中国の雲南大学(雲南大学・Yunnan University)で行われた研究によって、5億1800万年前のカンブリア紀に暮らしていた世界最古の脊椎動物の化石には、4つの目がある可能性が示されました。
顕微鏡では追加の2つの目が詳細に調べられており、人間の目と同じしくみをもつ「カメラ型の目」で、像を結ぶことができた可能性があります。
また研究では余分な2つの目が、現代の脊椎動物の脳の松果体複合体がある場所と一致することが示されています。
松果体は今では脳の中で睡眠ホルモンを出す地味な器官ですが、遠い祖先では頭の上に飛び出した、本物の目として働いていた可能性があります。
研究内容の詳細は2026年1月21日に『Nature』にて発表されました。
目次
- 「目は2つ」が当たり前になる前の世界
- 脊椎動物の目は4つから始まった可能性が見えてきた
- 教科書を書きかえるかもしれない“四つ目の祖先”像
「目は2つ」が当たり前になる前の世界

普段、脊椎動物の「目」といえば2つが当たり前ですよね。
実際、哺乳類や鳥、魚にいたるまで脊椎動物の標準装備は左右一対の2つの目です。
しかし、中には頭頂に「第三の目」を持つ不思議な生き物もいます。
例えば一部のトカゲの仲間には頭の上に光を感じることのできる小さな目(頭頂眼)が存在します。
ヒトを含む多くの脊椎動物でも脳内に「松果体複合体(しょうかたいふくごうたい)」と呼ばれる光に反応する器官があり、夜になるとメラトニンという睡眠ホルモン(眠気を誘う物質)を分泌しています。
ヤツメウナギのような原始的な魚では、この松果体が今でも簡単な「小さな目」のように光に直接反応できる例も知られています。
発生学的に見ても、通常の目と魚やトカゲたちの頭頂部にある「第三の目」と松果体は同じ場所から出現することが知られています。
このため、「松果体はもともと目だったものが退化した姿ではないか」という第三の目理論が昔からありました。
しかし、化石からそれを直接示す決定的な証拠はありませんでした。
そんな中で注目されてきたのが、中国・雲南省の澄江生物群でした。
ここはカンブリア紀の軟体部まで残る化石の宝庫であり、最古級の魚型脊椎動物・ミロクンミン類(顎のない原始的な魚の一群)の化石が多数見つかっています。
その頭部には、左右の大きな目にくわえ、その間に小さな黒い斑点が2つ並んでいるものが多く、「鼻の袋(nasal sac)」の跡だろうと解釈されてきました。
しかし、もしこの小さな黒い点も「目」だったとしたらどうでしょうか。
左右の大きな目と合わせて、合計4つの目をもった魚が、脊椎動物の祖先だった可能性が出てきます。
そこで研究者たちは、「黒い点の中身を、現代の技術で徹底的に調べ直してみよう」と考えました。
本当にそんな“四つ目のご先祖さま”なんていたのでしょうか?
脊椎動物の目は4つから始まった可能性が見えてきた

脊椎動物の祖先は4つの目を持っていたのか?
その答えを得るために、研究者たちはまず、ミロクンミン類の2種から集められた10個の頭部化石を高解像度で撮影し、顔の構造を丁寧にスケッチしました。
これらの化石の中には、一枚の岩に何匹もの個体がいっしょに閉じ込められているものもあり、当時は群れで泳いでいた可能性もあります。
すると、左右の大きな目のあいだに、対になった小さな暗い斑点が、毎回同じ位置に現れることが分かりました。
次に、その暗い部分を、ごく小さく削って電子顕微鏡で観察しました。
すると、中にはメラニンをふくむ粒がぎっしり並んでいたことが判明。
さらに質量分析によってこの色素がメラニン(眼の色素)であることが確認されました。
さらに、直径80〜110マイクロメートルほどの、きれいな楕円形のかたまりがあることがわかりました。
この楕円型の痕跡は化石の中でクッキリと型押しされたように残っており、周囲の組織より腐りにくい硬い構造(硬いこうぞう、腐りにくい丈夫な部分)だったことを物語っています。
そのため研究チームはこの小さな楕円形の痕を「眼のレンズがそのまま化石に置き換わったもの」と解釈しました。
まとめると、左右の大きな目と、頭頂にある小さなペアの両方に、メラニン色素の粒が集まった網膜色素上皮らしき層と、その前にレンズらしき楕円形の構造がそろっていたことになります。
これは、光を受けて像を結ぶカメラ型の目に必要な部品です。
さらに位置関係を現生の魚と比べると、中央の目は松果体にあたる位置にあることも示されていると解釈されました。
このことから研究者たちは「四つ目」は、特定の一種だけの特徴ではなく、初期の脊椎動物に広く見られた祖先的な特徴だった可能性があると考えました。
そして私たちの脳内にある松果体もかつては、外側に飛び出した目だったという説が強化されることになりました。
教科書を書きかえるかもしれない“四つ目の祖先”像

今回の研究により、「最初の脊椎動物は四つのカメラ型の目を持っていたかもしれない」というシナリオが、かなり具体的な証拠とともに描けるようになりました。
研究では、四つの目がどんな役に立っていたのかについての興味深い考察もなされています。
捕食者と被食者の関係を見わたすと、前方の高解像度視覚が大事なのは「狩る側」であり、広い視野でとにかく“近づいてくる何か”を素早く見つけたいのは「逃げる側」です。
カンブリア紀の海は、捕食者と被食者が入り乱れる「暗い森」のような場所だったと研究チームはたとえています。
そのなかで、四つ目の魚たちは、左右の大きな目で前後左右を、頭頂の小さな目で真上や後ろの死角をカバーしつつ、危険だらけの海を泳いでいたのかもしれません。
ただ今回の研究成果をもって「脊椎動物の祖先は必ず4つ目だった」と言い切ることはできません。
確かに今回の分析対象になった化石は、既存の最古の脊椎動物のもので、研究者たちも4つ目について「初期の脊椎動物に広く見られた祖先的な特徴だった」と記しています。
ですが世界のどこかに、まだみつかっていない、より古い脊椎動物の化石があるかもしれません。
最終的な結論を得るには、同時期かそれよりも古い複数の化石において「4つ目」の痕跡を探す必要があるでしょう。
ですがそれらの問題が解決されれば「脊椎動物の目は4つ目からスタートした」という考えが一般的になっていくはずです。
また今回の研究結果から、私たちの脳の中にある松果体が、もともと頭のてっぺんに飛び出した本物の目玉だったかもしれない、という具体的な絵を思い浮かべられるようになりました。
もしかしたら未来の解剖学の教科書では、松果体の起源について「かつての目」として紹介されているかもしれません。
元論文
Four camera-type eyes in the earliest vertebrates from the Cambrian Period
https://doi.org/10.1038/s41586-025-09966-0
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部
