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「セックスは脳トレ!?」年12回未満の人は認知機能の低下が早い


最近、なんとなく記憶力が落ちてきた気がする、言葉がスムーズに出てこないなど、認知機能は年齢とともに低下していきます。

そのため、できる限りこの低下を遅くする要因が研究されていますが、最近報告された気になる日常生活の要因が、性生活の頻度です。

中国・青島大学(Qingdao University)のテン・チー・テン(Tian-Qi Teng)氏らの研究チームは、アメリカの中年層を対象にした大規模調査データ「MIDUS(Midlife in the United States)」を用い、性生活の頻度と認知機能の変化との関係を分析しました。

その結果、月に1回未満(年間で12回未満)しかセックスをしない人は、それより頻繁にしている人に比べて、10年後の認知機能の低下が有意に早いことが明らかになったのです。

この研究の詳細は、2025年3月24日付けで科学雑誌『Journal of Affective Disorders』に正式掲載されています。

目次

  • セックスの頻度は健康と深い繋がりがある
  • 性生活と脳の変化に意外なつながり

セックスの頻度は健康と深い繋がりがある

セックスと脳の健康がつながっている――。そう聞くと、ちょっと驚くかもしれません。

けれども実は、これまでにも性生活がメンタルヘルスに影響を与えることは、いくつかの研究で示されてきました。

たとえば、セックスの頻度が多い人は、気分が安定しやすく、パートナーとの関係性も良好である傾向があるとされています。また、性的なふれあいが、ストレスの軽減や睡眠の質の向上につながることも指摘されています。

もちろんこうした報告はあくまで相関関係を示したものなので、パートナーとの関係が良好だからセックスの頻度が増える、だから気分も安定していてストレスも少ない、という可能性も十分ありえます。

いずれにせよ性生活と、人の精神的な部分に関連があるということは、人の精神的な部分を司る脳機能と性生活も関連する可能性があります。

ところが、脳の働きと性生活がどれほど深く関係しているのかについては、これまであまり報告がありません。

日常的な活動と関わりが深い脳の働きの1つが認知機能です。認知機能とは、考える、覚える、判断するといった私たちが日々の生活で自然に行っている脳の働きのことで「記憶力」や「集中力」などに関わっています。

Credit:canva

もし性生活がこうした認知機能と繋がっているとしたら、年齢の進行によって起こる認知機能の低下スピードがセックスの頻度と関連している可能性も考えられます。

そこで今回の研究を行った、中国・青島大学(Qingdao University)のテン・チー・テン(Tian‑Qi Teng)氏らの研究チームは、「性生活の頻度が認知機能の変化にどのような影響を与えるのか」という点に着目して調査を行いました。

研究チームが使用したのは、アメリカで長年にわたり行われている「MIDUS(Midlife in the United States)」と呼ばれる大規模な縦断的調査データです。このデータには、アメリカの中年層の健康、心理、社会的背景に関する詳細な情報が含まれており、世界中の研究者が活用できる貴重なリソースとなっています。

今回の研究では、このMIDUSのデータの中から、45歳から69歳の男女の情報を抽出し、約10年間にわたる認知機能の変化を分析しました。

MIDUSの調査では、参加者に「過去6か月間で平均してどのくらいセックスをしたか」という質問が含まれており、今回の研究ではその回答をもとに参加者の性生活の頻度(「月に1回未満」と「月に1回以上」という大まかな区分けで分析)を調べ、それが参加者の10年間の認知機能の変化とどう関連するか分析しています。

認知機能の評価には、記憶力、注意力、言語の流暢さなどを測るテストが用いられました。さらに、年齢や性別、教育レベル、所得、既往症(病歴)、うつ症状の有無、BMI(Body Mass Index:体格指数)といった脳機能に影響を与える可能性のある他の要因についてもデータを補正し、できるだけ「性生活の頻度」そのものの影響を抽出するよう工夫されています。

この研究の特徴は、単なる一時点のデータではなく、10年という長期的な変化に焦点を当てている点にあります。そして、対象者の生活背景が非常に多様であるため、現実の社会をある程度反映した結果といえるのも大きなポイントです。

では、このように丁寧に調査されたデータから、どんな結果が得られたのでしょうか?

性生活と脳の変化に意外なつながり

分析の結果、性生活の頻度が月に1回未満である人たちは、10年後における認知機能のスコアが有意に低下していることが明らかになりました。

この傾向は、年齢や性別、教育、所得、うつ症状、持病の有無など、認知機能に影響を及ぼすさまざまな要因を統計的に取り除いたうえでも、なお残るものでした。

認知機能の低下とは、たとえば言葉の出づらさ、記憶力の低下、注意が散漫になることなどにつながります。

そして、こうした変化は日々の生活の中でじわじわと感じられるものです。ちょっとした「ど忘れ」や、話している途中で言葉が詰まるような感覚――それが蓄積すると、やがては生活の質そのものに影響を及ぼします。

研究チームは、この結果を「セックスそのものが脳を直接活性化させている」というよりも、性的なつながりが、さまざまな健康的要因と連動している可能性を示すものと見ています。

Credit:canva

たとえば、性生活が活発な人は、パートナーとの良好な関係性を保っていたり、身体を動かす機会があったり、うつ傾向が少なかったりと、生活全体が活性化している傾向があると考えられ、これらの要因が複雑に影響し合っていると考えられます。

それが結果的に脳の活性化や健康に繋がっているというのは、不思議な話ではないでしょう。

とはいえ今回の研究は大規模データを用いた分析であり、あくまで「相関関係」を示したもので「因果関係」を直接証明したものではありません。

ただひとつ確かなのは、性生活が極端に減ることが、脳の健康にとって無関係とは言えないという事実です。

日本では、「セックスレス社会」という言葉がメディアでたびたび取り上げられますが、今回の研究が示したように、性生活の頻度が認知機能の低下と結びついているなら、これは個人の問題にとどまらず、社会全体の“脳の健やかさ”にも関わる問題になるかもしれません。

孤立が進み、ふれあいや会話が減っていく社会のなかで、私たちの脳は、機能が低下しやすい状況に置かれている可能性があるのです。

とはいえ、誰もが「セックスの頻度」を自由に選べる状況にあるわけではありません。現代はパートナーがいない人も多いとされていますし、性に積極的な気持ちになれない人も珍しくありません。

だからこそ、大切なのは「行為」ではなく「つながり」なのかもしれません。

今回の研究は、性行為に着目していますが、示している事実は人と心や身体を通じて触れ合い、“自分がここにいる”と感じられるような経験が、脳にとって大きな意味を持つということです。

たとえば、友人との何気ないおしゃべりや、ペットと触れ合う時間。人の温もりを感じられるマッサージやスキンシップ。誰かのために料理をする、手紙を書く、電話をかける――そんな小さな行為すべてが、「孤立しない脳」をつくる材料になるでしょう。

セックスは、そのひとつのかたちにすぎません。脳に必要なのは、「実体験」ではなく「実感」です。

便利さと孤立が進むこの時代だからこそ、“誰かと生きている”という感覚を、大切にすることが脳にも、心にも、そして社会そのものにも、じんわりと効いてくるのではないでしょうか。

そう考えると、最近流行っている「推し活」も、“誰かと生きている”という感覚を生み出すことで、結果的には様々な健康を守っているのかもしれません。

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参考文献

Low sexual activity, body shape, and mood may combine in ways that shorten lives, new study suggests

Low sexual activity, body shape, and mood may combine in ways that shorten lives, new study suggests
https://www.psypost.org/low-sexual-activity-body-shape-and-mood-may-combine-in-ways-that-shorten-lives-new-study-suggests/

元論文

Synergistic effects of a body shape index and depression on mortality in individuals with low sexual frequency
https://doi.org/10.1016/j.jad.2025.03.129

ライター

相川 葵: 工学出身のライター。歴史やSF作品と絡めた科学の話が好き。イメージしやすい科学の解説をしていくことを目指す。

編集者

ナゾロジー 編集部

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