約束の時間を守る、やるべきことを最後までやる、部屋や予定をきちんと整える。
そんな「まじめで誠実な人」は、仕事でも人間関係でも信頼されやすい存在です。
しかし近年の心理学研究では、この誠実さには意外な二面性があることが示されています。
誠実な人は、人生のトラブルを避け、物事に深く没頭しやすい一方で、日常の喜びやユーモアを感じにくい傾向もあるかもしれないのです。
研究の詳細はベルギーのルーヴェン・カトリック大学(KU Leuven)らにより、2025年6月27日付での学術誌『Personality』に掲載されています。
目次
- 誠実な人は、喜びを感じにくい?
- 退屈な作業にも深く入り込める強み
誠実な人は、喜びを感じにくい?
心理学でいう「誠実性」とは、責任感、計画性、自己管理、几帳面さ、粘り強さなどを含む性格特性です。
ビッグファイブ性格特性では「外向性」「協調性」「開放性」「神経症傾向」と並ぶ、人間の性格を表す主要な軸の1つとされています。
誠実性の高い人は、予定を守り、指示を理解し、物事を順序立てて進めるのが得意です。
この特徴は、社会生活では大きな武器になります。
しかし今回の研究では、誠実性の高い人、とくに秩序性の高い人ほど、あるユーモラスな映像に対して「喜び」を感じにくい傾向が示されました。
研究では、参加者に感情を引き起こす映像を見せ、怒り、嫌悪、恐怖、喜び、悲しみ、驚きなどの反応を調べています。
その結果、映画『恋人たちの予感』の有名な食堂シーンを見たとき、誠実性の高い人ほど面白さを感じにくい傾向がありました。
一方で、誠実性の高さは、全般的な悲しみの感じやすさとも低く関連していました。
これは、几帳面な人が感情に乏しいという意味ではありません。
むしろ、自分の環境を整え、予測できない混乱を減らすことで、悲しみを引き起こすような出来事に巻き込まれにくい可能性があります。
言い換えるなら、誠実な人は「人生の地雷を踏みにくい」一方で、思わず笑ってしまうような偶然や脱線も少なくなるのかもしれません。
整った道を歩くことは安全ですが、そこには寄り道で出会う楽しさが少ない場合もあるのです。
退屈な作業にも深く入り込める強み
またチームは、性格と「フロー体験」の関係を調べるため、24件の研究を統合したメタ分析を行いました。
フローとは、作業に深く没頭し、時間の経過を忘れるような心理状態を指します。
スポーツ、勉強、仕事、創作活動などで、「気づいたら何時間も集中していた」という状態がこれに近いものです。
分析の結果、ビッグファイブの中でフローと最も強く関連していたのは誠実性でした。
誠実性とフローの関連は、外向性、開放性、協調性などよりも大きな関連が見られました。
これは、誠実な人ほど必ずフローに入るという意味ではありません。
しかし、目標に向けて集中を保ち、課題に粘り強く取り組み、努力を調整する力は、フローに入りやすい条件とよく重なります。
多くの人にとって退屈に感じられる作業でも、誠実な人はその中に手順や達成感を見つけ、深く入り込める可能性があります。
つまり、まじめさは「面白みのなさ」ではなく、「集中して物事を進める力」とも言えるのです。
笑いのツボは少し浅くないかもしれません。
しかし、日々の仕事や学習に意味を見いだし、黙々と前に進む力は、人生の大きな支えになります。
まじめで誠実な人は、場を盛り上げるタイプではないかもしれません。
しかし、約束を守り、混乱を避け、必要な作業に深く没頭できるという強みを持っています。
一方で、秩序を重んじすぎると、偶然の笑いや寄り道の楽しさを取りこぼすこともあるでしょう。
誠実性は、人生を安全で着実に進めるための優れたエンジンです。
ただし、そのハンドルを少し緩めることで、思いがけない喜びにも出会えるのかもしれません。
参考文献
Is It Possible to Be Too Good?
https://www.psychologytoday.com/us/blog/fulfillment-at-any-age/202605/is-it-possible-to-be-too-good
元論文
The Relationship Between Personality and Flow: A Meta-Analysis
https://doi.org/10.1111/jopy.70004
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部
