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仕事への意欲が高い人ほど職務とは無関係な追加業務を振られやすい


「仕事が楽しく、今の業務にやりがいを感じている」――そんな前向きな姿勢で働く人ほど、なぜか本来の職務とは直接関係のない事務作業や委員会活動といった、付随的な業務を割り振られてしまう、職場でそんな問題を目にしたことはないでしょうか。

日本でも、仕事のやりがいを理由に不当な負担を強いる「やりがい搾取」という言葉が注目されてきましたが、多くの人が職場で感じる「なぜか頑張る人ほど損をする」構図について、新たな研究は、管理者が陥りやすい特定の心理的偏りが関係している可能性を報告しています。

この実態を調査したのは、アメリカのノースイースタン大学(Northeastern University)のサンガ・ベ(Sangah Bae)助教授と、コーネル大学(Cornell University)のケイトリン・ウーリー(Kaitlin Woolley)教授らの研究チームです。

サンガ助教授自身、かつて若手アナリストとして働いていた際、自身の仕事への情熱が原因で、定時直前に追加のレポート作成を依頼され続けたという経験があり、それがこの研究の動機になっているという。

研究チームは、4,300人以上が参加した複数の調査・実験・シミュレーションを通じて、仕事そのものに喜びを見出す人ほど、本来の役割以外のタスク(out-of-role work)を割り振られやすくなる現象を示しました。

研究チームは、この現象を「熱意の代償(enthusiasm penalty)」と表現しています。

この研究の詳細は、2026年3月11日付けで科学雑誌『Organization Science』に掲載されています。

目次

  • 意欲がある人ほど負担が増える? 4,300人のデータが示す「熱意の代償」
  • 組織の崩壊につながる危険

意欲がある人ほど負担が増える? 4,300人のデータが示す「熱意の代償」

研究チームが最初に着目したのは、多くの職場で見られる「熱心な人に仕事が集中する」という現象でした。

研究の中心となったサンガ・ベ(Sangah Bae)助教授は、自身の若手時代、仕事に熱心に取り組むあまり、定時直前にさらなる業務を依頼され続けた経験を持っています。

彼女は、この「熱意」というポジティブな要素が、実は従業員にとって予期せぬ負担を招いているのではないかという疑問を抱きました。

この問いを検証するため、研究チームは様々な業界のマネージャーや従業員、合計4,300人以上を対象とした複数の調査と実験を行いました。

まず、実際に部下を持つマネージャーたちを対象にした調査では、興味深い傾向が確認されました。

マネージャーたちは、2人の部下のうちどちらか一方に追加の業務を割り当てる際、55%の割合で「仕事に意欲的な部下」を選択しました。

ここで割り当てられた仕事は、書類整理や委員会への出席といった、本人の本来の職務とは直接関係のない「役割以外の業務(out-of-role work)」です。

さらに、この偏りが従業員にどのような実害を与えるのかを詳しく調べるため、研究チームは100人の参加者を集めたラボ実験を行いました。

この実験では、参加者を上司役と部下役に分け、部下役にはデータ入力作業を競わせ、成績が優秀な方に5ドルのボーナス(金銭的報酬)を出すというルールを設定しました。

実験の途中で、上司役は「ボーナス獲得のための作業を中断させる追加の仕事」を、どちらか一人の部下に割り当てるよう指示されます。

その結果、上司役の74%が「意欲が高い」とされる部下に追加の仕事を任せるという決断を下しました。

その結果、追加業務を振られやすかった「意欲の高い部下」は、ボーナスを獲得できた割合が約30%にとどまりました。

つまり、仕事への意欲が高い人ほど職務とは無関係な追加業務を振られやすく、そのしわ寄せによって本来なら得られた成果や報酬まで失いやすくなることが示されたのです。

研究チームは、こうした判断の背景に、相手のやる気の源を単純に決めつける見方があることを特定しました。

これはどういうことかというと、管理者には「今の仕事を楽しんでいる人なら、追加の退屈な仕事も同じように楽しんでくれるだろう」と、他人の心理を単純に捉えてしまう傾向があったのです。

このようにマネージャーは、仕事に熱心な従業員を「罪悪感なく雑用を頼みやすい相手」とみなし、無意識のうちに判断の近道にしていたのです。

問題は、こうした上司の見方が、実際の従業員の負担の感じ方と大きく食い違っている点です。

組織の崩壊につながる危険

研究チームがさらに詳細な分析を行ったところ、上司と部下の間には「仕事の満足度」に関する深刻な認識の乖離があることが判明しました。

マネージャーたちは、追加の業務を割り当てても部下の満足度はわずか(0.2ポイント程度)しか下がらないだろうと予測していました。

しかし、実際に仕事を増やされた従業員たちの満足度は、マネージャーの予測の5倍にあたる1.0ポイントも低下していたのです。

また、マネージャーたちは「仕事を楽しんでいる人はストレスに強く、燃え尽きにくい」という誤った思い込みを抱いていることも確認されました。

実際には、内発的動機づけ、つまり仕事そのものに意味や楽しみを見出している人であっても、過度な負担があれば同様に疲弊し、本来の業務のパフォーマンスを落とすおそれがあります。

この問題の恐ろしい点は、一度きりの偏りでは終わらないということにあります。

研究チームが6日間にわたる業務割り当てのシミュレーションを行ったところ、特定の意欲的な部下に仕事が集中し続けるという「不公平の固定化」が確認されました。

こうした不均衡な状態が続くと、組織全体の公平感が失われ、優秀な人材ほど疲弊して去ってしまうという、組織にとっての損失に繋がる恐れがあります。

一方で、この研究ではこうした心理的なバイアスを抑制するための具体的な方法も示されています。

一つは、タスクが発生するたびにその場で割り振るのではなく、複数のタスクをまとめた上で均等に分担を割り振ることです。

この方法を取るとマネージャーは全体の業務量を俯瞰することができ、特定の個人に仕事が偏っていることに気づきやすくなって、公平な業務の分配が行われるようになりました。

もう一つは、管理者に対して「熱心な従業員でも、追加業務によって燃え尽きるリスクがある」という事実を教育することです。

こうした知識を事前に得るだけで、マネージャーが特定の従業員に依存する傾向は大きく弱まりました。

この研究が対象としたのは、主に「本来の評価に繋がりにくい付随的な業務」ですが、これが日本の職場で言われる「やりがい搾取」と地続きの問題であることは明らかです。

日本のような周囲への配慮を重んじる職場環境では、こうした「頼みやすい人への集中」がより深刻な形で現れる可能性があると考えられます。

熱意は、決して無限に湧き出る魔法の資源ではありません。

マネジメント側には、個人の善意に甘えるのではなく、その意欲を保護すべき大切な資産として管理し、公平に分配する姿勢が求められていると言えるでしょう。

全ての画像を見る

参考文献

The enthusiasm penalty: Why motivated employees get overburdened

The enthusiasm penalty: Why motivated employees get overburdened
https://business.cornell.edu/hub/2026/03/24/the-enthusiasm-penalty-why-motivated-employees-get-overburdened/

元論文

Managers Allocate Additional Tasks to Intrinsically Motivated Employees: Exploring Mechanisms, Consequences, and Solutions
https://doi.org/10.1287/orsc.2023.18332

ライター

相川 葵: 工学出身のライター。歴史やSF作品と絡めた科学の話が好き。イメージしやすい科学の解説をしていくことを目指す。

編集者

ナゾロジー 編集部

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