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「宇宙に滞在したマウス」が帰還後に子どもを出産


宇宙での生活が人間や動物にどんな影響を及ぼすのか、完全には分かっていません。

特に「宇宙に行くことで、将来子どもを持てなくなったりしないのか」という不安は、月や火星への長期滞在を考えるときに避けて通れない大きなテーマです。

こうした疑問に一歩近づく結果を示したのが、中国科学院(CAS)です。

中国科学院は、中国の宇宙ステーションに短期間滞在したマウスが、地球に帰還したあとに妊娠、9匹を出産し、そのうち6匹が健康に育っていることを報告しました。

詳細は、2025年12月29日に中国科学院のニュースルームにて公表されました。

目次

  • 宇宙帰りのマウス、1カ月後に子マウスを出産する
  • 宇宙滞在したマウスの出産が照らす道とは?

宇宙帰りのマウス、1カ月後に子マウスを出産する

今回の実験では、4匹のマウスが有人宇宙船「神舟21号(Shenzhou-21)」に搭載され、中国の宇宙ステーション「天宮(Tiangong)」の特別な飼育施設で約2週間生活しました。

打ち上げは10月31日、地球への帰還は11月14日です。

地上に戻ったあと、このうちの雌1匹が受胎し、12月10日に9匹の子マウスを出産しました。

生後まもなく3匹は死亡しましたが、多くの子を産むマウスでは珍しくない範囲の死亡率です。

そして残り6匹は元気に動き回り、母マウスも通常どおり授乳していることが確認されています。

ここで大事なのは、「宇宙で妊娠したわけではない」という点です。

マウスの妊娠期間はおよそ19〜21日で、出産日から逆算すると、受胎は宇宙から帰還したあとの地上で起きたことになります。

つまり、宇宙空間での受精や妊娠を直接確かめた実験ではありません。

それでも研究者たちが注目しているのは、「短期間とはいえ、宇宙という特殊な環境を経験したあとでも、マウスの体がその後ふつうに妊娠・出産できる状態を保っていた」という事実です。

中国科学院の研究員も、今回のミッションについて「短期間の宇宙飛行は、このマウスの繁殖能力を損なわなかった」と評価しており、短期の宇宙滞在そのものが、すぐに生殖能力をだめにしてしまうわけではないことが示されました。

ちなみに、このミッションでは、途中で想定外のトラブルにも見舞われています。

もともとマウスを回収する予定だった別の宇宙船のスケジュールが変わり、帰還が遅れてしまいました。

その影響で、終盤にはマウス用の専用飼料が足りなくなってしまったのです。

宇宙空間では、足りないからといってすぐに補充できるわけではありません。

そこで研究チームは、宇宙飛行士用の食材を候補に挙げ、地上で「マウスに与えても問題がないか」をテストしました。

その結果、安全だと判断された豆乳(ソイミルク)が一時的な代替食として選ばれ、マウスはそれでしのぐことになりました。

このように、マウスは 「宇宙での微小重力 」「帰還時のストレス 」「想定外の食料不足と代替食への切り替え」といった複数の負荷を経験しながらも、その後に妊娠し、子どもを産み、育てることができました。

では今回の結果から、どんな点を学べるでしょうか。

宇宙滞在したマウスの出産が照らす道とは?

今回の宇宙マウス実験では、生まれてくる前の準備だけでなく、実際の運用のやり方にも新しい工夫が盛り込まれていました。

その一つが、AIを使った行動モニタリングシステムです。

マウスのいるケージにはカメラやセンサーが設置されており、AIが「どのくらい動き回っているか」「きちんと餌を食べているか」「眠り方がいつもと違わないか」といった行動を自動で追い続けていました。

これにより、「何かおかしな変化が起きていないか」を地上側が素早く把握でき、今回のような食料問題が起きたときも、マウスの体調を見ながら対策を判断することができたといいます。

将来、もっと多くの動物を使った宇宙実験を行うときにもAIが役立つ可能性があります。

ちなみに、今回の成果をもって「宇宙での出産はもう安心」と考えることはできません。

まず、先ほど触れたように、今回のマウスは微小重力下で受精や妊娠をしたわけではなく、出産もすべて地球上で行われました。

「宇宙空間で妊娠が順調に進むのか」「無重力のもとで出産できるのか」といった、より直接的な疑問は、まだ手つかずのままです。

また、今回マウスが滞在していたのは地球のすぐ近くを回る低軌道で、地球の磁場に守られている場所でした。

月や火星に向かうときのように、もっと強い宇宙放射線に長期間さらされたわけではありません。

そのため、「強い放射線を浴びるような本格的な長期探査ミッションでも、同じように安全かどうか」は今後の研究課題として残っています。

さらに研究者たちが特に気にしているのは、「影響が本人だけでなく、次の世代やその先の世代に現れてこないかどうか」です。

宇宙の環境にさらされたことで、見た目は健康でも、将来の子どもや孫の世代で何か問題が出る可能性はないのかを確かめる必要があります。

そのため中国科学院では、今回生まれた子マウスがどのように成長し、体や健康にどんな変化が出るのかを長期的に観察していく予定です。

そして、その成長したマウスたちが「ふつうに子どもを産めるのか」も調べ、宇宙の影響が世代をまたいで出てこないかどうかを検証しようとしています。

人類が将来、本当に月や火星に住むことをめざすなら、「宇宙で暮らすこと」と同じくらい、「宇宙で命をつなぐこと」が重要なテーマになります。

宇宙に滞在したマウスが帰還後も命をつなげたという今回の事例は、人類がそのテーマに挑むうえで大切な一歩となりました。

全ての画像を見る

参考文献

Astronaut Mouse Delivers 9 Pups A Month After Return To Earth
https://www.iflscience.com/astronaut-mouse-delivers-9-pups-a-month-after-return-to-earth-82115

Mouse Births Pups After Space Mission, Paving Way for Future Research
https://english.cas.cn/newsroom/cas_media/202512/t20251229_1143173.shtml

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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