私たちは誰かにプレゼントしたとき、幸せで嬉しい気持ちがこみあげてくるものです。
では、こうした私たちの傾向はいつからあるのでしょうか。
カナダのブリティッシュコロンビア大学(UBC)の研究チームは、幼児を対象にした実験から、人に与えることそのものが喜びにつながっている可能性を示しました。
研究では、幼児は「もらう」ときよりも「誰かにあげる」ときのほうが、より強い幸福反応を示したのです。
この研究は2026年3月17日付で『Developmental Science』に掲載されています。
目次
- 1.5~2歳の幼児は「もらう」より「与える」方が幸せ
- 幼児はすでに「人に与える喜び」を感じていた
1.5~2歳の幼児は「もらう」より「与える」方が幸せ
人間は、食べ物を分けたり、困っている人を助けたりと、自分の得にならないことでも他人のために行動します。
こうした行動は、心理学では「向社会的行動」と呼ばれます。
ではなぜ人は、ときに自分の取り分を減らしてまで誰かに与えるのでしょうか。
これまでの研究では、人に何かをしてあげると、自分も気分がよくなることが知られていました。
心理学ではこの感覚を「ウォームグロー」と呼びます。
簡単にいえば、良いことをしたときに生まれる温かい満足感のことです。
大人ではよく知られた現象ですが、それがどれほど早い時期から見られるのかは、まだ十分には分かっていませんでした。
しかも、これまでの幼児研究には1つ大きな問題がありました。
子どもたちはたいてい、大人に「これをあげてね」と言われて行動していたのです。
そのため、子どもがうれしそうにしていた理由が、本当に「与えること」が好きだからなのか、それとも「大人の言う通りにできた」ことがうれしかっただけなのかが、はっきりしませんでした。
そこで今回の研究では、この点をきちんと切り分けるために、16か月から23か月の幼児134人を対象に実験が行われました。
子どもたちは保護者の膝の上に座り、テーブル越しに研究者と向き合います。
そして保護者は子どもに影響を与えないよう、ヘッドホンで音楽を聞き、目を閉じた状態で待機しました。
実験ではまず、サルのぬいぐるみが登場し、「おやつが好きだ」と説明されます。
次に子どもは8個のおやつを受け取り、「もらう」経験をします。その後、子どもは4つの場面を体験しました。
1つ目は、自分がもらったおやつの中から1つをサルに渡すよう、研究者からお願いされる場面です。
子どもは自分の取り分が減るので、「コストあり」の条件です。
2つ目は、研究者が新たに出したおやつをサルに渡す場面です。
こちらは自分の取り分が減らないため、「コストなし」の条件です。
3つ目は、研究者がサルにおやつをあげる様子を、子どもがただ見ているだけの場面です。
そして4つ目が、この研究で特に重要な条件です。
研究者が出したおやつを、子どもが自分のものとして受け取る場面です。
この条件では、大人の指示に従うことは同じですが、「相手のために行動する」という要素はありません。
子どもたちの感情は、実験中の顔の表情をビデオで記録し、研究の目的を知らない第三者が7段階で評価しました。
その結果、子どもたちは「もらう」ときよりも「与える」ときのほうが、より強い幸福反応を示しました。
さらに、ただ見ているだけのときよりも、子ども自身が実際に与えたときのほうが、全体としてより強い幸福反応が見られました。
では、その違いはどこまで確かなものだったのでしょうか。より詳細な結果を見てみましょう。
幼児はすでに「人に与える喜び」を感じていた
詳しい分析から、いくつか重要なことが明らかになりました。
まず、子どもたちは自分のおやつを減らしてサルにあげる場合でも、研究者が用意したおやつを渡す場合でも、どちらでも高い幸福反応を示しました。
つまり今回の実験では、「どれだけ損をしたか」よりも、「他人のために行動したかどうか」のほうが重要だったのです。
しかも、自分の取り分を減らす場合と減らさない場合のあいだには、はっきりした差は見つかりませんでした。
次に注目すべきは、「自分のものとして受け取る」条件です。
子どもたちはこの場面では、特に強い喜びを示しませんでした。
その反応は、最初におやつをもらった場面と大きく変わらなかったのです。
ところが、同じように研究者の指示に従っていても、サルに与える場面では明らかに幸福反応が高くなっていました。
この結果によって、子どもの笑顔は「指示に従えた満足感」だけでは説明しにくいことが分かります。
少なくとも今回の実験では、子どもたちは単に大人の言うことを聞けたからうれしかったのではなく、「相手に与える」という行動そのものに、より強いポジティブな反応を示していたのです。
さらに研究チームは、子どもたちの喜びがサルの反応に引っ張られただけではないかも調べました。
もしサルがうれしそうにしていたから子どもまで楽しくなったのなら、それは「親切をした喜び」ではなく、相手の感情につられただけかもしれません。
ですが実際には、サルのうれしそうな反応の強さと、子どもの幸福反応には明確な関係がありませんでした。
つまり、子どもたちの喜びは、相手の表情につられた結果というより、自分で親切な行動をしたことと結びついていた可能性が高いのです。
これらの結果は、かなり幼い段階から、他人に分け与える行動そのものが感情的な報酬になっている可能性を示しています。
研究者たちは、こうした内的な報酬が、利他的な行動をくり返しやすくし、人間の協力的な社会を支える土台の1つになっているのかもしれないと考えています。
もちろん、この研究にも限界はあります。
参加したのは北米の1都市に住む家庭の幼児が中心で、文化や生活環境が異なる場合にも同じ傾向が見られるかは、まだ分かりません。
また、今回の感情評価は表情の観察にもとづいているため、今後は瞳孔の変化や皮膚の反応など、より客観的な指標を使った研究が進めば、理解はさらに深まりそうです。
それでも今回の結果は、「人に与えるとうれしい」という感覚が、私たちが思っているよりずっと早い時期から芽生えている可能性を示しています。
あなたも、わずか1.2歳のときから、「与える」ことで幸せを感じていたのです。
参考文献
Toddlers are happier giving treats to others than receiving them, study finds
https://www.psypost.org/toddlers-are-happier-giving-treats-to-others-than-receiving-them-study-finds/
元論文
Toddlers Are Happier Giving to Others Than to Themselves
https://doi.org/10.1111/desc.70171
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部
