失敗はだれでもします。
人生のなかで、失敗をまったくのゼロにすることはできません。
むしろ、失敗をなくすよりも、失敗とどう向き合って、うまく付き合っていくかが必要になります。
では、失敗から立ち直り、次の行動につなげるためには、どのような考え方を身につければよいのでしょうか。
そこで今回は、これまでの心理研究が明らかにしてきた「失敗と上手くつき合うための5つのマインドセット」を紹介します。
目次
- 1つ目:自分に優しくする「セルフ・コンパッション」
- 2つ目:「完璧さ」に囚われない
- 3つ目:自信満々で失敗するのはOK
- 4つ目:失敗を「自分ごと」にしない(※ ただし日本人は注意点も)
- 5つ目:「あえて失敗するやり方」を取り入れてみる
1つ目:自分に優しくする「セルフ・コンパッション」
失敗すると、「俺はこんなこともできないのか」「自分のダメさに嫌気がさす」など、自分に対して厳しい思いをぶつけることもあるでしょう。
しかし、自分を責め続けることが、必ずしも次の努力や成功につながるわけではありません。
そこで役立つのが「セルフ・コンパッション」と呼ばれる考え方です。
セルフ・コンパッションとは、困難や失敗に直面した自分を厳しく裁くのではなく、親しい人に接するように思いやりを向ける姿勢です。
これは自分を甘やかして失敗を正当化したり、責任から逃げたりすることとは違います。
「今回はうまくいかなかった」と現実を認めながらも、「失敗することは誰にでもある」と捉え、自分の人格全体を否定しないことが重要です。
米テキサス大学オースティン校の心理学者クリスティン・ネフ氏が、2005年に発表した研究では、試験に失敗した後にセルフ・コンパッションを示した学生ほど、その後の試験に向けて熱心に勉強する傾向が確認されました。
自分を甘やかすと努力しなくなるように思えるかもしれませんが、実際には自分への思いやりが、再挑戦するための心理的な余力を生み出す可能性があります。
また近年の研究では、「自分だけが失敗しているわけではない」と認識することが、より良好なメンタルヘルスと関連していると報告されています。
失敗から立ち直る第一歩は、自分を奮い立たせることではなく、まず自分への攻撃をやめることなのです。
2つ目:「完璧さ」に囚われない
周りから常に完璧であることを期待され、失敗すれば評価がガタ落ちすると不安になる傾向は、「社会的に課された完璧主義」と呼ばれます。
この傾向が強い人は、単に高い目標を持っているのではありません。
「成功しなければ認めてもらえない」「間違えたら価値のない人間だと思われる」と感じやすくなるのです。
失敗やミスの後に立ち直る力を調べた2017年の大規模な研究レビューでは、「社会的に課された完璧主義」が、失敗後の不安や抑うつ、怒りを強めるリスク要因として指摘されました。
この問題の厄介なところは、実際に他人から完璧さを求められているかどうかにかかわらず、本人が「期待に応えなければならない」と勝手に感じてしまう点です。
そのため、失敗した後には、「みんなから無能だと思われたのではないか」「期待を裏切ったのではないか」という考えが頭から離れなくなります。
しかし、こうした他人の評価についての推測は、失敗の原因を分析したり、次の行動を考えたりする力を奪ってしまいます。
失敗したときには、「他人からどう見られたか」ではなく、「今回どこがうまくいかなかったのか」に意識を戻すことが大切です。
自分を責めず、周りがどう思っているかを勝手に憶測するのをやめることが、失敗を冷静に見直すための土台になるでしょう。
3つ目:自信満々で失敗するのはOK
みなさんもご承知のように、自信過剰は決して良いものではありません。
自分の能力を実際以上に高く評価すると、勉強量が減ったり、確認を怠ったりして、ミスが増える可能性があります。
しかし、「絶対に正しい」と思っていた答えが間違っていた経験は、必ずしも無駄ではないのです。
米コロンビア大学が2017年に発表した研究レビューでは、自信を持って答えた内容が間違いだと分かり、その後に正解を示された場合、その正解が強く記憶に残ることが報告されています。
自分の予想と現実の間に大きな食い違いがあるほど、「なぜ間違えたのか」という驚きが生じ、正しい情報に注意が向きやすくなるのです。
つまり、自信満々で間違えた経験は恥ずかしいものですが、適切な訂正を受け取ることができれば、強力な学習の機会にもなります。
大切なのは「自信満々で間違えた自分は恥ずかしくて、愚かだ」と考えることではありません。
「どの前提を誤解していたのか」「正しい答えとの違いは何か」と確認することです。
4つ目:失敗を「自分ごと」にしない(※ ただし日本人は注意点も)
続いては、失敗についての情報を自分の人格や価値に対する評価として受け取らないことです。
約1700人のアメリカ人を対象に行われた先行研究では、テストで正解した部分ではなく、間違えた部分に焦点を当てたフィードバックを受けた人は、その後の学習効果が低下しました。
本来であれば、間違えた部分を教えてもらうことは、学習に役立つはずです。
にもかかわらず、なぜ学習が妨げられたのでしょう?
研究者たちは、個人的な失敗に関するフィードバックが自己イメージを脅かし、参加者が情報から心理的に目をそらしてしまった可能性を指摘しています。
一方で、興味深いことに、参加者は他人が犯した失敗からは効果的に学ぶことができました。
他人の失敗であれば、自分の自尊心が傷つきにくく、何が悪かったのかを冷静に観察できるからです。
この結果から考えると、自分の失敗を振り返るときには、他人の失敗した事例を分析するような視点を持つことが役立つかもしれません。
「私は失敗者だ」と考えるのではなく、「この方法では、この条件下でうまくいかなかった」と捉え直すのです。
自分と失敗との間に少し距離を置けば、批判のように感じられたフィードバックも、問題を解くための情報として受け取りやすくなるでしょう。
※ ただし、このマインドセットには注意点があります。
それは、失敗に対する心理的反応が文化によって違うことが示されている点です。
元記事で紹介された研究によると、アメリカ人は確かに失敗より成功に焦点を当てると学習効果が高まったのですが、日本など一部の国では、成功より失敗に焦点を当てた方が、その後の学習効果が高まる傾向が見られたというのです。
ただ、ここには個人差もあるので、日本人だとしても、自分にしっくり合う方を見極めることが重要でしょう。
5つ目:「あえて失敗するやり方」を取り入れてみる
最後は、あらかじめ失敗することを想定した学習方法をご紹介します。
これは「生産的な失敗(productive failure)」と呼ばれるものです。
具体的には、なんらかの課題に取り組む際、最初から正しい方法をすべて教わってから取り組むのではなく、最低限の情報だけをもとに課題へ挑戦し、失敗を含めて、試行錯誤した後に正しい指導を受ける学習方法です。
この方法では、学習者は最初の段階で満足のいく答えを出せません。
しかし、一度自分なりに考えて失敗しておくことで、その後に正しい説明を受けた際、重要なポイントの飲み込みが早くなるといいます。
日常生活における「生産的な失敗」の活用例を見てみましょう。
たとえば、初めての料理に挑戦するとき。
このとき、最初からレシピの手順を細かく読み込んで、完全に暗記するのではなく、基本的な流れだけを確認して、まず一度作ってみます。
すると、「火加減が強すぎた」「調味料を入れる順番が違った」など、自分が理解できていなかった部分が具体的に見えてきます。
その後でレシピや解説動画を見直せば、最初から説明を読むだけの場合よりも、注意すべき点が印象に残りやすくなるのです。
他には、新しいスマホやパソコンを使うときなども有効です。
最初から説明書などを読み込むのではなく、とりあえず使ってみて、失敗や間違いを繰り返しながら、その都度で正しい操作法を学ぶと、適切な使い方がより身につきやすくなります。
まとめ
このように、失敗をうまく付き合っていくには、まず失敗した自分を必要以上に責めず、「誰にでも失敗はある」と受け止めることが大切です。
また、周囲からどう見られるかを気にしすぎず、「失敗した事実」と「自分自身の価値」を切り離して考える必要があります。
自信を持って間違えた経験や、うまくいかなかった試みも、正しい情報を受け取って振り返れば、次の学びにつながります。
失敗を避けることよりも、小さく試し、間違いから学び、次の行動を改善していく姿勢が重要でしょう。
参考文献
How to cope with failure, according to psychology
https://www.bps.org.uk/research-digest/how-cope-failure-according-psychology
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部
