人間は店の評判を知らなくても、長い行列を見ると「これだけ人が並んでいるなら、きっと良い店なのだろう」と感じることがあります。
自分では答えを判断する材料が乏しいとき、周囲の人たちの選択そのものを手掛かりにするわけです。
では、複数のAIが互いの選択を見ながら判断すると、同じような多数派への追随は起こるのでしょうか。
複数のAIエージェントを連携させる技術が広がる一方、こうしたAI集団が外部から「合意しなさい」と指示されなくても自発的にまとまるのかは、十分に分かっていませんでした。
そこでドイツのコンスタンツ大学(University of Konstanz)などのジョルダーノ・デ・マルツォ(Giordano De Marzo)らは、GPT、Claude、Llama系のAIを集団にし、どちらにも客観的な正解や優劣がない二択を与えて、他のAIの選択を見せながら回答を更新させました。
その結果、多くの高性能なAIでは多数派側を選びやすい傾向が現れ、その繰り返しによって集団が一つの選択へまとまる場合があることが分かりました。
また、そのまとまりやすさはAIの種類や集団の大きさによって異なっていました。
この研究の詳細は、2026年8月に科学誌『Science Advances』に掲載されています。
目次
- 複数のAIを集めたら、集団としてどんな判断をするのか?
- 「多数派の力」が強いAIほど、集団の意見がそろいやすかった
複数のAIを集めたら、集団としてどんな判断をするのか?
アニメ「エヴァンゲリオン」には、3つの異なる思考をするAIが議論して、一つの高度な意思決定を行うMAGIシステムというものが出てきます。
このような、複数のAIに意見を出させて結論を決める仕組みというのは、SF作品でよく描かれることがあります。
こうした仕組みは、かつてはSFの中だけの話でしたが、今やそのようなシステムは実現に近づいています。
ただ現状では、複数のAIエージェントを連携させた場合、どのような協調行動を取るのかという点について、まだ十分に調べられてはいません。
今回の研究チームが着目したのは、AIの集団がどれを選んだとしても全く等価な選択肢のいずれかを選択しなければならないときに、多数派の選択に引っ張られることはあるのか? という問題でした。
この問題をイメージする助けになるのが、社会心理学者ムザファー・シェリフが1935年に行った自動運動効果という錯覚を利用した実験です。
暗い部屋で静止した光点を見つめていると、光はまったく動いていないにも関わらず、その位置が動いているように見えることがあります。この錯覚を自動運動効果と呼びます。
シェリフはこの現象を利用して、参加者に光がどれくらい動いたかを答えさせる実験を行いました。
もちろんこの光の移動は錯覚なので、正解はありません。なのに他者の回答が聞こえる状態で質問を繰り返すと、参加者たちの回答が次第に共通の範囲へ収束していったのです。
シェリフはこの結果について、明確な判定基準が存在しない曖昧な問題であっても、他者の回答が影響することで最終的に秩序(方向性)が生じると述べています。
もちろん人間の場合は、他者と異なる回答をすると不安を感じたり、周りに合わせようとする心理が影響します。
ではAIが、判断基準のまったくない選択肢に対して、「他の人はどちらを選びましたよ」という情報だけ与えたとき、どんな判断をするようになるのでしょうか?
今回の研究ではGPT、Claude、Llama系列のLLMをAIエージェントとして使い、選択肢に正解も優劣もない「k」と「z」のような意味のない文字列を使って、「支持したい意見」を選ばせました。
ただしその選択の際、自分以外の全AIが現在どちらを支持しているかという情報だけ与えています。それ以外は、特に「多数派に従え」「合意しろ」といった指示は与えていません。
それでも、多くの高性能モデルが25対24のような小さな人数差でも、人数の多い側を選びやすい傾向が現れたのです。
さらに30対20、40対10というように集団全体の偏りが大きくなるほど、多数派側を選ぶ確率も高くなりました。
つまり、選択肢そのものに判断材料がなくても、「他のAIの多くがどちらを選んでいるか」がAIの選択に影響したのです。
最初は同数でも、一方がわずかに多くなると、その影響から多数派を次のAIが選びやすくなり、人数差がさらに広がるという現象が確認されたのです。
「多数派の力」が強いAIほど、集団の意見がそろいやすかった
研究チームは、多数派側を選びやすくなる程度を「majority force(多数派の力)」という値で表しました。
この値が0なら選択はコイントスに近く、値が大きいほど多数派に合わせる確率が高くなります。
実験では、50体を25対25に分けた状態からシミュレーションを始め、各AIに他の49体の選択を見せながら平均10回ずつ意見を更新させました。これを20回繰り返したところ、Claude 3 OpusとGPT-4 Turboでは、20回すべての試行で最終的に50体全員がどちらか一方の意見に一致したのです。
この報告を聞くと、AIにも周りに合わせようという思考や心理が働いたのかと想像したくなりますが、これは単純な自然な振る舞いの結果である可能性があります。
研究者たちは、このAIの意見が一方へまとまっていく過程について、強磁性体と似た構造があると述べています。
鉄のような強磁性体は、磁石にくっつく磁性を持っていますが、内部にある磁気の方向がバラバラなため、全体として特定の方向への磁気は現れません。
ところが、何らかのきっかけで一方を向く要素がわずかに多くなると、他の要素もその多数側と同じ向きを取りやすくなります。
これは理科の授業でやった、鉄の釘を叩いていくと磁石になるという実験をイメージすると理解しやすいでしょう。
物理学では、このような強磁性体の振る舞いを表す方法の一つとして「Curie-Weissモデル」が使われます。
研究者たちは、今回のAI集団の振る舞いをこのモデルに適用して計算したところ、強磁性体の向きが一方向へそろっていくのと同じ数式で表すことができたと報告しています。
意思や心理を持たない物理系でも、個々の要素が多数側へ寄りやすいという単純な作用があり、最終的に全体に一定の方向性が生じることがあります。
今回のAI集団でも、それと数学的によく似た自己強化のパターンが現れた可能性があるのです。
ただし、AIがなぜ多数派を選びやすいのかという明確な原因は、この研究から明らかになっていません。
GPTやClaudeなどでは学習や調整の詳細がすべて公開されているわけではないため、開発段階で形成された応答傾向が今回の結果に影響している可能性も否定できません。
また多くのモデルでは集団が大きくなるほど多数派へ同調する作用が弱まり、Llama 3 70Bでは約30体、GPT-4oでは約80体を超えると、多数派追随だけで合意するまでの時間が急激に長くなることが確認されました。
GPT-4 Turboではこの境界が約1000体で、Claude 3.5 Sonnetでは研究した最大の1000体でも境界に達しませんでした。
この結果から見ると、Claudeは多数派へ同調する作用が非常に強いAIだと考えることが出来るでしょう。
ただ、今回の実験は二択に正解がなく、情報としても全く意味を持たない「k」と「z」を選ばせるという単純な条件です。
そのため、「証拠がある問題でもAIは多数派に従う」「複数AIの議論では正しさより多数決が優先される」とまでは言えません。
今後は、それこそSF作品で描かれるような、思考の性質が異なるAI集団や、合意が不利益になる状況などで、AI集団の意思決定がどのように行われるかを検証していく必要があるでしょう。
それでも今回の報告は、AIが集団になったときにどのように振る舞うかという疑問の、非常に基礎研究として興味深いものです。
元論文
AI agents can coordinate via majority-following beyond human scale
https://doi.org/10.1126/sciadv.aea6091
ライター
相川 葵: 工学出身のライター。歴史やSF作品と絡めた科学の話が好き。イメージしやすい科学の解説をしていくことを目指す。
編集者
ナゾロジー 編集部
