「毎日歩くことが大切」とはよく聞きますが、実は“歩き方”ひとつで将来の健康が大きく変わるかもしれません。
大阪公立大学などの研究チームが、膝や腰に負担をかけない「ソフトランディングテクニック」を高齢層向けに指導したところ、歩く際の衝撃が減り、より安全で続けやすい歩行が可能になることを示しました。
この新しい歩行法が、私たちの健康寿命を延ばすカギになるかもしれません。
研究の詳細は2025年7月22日付で学術誌『Sensors』に掲載されています。
目次
- 「歩幅を広げれば健康?」に潜む落とし穴
- 実証された「ソフトランディングテクニック」の効果
「歩幅を広げれば健康?」に潜む落とし穴
健康のために「大きな歩幅でしっかり歩こう」とアドバイスされることは多いものです。
たしかに大きく踏み出すことで下半身の筋肉をよく使い、筋力向上につながります。
しかし、その一方で「歩幅を広げすぎると着地の衝撃が大きくなり、膝や腰に負担がかかる」という事実はあまり知られていません。
研究チームは今回、「歩き続けたいのに膝や腰が痛む」と悩む高齢者が多いことに注目しました。
高齢者が安全に、痛みなく長く歩き続けるには、従来とは異なる歩き方が必要なのではないか。
そこで提案されたのが「ソフトランディングテクニック」です。
このテクニックは「前傾姿勢にならないよう、上体をまっすぐに保つ」「歩幅を広げすぎず、やや狭くする」「腰の下で着地するイメージで、衝撃を少なくする」など、いくつかのポイントを組み合わせたものです。
これにより膝や腰、股関節にかかる負担を減らすことができます。
実証された「ソフトランディングテクニック」の効果
では、この歩き方が実際にどれほど効果的なのでしょうか?
研究チームは、関西・東海地区の高齢者223人((男性 31人、女性 192 人、平均年齢 74.4 歳)を対象に、インストラクターによるソフトランディングテクニックの指導を実施しました。
参加者は90分間のウォーキングクラスを受ける前後に、加速度センサーを腰に装着して10メートル歩行の計測を行い、歩数・歩幅・歩行速度・着地衝撃(上向き加速度)などを詳しく記録しました。
その結果、指導後は歩幅がやや狭くなり、歩数は増加、そして何より着地時の衝撃が明らかに低下しました。
具体的には、1歩ごとの衝撃(上向き加速度)が平均して約10%低下し、膝や腰への負担が軽減されたのです。
また、参加者の95%以上が指導内容を「理解できた」「役立つ」と回答し、90%が「また測定してほしい」と意欲的な反応を示しました。
さらに歩行速度そのものはほとんど変化せず、「楽に長く歩ける感覚がある」と答えた人も多く見られました。
これは無理に筋力を鍛えるだけでなく、“賢く身体を守りながら歩く”というアプローチが高齢者の健康寿命延伸に寄与する可能性を示しています。
【実際のトレーニング中の様子がこちら】
今回の研究は、「歩き方」という日常の何気ない行動が、膝や腰の痛みを防ぎ、健康寿命の延長につながる可能性を示しています。
大切なのは、ただ歩く距離や歩数を増やすのではなく、“どのように歩くか”を意識すること。
「ソフトランディングテクニック」という新しい歩き方が、あなたの未来をより健やかで活動的なものにしてくれるかもしれません。
参考文献
~衝撃の少ない歩き方が健康寿命を延ばす~ 歩き方指導の有効性を検証
https://www.omu.ac.jp/info/research_news/entry-20586.html
元論文
Accelerometer Measurements: A Learning Tool to Help Older Adults Understand the Importance of Soft-Landing Techniques in a Community Walking Class
https://doi.org/10.3390/s25154546
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部
