同じ仕事でも、「必要な業務だ」と受け止める人もいれば、「なぜ自分がこんなことを?」と感じる人もいます。
その違いは、本人が「自分は能力を持て余している」と感じているかどうかにあるのかもしれません。
米ヒューストン大学(University of Houston)などの研究チームは、こうした「過剰資格」感が、仕事を“不当なタスク”として受け止める心理につながることを示しました。
この研究は2026年5月22日に、学術誌『International Journal of Hospitality Management』でオンライン公開されました。
目次
- 「自分がやる仕事ではない」という感覚はどこから来るのか
- 不満を強めるのは「ムダな仕事」よりも「自分にやらせるのはおかしい」という感覚
「自分がやる仕事ではない」という感覚はどこから来るのか
職場には、誰かがやらなければならない仕事がたくさんあります。
ホテルやレストランのような接客業では、受付、案内、待機、入力作業、清掃、補助的な業務など、状況に応じて幅広い仕事を担当する必要があります。
しかし同じ仕事でも、ある人にとっては普通の業務であり、別の人にとっては「自分にやらせるのは不当だ」と感じられることがあります。
研究チームが注目したのは、従業員が「自分はこの仕事に対して能力や経験が高すぎる」と感じる状態です。
これは、客観的に見て本当に優秀かどうかではなく、本人がそう感じているかどうかを指します。
研究チームはまず、アメリカとイギリスの参加者109人を対象に、ホテルのフロント係を想定したシナリオ実験を行いました。
参加者には、従業員が「修士号と6年の管理職としての経験を持つ人物」である場合と、「高校卒業で1年の経験を持つ人物」である場合が示されました。
そのうえで、客がいないロビーに立っている、古いソフトの報告書を新しいシステムへ手入力する、といった仕事が、その従業員にとって妥当かどうかを評価してもらいました。
結果として、高い学歴や経験を持つ設定の従業員ほど、同じ仕事を「自分の時間に見合わない」「ふさわしくない」と評価されやすくなりました。
つまり、仕事の内容が同じでも、その人の学歴や経験をどう想定するかによって、仕事の妥当性の評価が変わる可能性が示されたのです。
より詳細な結果は、実際の職場で行われた調査から見えてきました。
不満を強めるのは「ムダな仕事」よりも「自分にやらせるのはおかしい」という感覚
研究チームは次に、中国・北京のチェーンレストラン46店舗で働く従業員225人を対象に、実際の職場での調査を行いました。
ここでは、過剰資格感、不当なタスクの知覚、離職意向、職場での問題行動、上司からの尊重などが調べられました。
論文では、不当なタスクを2種類に分けています。
1つは、そもそも誰がやっても不要だと感じる仕事です。
もう1つは、仕事自体は必要かもしれないが、「それを自分にやらせるのはおかしい」と感じる仕事です。
調査の結果、自分を過剰に有能だと感じている従業員ほど、仕事をこの2種類の不当なタスクとして受け止めやすいことが分かりました。
そして、離職したい気持ちや職場での問題行動と強く関連していたのは、特に「自分にやらせるのはおかしい」という感覚の方でした。
ここでいう問題行動には、遅刻、シフトの欠勤、仕事の質の低下、勤務中の私用などが含まれます。
なぜ、このようなことが起こるのでしょうか。
研究チームは、その背景に「相対的剥奪感」があると考えています。
これは、「本来なら自分はもっと良い仕事や扱いを受けるはずなのに、それを得られていない」と感じる心理です。
単に作業が面倒なのではなく、その仕事を通じて「自分の能力が軽く見られている」と感じるため、不満が強まりやすいのです。
一方で、上司から尊重されている従業員は、そうでない従業員に比べて、「自分にやらせるのは不公平だ」と感じるタスクの報告が28%少なかったことも分かりました。
これは、上司が仕事の意味を説明し、従業員の貢献を認め、敬意を持って接することで、「自分が軽んじられている」という感覚を和らげられる可能性を示しています。
ただし、そもそも不要だと感じられる仕事については、上司の尊重だけでは改善しにくいことも示されました。
その場合は、仕事の任せ方だけでなく、業務そのものを見直す必要があるでしょう。
この研究は、職場の不満が仕事内容だけでなく、「その仕事を任されることで自分がどう扱われていると感じるか」からも生まれることを示しています。
参考文献
Employees who feel overqualified view more work tasks as unreasonable
https://phys.org/news/2026-07-employees-overqualified-view-tasks-unreasonable.html
元論文
Reasonable for others, but not for me: Perceived overqualification and the perception of illegitimate tasks in the hospitality industry
https://doi.org/10.1016/j.ijhm.2026.104756
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部
