もしも、たった5時間で1年が終わる世界があるとしたら…。
そんな極端な惑星が、地球から約117光年の距離に実在することが、オランダ・アムステルダム大学(University of Amsterdam)の新たな研究によって明らかになりました。
この惑星は大きさこそ地球に近いものの、その環境はまったく異質で、むしろ「死のスパイラル状態」に落ち込んでいる最中といえます。
地球のような生命を育む星とはまるで正反対の、灼熱地獄のような運命をたどる惑星。
その名称として「TOI-2431 b」と名付けられています。
研究の詳細は2025年7月11日付でプレプリントサーバ『arXiv』に公開されました。
目次
- 発見されたのは「灼熱の溶岩惑星」
- 惑星は「引き裂かれる運命」にある
発見されたのは「灼熱の溶岩惑星」

TOI-2431 bは、NASAの系外惑星探索衛星「TESS(トランジット系外惑星探索衛星)」の観測データから発見されました。
この惑星が注目される最大の理由は、その驚異的な公転速度です。
TOI-2431 bは、わずか5時間22分で母星を1周しており、地球時間で言うと1日もかからずに1年が終わってしまう計算になります。
これほど短い周期をもつ惑星は、これまでに確認された6,000以上の系外惑星の中でも、ごくわずかです。
惑星のサイズは地球の約1.5倍。質量は6.2倍で、密度は9.4 g/cm³に達します。
これは鉄よりも重いレベルであり、きわめて高密度な岩石惑星であることを示しています。
この惑星が母星にあまりに近いため、表面温度は2,000ケルビン(約1,700℃)を超えており、表面全体が溶けた溶岩のような状態になっていると考えられます。
地球も太古の昔、マグマオーシャン期と呼ばれる灼熱の時代を経験しましたが、すぐに冷えて大気を維持できる状態に落ち着きました。
しかしTOI-2431 bは、そうした冷却のチャンスを一切与えられなかった惑星といえるでしょう。
さらに、その重さに比して小さいサイズから、もともとはもっと大きな惑星だった可能性も指摘されています。
恒星からの激しい放射によって外層が削ぎ落とされ、硬い岩石質の核だけが残されたと考えられているのです。
惑星は「引き裂かれる運命」にある
TOI-2431 bは、単に暑くて過酷なだけの惑星ではありません。
まさに“崩壊へのカウントダウン”が進行中の天体でもあるのです。
この惑星の軌道は「ロッシュ限界(Roche limit)」と呼ばれる危険領域にかなり接近しています。
ロッシュ限界とは、ある天体が恒星や巨大惑星に近づきすぎると、重力の差によって引き裂かれてしまう境界のことです。
研究者によると、TOI-2431 bの現在の軌道周期は、ロッシュ限界のわずか1.3倍程度。
これは約3,100万年以内に恒星に呑み込まれて消滅するという計算結果を意味しています。
宇宙規模で見れば、それはほんの一瞬にすぎません。
また恒星の強大な重力の影響で、惑星の形も歪んでおり、まるで粘土を引き延ばしたような姿になっているようです。
このような極限状態にあるTOI-2431 bは、単なる「珍しい惑星」ではなく、極端な物理現象をリアルタイムで観測できる“宇宙実験室”としても注目されています。

TOI-2431 bのような惑星は、一見すると遠く離れた関係のない存在に思えるかもしれません。
生命の気配もなければ、未来の移住先になる可能性も皆無です。
しかし、こうした「過酷すぎる世界」こそが、地球の特異性と奇跡を浮き彫りにしてくれます。
私たちは、溶岩地獄でもなければ引き裂かれる運命でもない、ちょうどよい距離と温度をもった地球に偶然生まれました。
それは宇宙全体から見れば、ほとんど“奇跡”のような偶然の積み重ねです。
死のスパイラルに落ちていくTOI-2431 bの存在は、地球とそこに息づく命の尊さを、私たちに改めて気づかせてくれるのです。
科学が宇宙の過酷さを暴くほどに、私たちは「いま、ここにある命の重さ」に思いをはせることになるのかもしれません。
参考文献
New Earth-sized exoplanet orbiting nearby star detected
https://phys.org/news/2025-07-earth-sized-exoplanet-orbiting-nearby.html
This Earth-sized Exoplanet is On a Death Spiral
https://www.universetoday.com/articles/this-earth-sized-exoplanet-is-on-a-death-spiral
元論文
An Earth-Sized Planet in a 5.4h Orbit Around a Nearby K dwarf
https://doi.org/10.48550/arXiv.2507.08464
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部