「カロリーゼロだから安心」
そう思って手に取ったダイエット飲料やエナジードリンクに含まれる甘味料が、実は脳に深刻なダメージを与えているかもしれません。
米コロラド大学(UC)の最新研究で、人工甘味料として広く使用されている「エリスリトール」が、脳を守るバリア機能(血液脳関門)を損なうことが明らかになりました。
脳卒中や心疾患といった深刻な疾患との関連も疑われるこの発見は、これまで「安全」とされてきた0カロリー甘味料のイメージを大きく揺るがすものです。
研究の詳細は2025年6月16日付で学術誌『Journal of Applied Physiology』に掲載されています。
目次
- 甘味料が脳を守るバリアを破壊する?
- 「ゼロ」は本当にゼロリスク?
甘味料が脳を守るバリアを破壊する?

エリスリトールは、カロリーがほぼゼロで、血糖値にも影響を与えにくいことから、「健康的な甘味料」として世界中で利用されています。
日本でも「シュガーフリー」「糖質オフ」といった表示のある食品や飲料に広く使われており、多くの人が日常的に口にしている成分です。
しかしコロラド大学の研究によれば、エリスリトールは脳の毛細血管内皮細胞に悪影響を及ぼすことが確認されました。
これらの内皮細胞は、血液中の有害物質が脳に侵入しないよう守る「血液脳関門(blood-brain barrier)」の中核を担っている細胞です。
実験では、清涼飲料水1缶に含まれる程度のエリスリトール濃度を24時間、ヒトの脳内皮細胞に曝露したところ、次のような変化が見られました。
・活性酸素の産生が75%増加
・抗酸化酵素の発現が上昇
・一酸化窒素の産生が20%減少
・血管収縮物質エンドセリン-1(ET-1)の産生が30%増加
・血栓を溶かすt-PAの放出反応が著しく低下
これらの変化は、血流調節や血栓溶解機能の低下を引き起こすものであり、脳卒中のリスクを高める典型的な生理学的変化と一致しています。
特に注目すべきは、エリスリトールが「血管を広げる」作用を持つ一酸化窒素の生成を妨げ、「血管を収縮させる」ET-1の生成を促すという逆方向の作用を同時に引き起こしていた点です。
これは脳への血流を低下させ、虚血性脳卒中(血栓によって血流が遮断されるタイプ)の誘因となりうる状態です。
さらに、血液中の血栓を自然に分解する作用を持つ酵素t-PAの分泌も阻害されていたことから、エリスリトールは単に血管機能を損なうだけでなく、血栓を「溶かせなくする」方向にも作用することが示されました。
「ゼロ」は本当にゼロリスク?

砂糖の代わりに、より健康的な選択肢として登場したエリスリトール。
しかし「カロリーゼロ」「糖質ゼロ」という言葉の裏には、見えない代償が潜んでいる可能性があります。
脳という最も大切な臓器の防御システムに、わずかな成分が静かに作用していたとすれば――それは決して見過ごしていいことではありません。
今後の動物研究や臨床研究の進展によって、エリスリトールの安全性がより明確に評価されることが期待されますが、「ゼロカロリー」といった言葉だけで、すべてが安心とは限らないことを、私たちは改めて考えるべきかもしれません。
健康のために選んだはずの甘味料が、知らぬ間に脳のリスクを高めていた。
そんなことにならないように、日々の選択をもう一度見直してみる価値がありそうです。
参考文献
Common Sweetener Could Damage Critical Brain Barrier, Risking Stroke
https://www.sciencealert.com/common-sweetener-could-damage-critical-brain-barrier-risking-stroke
Erythritol alters brain vessel function and may raise stroke risk
https://www.news-medical.net/news/20250721/Erythritol-alters-brain-vessel-function-and-may-raise-stroke-risk.aspx
元論文
The non-nutritive sweetener erythritol adversely affects brain microvascular endothelial cell function
https://doi.org/10.1152/japplphysiol.00276.2025
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部