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古代の墓から蘇った「死のカビ」を「抗がん薬」に変えることに成功!


古代エジプトのツタンカーメン王の墓の発掘に関わった考古学者らの不可解な死が「ファラオの呪い」として知られていましたが、実は「アスペルギルス・フラバス」という有毒カビの影響だったことが発覚しました。現在、このカビからペンシルベニア大学の研究チームが新たな抗がん剤を開発しています。リボソーム由来のペプチドを改変して作られた「アスペリジマイシン」は、白血病細胞の増殖を妨げ、副作用を抑える特性を示しました。動物実験に進む中、ファラオの呪いが医療の未来を開くかもしれません。

「ファラオの呪い」は、医学の未来を切り開く鍵だったのかもしれません。

かつて古代エジプトのファラオ・ツタンカーメン王の墓を発掘した考古学者たちが次々と命を落とし、世界中に「ファラオの呪い」の噂が広がりました。

調査の結果、その背後にあったのは、目には見えない“死のカビ”であったことが判明します。

そして今、米ペンシルベニア大学(UPenn)を中心とする研究チームが、その致死性のカビから新たながん治療薬の開発に成功しました。

研究の詳細は2025年6月23日付で科学雑誌『Nature Chemical Biology』に掲載されています。

目次

  • ファラオの墓にひそんでいた「死のカビ」
  • 毒から薬へ:カビから生まれたがん治療薬

ファラオの墓にひそんでいた「死のカビ」

1920年代、エジプト・ルクソール近郊でツタンカーメン王の墓が発掘された際、関わった考古学者のうち数人が、発掘から数週間~数カ月のうちに原因不明の病気で亡くなりました。

その不可解な死は、当時「ファラオの呪い」として新聞をにぎわせました。

しかし時がたち、医学の進歩とともに見えてきたのは、ある“微生物”の存在です。

死の原因として浮かび上がった犯人は「アスペルギルス・フラバス(Aspergillus flavus)」という名前の有毒カビでした。

土の中や古い建物、長年密閉された空間などに潜み、胞子として空中に漂うこのカビは、吸い込んでしまうと肺に感染症を起こすことが知られています。

とくに免疫が弱っている人が感染すると命に関わることもあります。

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アスペルギルス・フラバス/ Credit: en.wikipedia

その後も、このカビが関係していると思われる死亡例が世界各地で報告されています。

1970年代には、ポーランドで王族の墓を発掘していた科学者12人のうち10人が、調査後まもなく命を落としました。

のちに墓の内部からは、やはりアスペルギルス・フラバスが検出されたのです。

黄色い胞子を放つこのカビは、いまや“ファラオの呪いの正体”として認識されるようになりました。

長らく「呪われた微生物」として恐れられてきた存在が、まさか治療薬の希望に変わるとは、誰が想像したでしょうか。

毒から薬へ:カビから生まれたがん治療薬

そんな“死のカビ”が、一転してがんを倒す武器として脚光を浴びることになりました。

ペンシルベニア大学の研究チームは今回、このアスペルギルス・フラバスから取り出した化学物質に注目。

彼らはその中から「リップス(RiPPs)」と呼ばれる特殊なペプチド分子を発見します。

これは細胞内の“タンパク質工場”であるリボソームによって作られ、あとから化学的に手を加えることで性質を変えることができる不思議な物質です。

チームは、このペプチドを人工的に改変し、白血病のがん細胞に対してどのような働きをするのかを実験しました。

その結果、驚くべきことに、4種類の新しい分子のうち2つが強い抗がん作用を示したのです。

これらの分子は「アスペリジマイシン(asperigimycins)」と名付けられました。

これは発見元であるAspergillusと薬効を示す「マイシン」を組み合わせた名前です。

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研究中の様子/ Credit: UPenn –Penn Engineers Turn Toxic Fungus into Anti-Cancer Drug(2025)

さらにチームは、アスペリジマイシンに「脂質(あぶらの分子)」を結合させた変異体をつくり、薬の働きをより高めることに成功。

するとこの新しい化合物は、現在白血病の標準治療薬として使われている「シタラビン」や「ダウノルビシン」と同じレベルの効果を示したのです。

研究者たちはさらに、なぜ脂質を加えると薬の効果が高まるのかを遺伝子レベルで分析しました。

その結果、がん細胞の中にある「SLC46A3」という遺伝子が、薬の細胞内への取り込みに関わっていることがわかりました。

この遺伝子は、細胞の“門番”のような働きをして、薬が細胞内にしっかり入るのを助けていたのです。

また、アスペリジマイシンはがん細胞の「細胞分裂」を止める力があることも判明します。

がん細胞は本来の細胞と違って無制限に分裂を繰り返しますが、この薬はその“分裂装置”である「微小管」の形成を妨げ、がんの増殖を食い止める作用があったのです。

特筆すべきは、この薬が白血病細胞に対してだけ強く働き、他の正常細胞や細菌にはほとんど影響を与えなかった点です。

これは副作用を抑えた、理想的な薬の特徴でもあります。

現在、チームは動物実験への移行を準備しており、将来的には人間への臨床試験を目指しています。

かつて「呪い」として恐れられてきた古代のカビが、最先端の医療を切り開く手がかりになる——そんなドラマのような話が、科学によって現実のものとなりつつあるのです。

全ての画像を見る

参考文献

Penn Engineers Turn Toxic Fungus into Anti-Cancer Drug
https://blog.seas.upenn.edu/penn-engineers-turn-toxic-fungus-into-anti-cancer-drug/

Deadly ‘pharaoh’s curse fungus’ could be used to fight cancer
https://www.popsci.com/health/cancer-pharoah-curse-fungus/

元論文

A class of benzofuranoindoline-bearing heptacyclic fungal RiPPs with anticancer activities
https://doi.org/10.1038/s41589-025-01946-9

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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