会社のオフィス、職場の飲み会、友人の集まりなどで、自然とまわりに好かれる人がいます。
会話の中心にいながら押しつけがましくなく、相手に好印象を与える人。
私たちはどうすれば、そのようなグループ内で自然と好かれる人になれるのでしょうか。
そのヒントとなる5つの社交術を18世紀の哲学者デイヴィッド・ヒュームが、1751年の著作『道徳原理研究』の中で語っています。
では具体的に、自然と人に好かれるための5つの心構えとは、どんなものでしょうか?
目次
- その1:「自分が主役」というエゴを手放す
- その2:場を重くしすぎず「軽やかさ」を保つ
- その3:自分を大きく見せるのでなく「他人を輝かせる」
- その4:「場の空気」を読んだふるまいをする
- その5:「清潔さ」と「物理的な距離感」
その1:「自分が主役」というエゴを手放す
ヒュームによれば、人間はもともと自尊心を持ち、自分を重要な存在として扱ってほしいと感じやすい生き物です。
これは決して悪いことではありません。
自分を認めてほしい、評価されたい、話を聞いてほしいという気持ちは、多くの人が持っている自然な感情です。
しかし、グループの全員が「自分こそが中心でいたい」と思い、そのまま行動したらどうなるでしょうか。
誰も相手の話を聞かず、会話は自慢や自己主張ばかりになり、その場はすぐに疲れる空間になってしまいます。
そこで必要になるのが、ヒュームのいう「よいマナー(Good manner)」です。
ここでいうマナーとは、形式ばった礼儀作法のことではありません。
相手のために、自分のエゴ(我欲)を少しだけ脇に置く態度のことです。
たとえば、過度に話しすぎないこと、自分の話題にばかり持っていかないこと、相手に質問すること、相手の話を本当に聞くことです。
好かれる人は、目立とうとして場を支配するのではありません。
むしろ、相手が自然に話せる空間をつくることで、その場全体を居心地のよいものにします。
「自分を小さく見せる」のではなく、「相手が安心して存在できる余白をつくる」ことが、好かれる人の第一歩なのです。
その2:場を重くしすぎず「軽やかさ」を保つ
私たちは、ずっと深刻な空気の中にいると疲れてしまいます。
もちろん、真剣に話すべき場面はあります。
悲しんでいる人の前で無理に冗談を言う必要はありませんし、重要な話題を軽く扱いすぎれば、相手を傷つけることもあります。
しかし、日常の会話では、ほどよい明るさや軽やかさが人間関係を楽にしてくれます。
ヒュームは、軽やかさや快活さには人の好意を自然に引き寄せる力があると考えました。
一緒にいると少し気分が軽くなる人、会話の空気をやわらかくしてくれる人は、グループの中でありがたい存在になります。
これは、常に面白いことを言わなければならないという意味ではありません。
芸人さんのように笑いを取ろうとする必要もありません。
大切なのは、会話の流れを必要以上に重くしないことです。
小さな失敗を笑いに変えたり、相手が話しやすいように反応したり、場が固まったときに少し空気をゆるめたりすることです。
深刻さだけでは、人は長く一緒にいられません。
人間関係には、少し息を抜ける瞬間が必要です。
好かれる人は、その「息抜き」を自然につくれる人なのです。
その3:自分を大きく見せるのでなく「他人を輝かせる」
傲慢な人は、なぜ嫌われやすいのでしょうか。
ヒュームは、過剰な虚栄心が他人の虚栄心を脅かすからだと考えました。
つまり、自分の成功、美しさ、能力、富、人気などを強く見せつける人は、周囲の人に「自分は劣っている」と感じさせやすいのです。
もちろん、自分の成果を喜ぶこと自体は悪いことではありません。
努力が実ったときにうれしくなるのは自然なことです。
しかし、それを何度も誇示したり、相手を下に見る形で語ったりすれば、その場の空気はすぐに悪くなります。
好かれる人は、自分の価値を証明し続けようとはしません。
むしろ、内なる静かな自信を持っています。
だからこそ、他人を素直に褒めることができます。
相手の得意なことに気づき、成果を認め、その人らしさを言葉にして伝えることができます。
これは、わざとらしいお世辞とは違います。
相手の存在をきちんと見ているというサインです。
人は、自分をよく見てくれる人のそばにいたいと感じます。
グループの中で好かれる人は、必ずしも一番目立つ人ではありません。
周囲の人を自然に輝かせられる人なのです。
その4:「場の空気」を読んだふるまいをする
好かれる人は、どんな場でも同じふるまいをするわけではありません。
友人同士のくだけた会話、仕事の会議、初対面の集まり、落ち込んでいる人との対話では、それぞれふさわしい態度が変わります。
ヒュームは、年齢、性別、性格、社会的立場などを踏まえ、その場に合ったふるまいや会話をすることの重要性を指摘しました。
これは、自分を偽るという意味ではありません。
相手や場面に合わせて言葉や態度を調整することは、人間関係における大切な知恵です。
中国の思想家・孔子も、社会の中でその場にふさわしくふるまうことを重視しました。
ヒュームの考えも、これに近いものがあります。
たとえば、酒場でなら笑える冗談でも、厳粛な場では不適切になることがあります。
若者同士なら自然なノリでも、年長者の前では軽すぎる印象を与えることがあります。
親しい友人には通じる言い方でも、初対面の人にはきつく聞こえることがあります。
好かれる人は、こうした違いに敏感です。
自分らしさを保ちながらも、相手が安心できる距離感を選びます。
その場の温度を読み、自分の声の大きさや話題、冗談の強さを調整します。
グループ内で信頼される人は、「どこでも同じ自分」を押し通す人ではなく、「その場の人たちが過ごしやすい自分」を選べる人なのです。
その5:「清潔さ」と「物理的な距離感」
最後の心構えは、驚くほど基本的なものです。
それは清潔さと物理的な空間への配慮です。
ヒュームは、身体的な清潔さを、他人にすぐ好まれる徳のひとつとして挙げました。
現代では、シャワーを浴びることも、石けんや歯磨き粉を使うことも、身だしなみを整えることも、多くの人にとっては当たり前になっています。
しかし、だからこそ清潔さへの無関心は、周囲に強い不快感を与えやすくなります。
人と会うときに強いにおいを放っていないか、服が不潔ではないか、相手が不快に感じる行動をしていないかに気を配ることは、単なる見た目の問題ではありません。
それは、相手と同じ空間を共有するうえでの配慮です。
また、物理的な距離感も重要です。
声が大きすぎる、体の動きが大きすぎる、相手に近づきすぎる、荷物や体で場所を取りすぎる。
こうした行動は、本人に悪気がなくても、周囲には「居心地の悪さ」として伝わります。
好かれる人は、相手の心だけでなく、相手の身体的なスペースにも注意を向けています。
におい、距離、姿勢、声の大きさ、動きの大きさ。
そうした細かい要素が積み重なって、「この人と一緒にいると楽だ」という印象をつくっているのです。
好かれる人は「自分を消す人」ではなく「場を楽にする人」
ヒュームの考えをもとにすると、好かれる人とは、特別なカリスマを持つ人ではありません。
会話の中心を奪わず、場を少し軽くし、他人を輝かせ、その場に合ったふるまいを選び、同じ空間にいる人への配慮を忘れない人です。
つまり、好かれることは、表面的なテクニックだけで決まるものではありません。
それは、自分と相手が同じ場で気持ちよく過ごすための、ささやかな調整の積み重ねです。
人間は、今でも集団の中で生きる動物です。
昔のように、嫌われたからといって群れから置き去りにされることはほとんどありません。
しかし、感じのよい人、協力しやすい人、一緒にいて疲れない人のまわりには、今でも自然と人が集まります。
グループ内で一番好かれる人になるために必要なのは、自分を偽ることではありません。
相手が少し楽にいられるように、自分のふるまいを少し整えることなのです。
参考文献
A philosopher’s 5 tips on how to become the most likeable person in the room
https://bigthink.com/mini-philosophy/a-philosophers-5-tips-on-how-to-become-the-most-likeable-person-in-the-room/
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部
