未来は誰にとっても未知の領域ですが、楽観的な人々は、どうやらその“未知”を似たような形で思い描いているようです。
神戸大学と京都大学の共同研究による最新の脳画像解析によって、楽観的な人々の脳内では、未来を想像する際に似たような情報処理が行われていることが明らかになりました。
反対に、悲観的な人々ほど、未来の思い描き方が特異的で、似ていなかったという。
この発見は単なる「性格の違い」では終わりません。
脳の働きがどのように私たちの社会的関係や孤独感にまで影響を与えているのかを解き明かす、大きな一歩となるかもしれません。
研究の詳細は2025年7月21日付で学術誌『PNAS』に掲載されています。
目次
- 未来の見え方は、性格で決まるのか?
- 楽観的な人ほど、未来の思い描き方が似ていた?
未来の見え方は、性格で決まるのか?
現代社会では、孤独や社会的孤立が深刻な健康リスクとして注目されるようになっています。
そんな中、心理学の分野で近年注目されているのが「楽観性(オプティミズム)」という性格特性です。
これは将来に対して前向きな期待を持ち、物事の明るい側面に目を向けやすい心の傾向を指します。
過去の研究では、楽観的な人はそうでない人に比べて、健康状態が良好であることや、豊かな人間関係を築きやすい傾向があることが報告されています。
また、楽観的な人ほどストレスに強く、困難な状況でも希望を見出す傾向があります。

しかしなぜ楽観的な人は人間関係に恵まれるのか、その脳内メカニズムはこれまで十分に明らかにされていませんでした。
人間関係の円滑さには、相手と物事の捉え方が似ていること――つまり「認知構造の類似性」が重要だとされています。
もし未来を思い描くときの脳の働きが、楽観的な人たちの間で似ているとすれば、それが共感や相互理解の基盤になっている可能性があります。
この仮説のもと、研究チームはfMRI(機能的磁気共鳴画像法)を用いて、楽観的な人々が未来をどのように脳内で描いているかを調べることにしました。
楽観的な人ほど、未来の思い描き方が似ていた?
研究は2つの実験に分かれて行われ、合計87人の参加者が対象となりました。
参加者たちはfMRI装置の中で、「自分自身」あるいは「配偶者」の身に起こるさまざまな未来の出来事――たとえば「リゾートに宿泊する(ポジティブ)」や「多額の借金を背負う(ネガティブ)」など――を10秒間かけて想像するように求められました。
その後、楽観性のレベルを心理尺度で測定し、脳活動と性格特性との関係を分析しました。
チームが注目したのは、内側前頭前野(MPFC)という脳領域です。
この領域は、自己関連の思考や未来をシミュレーションする際に活性化するとされており、「将来をどう描くか」に関わる中心的な役割を担っています。
そしてデータ解析の結果、驚くべきことに、楽観的な人たちの脳は、未来を思い描くときに非常に似た神経活動パターンを示していたのです。
一方で、悲観的な人たちの脳活動は人それぞれで、共通点がほとんど見られませんでした。
さらに解析により、楽観的な人ほど「ポジティブな未来」と「ネガティブな未来」を明確に区別して処理していることがわかりました。
これは楽観的な人ほど良い未来と悪い未来を脳内で明確に区別して捉えていることを意味します。
このような“感情的整理”の精度の高さが、楽観的な人同士の脳活動を似たものにし、相互理解や共感を促している可能性があると考えられます。

今回の研究は、私たちが未来をどう思い描くかという心の営みが、脳内で他者と“共有”されている可能性を示しました。
楽観的な人々は、未来を明るく、そして似たような方法でイメージすることで、お互いの考えや感情を理解しやすくなっているのかもしれません。
今後の課題としては、この脳の共通性が実際のコミュニケーションや協力行動にどう影響するかを、行動実験を通じて明らかにしていくことが求められています。
また、「なぜ」楽観的な人の認知構造が似てくるのか――その起源が遺伝的要因なのか、幼少期の経験なのかを探ることも、心の多様性と普遍性を理解する手がかりになるでしょう。
参考文献
楽観的な人々は似たような未来を思い描く 楽観性に共通する脳の働きを可視化
https://www.kobe-u.ac.jp/ja/news/article/20250722-66828/
元論文
Optimistic people are all alike: Shared neural representations supporting episodic future thinking among optimistic individuals
https://doi.org/10.1073/pnas.2511101122
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部