博物館で長年保管されていたあるクモは、まるで真珠のネックレスをつけているように見えました。
しかし詳しく調べてみると、その正体は装飾ではなく、クモに寄生して体液を吸っていたダニの幼生だったのです。
この奇妙な発見を報告したのは、ブラジルのブタンタン研究所(Instituto Butantan )の研究者たちです。
彼らは、ブラジルではこれまで記録のなかったクモ寄生性のダニを、新種として正式に記載しました。
この研究成果は、2025年10月7日付の『International Journal of Acarology』に掲載されています。
※2ページ目にクモの画像があります。苦手な方はご注意ください。
目次
- 博物館に眠っていたクモに”真珠のネックレス”らしきものが……実は新種ダニだった
- 新種ダニはクモの「弱点」を突いていた
博物館に眠っていたクモに”真珠のネックレス”らしきものが……実は新種ダニだった
今回の発見の舞台となったのは、ブラジルにある動物標本の保管施設です。
研究者たちは、リオデジャネイロ州で採集され、長年ガラス瓶の中で保管されてきた幼体のクモを調べていました。
その中の一個体に、肉眼では気づきにくいものの、拡大すると明らかに異様な構造が見つかりました。
クモの頭胸部と腹部の境目に、小さな球状の粒が輪を描くように並んでいたのです。
まるでクモが真珠のネックレスをつけているかのようです。
この正体を確かめるため、研究チームは調査を開始します。
すると、その球体はすぐに寄生性ダニの幼生であると判明します。
しかも、それらは単に付着しているだけでなく、体液を吸って大きく膨らんだ状態でした。
研究者たちは、光学顕微鏡と走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、これらのダニ幼生の形態を詳しく分析しました。
体の構造や表面の微細な特徴を既知の種と比較した結果、どの種にも一致しないことが明らかになります。
こうして記載されたのが、新種 Araneothrombium brasiliensisです。
このダニは、これまでコスタリカでしか知られていなかった Araneothrombium 属に属しており、ブラジルでの確認は今回が初めてでした。
さらに分析の結果、このダニは3つの異なる科の幼体クモに寄生していることも分かりました。
では、どのような仕組みで装甲の硬いクモに取り付き、なぜ幼生の姿しか見つからないのか、その理由を次項で見てみましょう。
※次項にはクモの画像があります。閲覧注意です。
新種ダニはクモの「弱点」を突いていた
クモの体は、キチン質からなる硬い外骨格に覆われています。
これは外敵から身を守るための、いわば生物学的な装甲です。
寄生生物にとって、この装甲を貫くことは容易ではありません。
だからこそ、ダニの幼生が集まっていた場所には理由があります。
それは、頭胸部と腹部をつなぐ細い部分です。
この部位は構造上、他の部分ほど厚い外骨格で守られておらず、体内の体液にアクセスしやすい弱点になっています。
ダニの幼生はこのペディセル周辺に取り付き、クモの体内を循環する血リンパを吸います。
血リンパは、酸素や栄養、免疫反応を担う重要な体液です。
研究で観察された幼生はすべて、吸血後に膨張しており、「真珠のネックレス」に見えたのは、この膨らんだ幼生が輪状に並んでいたためでした。
Descrito 2º #ácaro parasita de #aranhas do Brasil. Encontradas na coleção do @butantanoficial parasitando #aracnídeos juvenis, larvas do Araneothrombium brasiliensis pertencem a gênero que só tinha uma espécie conhecida até então, na Costa Rica. https://t.co/6gAMRnKGTxpic.twitter.com/6XLFWiORPB
— Agência FAPESP (@AgenciaFAPESP) January 16, 2026
また、この研究で確認されたのは、ダニの幼生段階のみです。成体は見つかっていません。
これは異常なことではなく、同じグループのダニでは、幼生期だけが寄生生活を送り、成長すると土壌で自由生活をする捕食者になることが知られています。
幼生段階とは異なり、成体は発見されにくいのです。
そして、この研究が投げかける重要なメッセージの一つは、博物館標本の価値です。
今回のダニは、何年も前に採集され、標本として保管されてきたクモの中から見つかりました。
ガラス瓶の中で眠っていたクモを改めて見直したことで、ようやく寄生者の存在に気づけたのです。
ブラジルではクモだけでも3000種以上が知られており、それらに付随する寄生生物は、まだほとんど調べられていません。
野外での追加採集や、ほかの動物に付いたダニ標本の収集を進めることで、新たな寄生ダニを発見できるかもしれません。
参考文献
This Brazilian Spider Appears to be Wearing a Pearl Necklace But the Truth Is Much Creepier
https://www.zmescience.com/ecology/animals-ecology/this-brazilian-spider-appears-to-be-wearing-a-pearl-necklace-but-the-truth-is-much-creepier/
This spider’s “pearl necklace” was living parasites
https://www.sciencedaily.com/releases/2026/01/260127112139.htm
元論文
First species description of Araneothrombium Mąkol, Felska and Król, 2017 (Trombidiformes: Microtrombidiidae) parasitizing spiders in Brazil
https://doi.org/10.1080/01647954.2025.2566344
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

