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【折り紙×切り紙】日本の伝統技術の融合で”伸びる電子回路”を実現


早稲田大学の研究チームが折り紙と切り紙技術を融合した「キリオリガミ構造」を開発しました。この新しい構造は、従来の硬い電子素子を多数実装できる柔軟性を備えた電子回路を可能にします。特に、折り線と切り紙の引張変形を組み合わせることで、平面を確保しつつ、柔軟で頑丈な構造を実現しています。研究チームはこの技術を用いて、145個のLEDを搭載したフレキシブルディスプレイを試作し、すべてのLEDが正常に動作することを確認しました。この技術は、フレキシブルディスプレイやウェアラブルデバイス、折りたたみ式スマートフォンなどに応用されることが期待されています。

折り紙や切り紙といえば、世界中で知られている日本の伝統技術です。


その美しさと機能性から、近年では工学や建築の分野でも注目を集めています。


そんな中、早稲田大学の研究チームがこの2つの技術を融合させた新しい構造「キリオリガミ構造(Kiri-origami structure)」を開発しました。


そしてこの技術を用いることで、硬く曲げに弱い電子素子を多数実装できる柔軟な電子回路を実現しました。


本研究成果は、2025年6月5日付の『npj Flexible Electronics』誌に掲載されました。




目次



  • 日本の伝統技術の融合【折り紙×切り紙】で生まれた「オリキリガミ」構造
  • 新しい「オリキリガミ構造」により伸びる電子回路を実現

日本の伝統技術の融合【折り紙×切り紙】で生まれた「オリキリガミ」構造


近年の私たちの生活には、ウェアラブルデバイスやフレキシブルディスプレイが欠かせなくなってきました。


腕に巻き付けられる健康モニターや、折りたたみ式のスマートフォンなどはすでに市場に登場しており、さらなる発展が期待されています。


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柔らかくて伸びる電子回路が求められている / Credit:Canva

しかし、それらの技術を支える「電子回路」には大きな課題があります。


多くの電子部品—とりわけLEDや半導体チップなど—は、金属やセラミックといった硬く壊れやすい素材でできているため、大きく曲げたり伸ばしたりする構造に組み込むのが困難なのです。


従来、この問題に対するアプローチは2つありました。


1つは素材そのものを柔らかくする方法で、有機材料などが用いられます。


しかし、これらは性能や安定性の面で限界があります。


もう1つは構造的に柔軟性を持たせる設計上の工夫で、硬い素材をそのまま使いながら構造を変えて柔軟性を持たせます。


後者の構造的な柔軟性の分野では、折り紙や切り紙の構造が注目されてきました。


折り紙構造は、平らな面に折り線を入れることで、変形を限定された方向に導く技術であり、硬い電子素子を載せやすいという利点があります。


しかし同時に、多数のユニットを一括して折り畳むことは難しいという課題を抱えています。


一方、切り紙構造は、構造全体を引っ張ることで簡単に変形させることができますが、電子素子を載せるのに適した平らな面が少ないという欠点を抱えていました。


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折り紙と切り紙を融合した「キリオリガミ構造」 / Credit: 岩瀬英治ら , npj Flexible Electronics(2025)

そこで今回、早稲田大学の研究チームは、これら2つの構造を融合し、互いの長所を生かして短所を補う新しい構造「キリオリガミ構造」を考案しました。


この構造は、切り紙構造に折り線を加えることで、電子部品の取り付けに適した平面を確保しつつ、引張変形によって多数の折り線を一括で折り上げることを可能にしています。


つまり、「硬くて壊れやすい電子素子を安全に載せられ、なおかつ柔軟に変形できる」という夢のような構造が実現されたのです。


次項では実際にオリキリガミ構造が動作する様子を見てみましょう。


新しい「オリキリガミ構造」により伸びる電子回路を実現


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「キリオリガミ構造」で伸びる様子 / Credit: 岩瀬英治ら , npj Flexible Electronics(2025)

このキリオリガミ構造を正確に動作させるため、研究チームは2つの技術的な工夫を施しました。


1つ目は「バッファ構造の導入」です。


これは構造の端に「ばね」のように変形する部分を加えることで、引っ張る力を均等に伝えるという仕組みです。


これにより、構造端部で発生しやすいひずみやねじれを抑え、面全体に均一な力を伝えることで、安定した折り畳みが可能になりました。


2つ目は「二軸引張の制御」です。


縦と横の両方向にバランスよく引っ張ることで、折り線以外の部分に無理な力がかからず、意図したとおりに正確に変形が進むようになります。


そして研究チームは、新しいキリオリガミ構造の性能を実証するため、「145個のLEDチップを取り付けたフレキシブルディスプレイ」を試作しました。


このディスプレイには512本もの折り線が存在し、全体を引っ張ることで自動的に折り上げが行われます。


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「キリオリガミ構造」を用いたフレキシブルディスプレイ / Credit: 岩瀬英治ら , npj Flexible Electronics(2025)

結果として、伸縮させてもすべてのLEDが正常に点灯し続けることが確認されました。


硬い電子部品を使いながらも構造によって柔軟性を確保できたのです。


この技術により、これまで困難だった「高性能電子部品のフレキシブル化」が現実のものとなるかもしれません。


今後、「衣服や肌に密着するウェアラブル機器」「折りたためるスマホ」「柔らかく安全な人間支援ロボット」への応用が期待されます。


また、折り紙・切り紙の構造力学と電子工学の融合という点においても、機械工学や材料科学の分野に新しい波をもたらすことでしょう。


研究者らは、既に国際的な学術用語になっている「『Origami』『Kirigami』に続いて、『Kiri-origami』という単語も広まってほしいと語っています。


日本の伝統が、世界の未来を変える鍵になるかもしれません。


全ての画像を見る

参考文献

折り紙と切り紙の融合
https://www.waseda.jp/inst/research/news/81239

元論文

Stretch-based kirigami structure with folding lines for stretchable electronics
https://doi.org/10.1038/s41528-025-00409-4

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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