やSF作品と絡めた科学の話が好き。イメージしやすい科学の解説をしていくことを目指す。
編集者
ナゾロジー 編集部
