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クチバシを失ったオウム、群れで全勝の”絶対王者”となる


ある幼いオウムは幼い時からクチバシの上半分が失われていました。

しかし時が経つにつれ、その大きな不利は弱さではなく、むしろ他の仲間を圧倒する強さへと変わっていきます。

ニュージーランドのカンタベリー大学(University of Canterbury)を中心とする研究チームは、この重い障害を持つオウムが、独自の戦い方によって群れの最上位に立っていることを明らかにしました。

しかもその強さは見かけだけではなく、争いの勝敗、餌場での優先権、他個体との関係、さらにはストレスの低さにまで表れていました。

この研究は2026年4月20日付で『Current Biology』に掲載されました。

目次

  • クチバシのないオウムが群れで最強になる
  • 障害を「弱点」ではなく「武器」に変えた

クチバシのないオウムが群れで最強になる

動物の社会では一般に、体が大きい個体や、角や牙、クチバシのような武器が強い個体ほど争いに勝ちやすく、群れの中で高い順位を得ると考えられています。

こうした考え方は従来の研究で広く知られており、身体的な不利を持つ個体は、どうしても競争で押し負けやすいとみなされがちです。

ところが今回注目されたオウム「ブルース」は、その常識から大きく外れていました。

ブルースは絶滅危惧種のミヤマオウム(Nestor notabilis)です。

そして上クチバシを完全に失っており、群れの中で唯一の重い障害を持つ個体でした。

画像
上のクチバシを失ったブルース / Credit:Alexander A. Grabham(University of Canterbury)et al., Current Biology(2026)

本来なら、餌を扱うときも、争うときも、不利になりやすいと考えられる存在です。

それでも過去の研究では、道具を使って自分の不便さを補う行動が報告されており、研究者たちから注目を集めていました。

失ったクチバシを「道具」で補うオウム、世界初の事例

では、そのブルースは群れの中でどんな関係を築くのでしょうか。

今回、研究チームは、飼育下にいるケア12羽、オス9羽とメス3羽を4週間にわたって観察しました。

記録された対立行動は合計227回にのぼり、そのうちオス同士の争いは162回でした。

誰が誰に勝ったのかを細かく記録し、オスたちの社会順位を分析したのです。

その結果は驚くべきものでした。

ブルースは観察されたオス同士の争い36回ですべてに勝利し、オスの中で最上位、つまりアルファオスと位置づけられました。

重い障害を抱えながら、健康なオスたちを相手に無敗だったことになります。

さらに研究者たちは、フンを分析してストレスに関係するホルモンの代謝物も調べました。

すると、順位の低いオスほどストレスの値が高く、反対に最上位のブルースは最も低い値を示していました。

群れの頂点にいる個体は周囲から挑まれ続けて負担が大きいのでは、と想像したくなりますが、この群れではむしろ逆の傾向が見られたのです。

では、ブルースはどのようにして今の地位を得たのでしょうか。

障害を「弱点」ではなく「武器」に変えた

通常ミヤマオウムは、クチバシで上から噛みつくような攻撃をよく使います。

ところがブルースは上クチバシがないため、そのやり方ができません。

代わりに彼が使っていたのは、下クチバシを前方へ突き出す独特の攻撃でした。

ブルースは近距離では首をぐっと伸ばして突き、距離があるときには走ったり跳んだりして勢いをつけて相手にぶつけます。

この攻撃の方向は他のミヤマオウムとはかなり違っており、普通の個体があまり狙わない部位にも当たっていました。

しかも、この突き攻撃は73%という高い確率で相手をその場から押しのけており、少なくともブルースにとっては強力な武器になっていたようです。

つまりブルースは、失ったクチバシをただ補おうとしたのではありません。

むしろその欠損を利用し、他の個体には真似しにくい新しい戦法を生み出していたのです。

この優位は争いの場だけに限りませんでした。

ブルースは餌場にも真っ先に現れやすく、食べている最中に他個体から挑まれることもありませんでした。

さらに、非つがいの個体から毛づくろいを受けた唯一の個体でもありました。

しかもその相手には下位個体が多く、これは群れの中でブルースが特別な立場にあったことを示しています。

これまで動物の世界では、障害があれば不利になるという見方が強くありました。

もちろん多くの場合、それは正しいでしょう。

しかし今回のブルースは、その前提がいつでも当てはまるわけではないことをはっきり示しました。

体の条件そのものよりも、どう行動するかが結果を大きく変えることがあるのです。

しかも重要なのは、ブルースが他個体との同盟に頼らず、自分ひとりの行動の工夫でアルファオスになっていた点です。

今後は、こうした事例が動物の行動の柔軟さや、障害をどう捉えるべきかを考える上で大きな手がかりになるかもしれません。

ブルースの姿は、弱点と思われていたものが、見方を変えれば新しい強さにもなりうることを教えてくれます。

全ての画像を見る

参考文献

Endangered Parrot Missing Half His Beak Invents a New Fighting Style to Become the Undisputed Alpha Male
https://www.zmescience.com/ecology/animals-ecology/bruce-the-alpha-male/

元論文

A disabled kea parrot is the alpha male of his circus
https://doi.org/10.1016/j.cub.2026.03.004

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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