夜の河川で「ブオー、ブオー」とウシのような声を聞いたことがあるでしょうか?
その正体は、北米原産の「ウシガエル(学名:Rana catesbeianaまたはLithobates catesbeianus)」です。
この巨大なカエルは、日本の一部の水辺でその姿を見ることができますが、カリフォルニア州では在来生物に深刻な影響を与えています。
そんな影響を調査したのがアメリカ・カリフォルニア大学デービス校(UC Davis)の研究チームです。
彼らはヨセミテ国立公園で、ウシガエルを徹底的に駆除しながら、在来種の淡水カメ「ブチイシガメ(Actinemys marmorata)」の個体数に与える影響を、7年間にわたって調べました。
研究の詳細は、2025年3月19日付の『Biological Conservation』誌に掲載されました。
目次
- 侵略者ウシガエルと消えた在来カメ
- 1万6000匹のウシガエルを駆除した結果、在来種の子ガメを確認
侵略者ウシガエルと消えた在来カメ

ブチイシガメは、カリフォルニア州からワシントン州にかけて生息する、アメリカ西海岸唯一の在来淡水カメです。
しかし、ここ数十年でその個体数は激減しました。
その原因の一つとされているのが、外来種ウシガエルです。
ウシガエルは20世紀初頭に食用目的でアメリカ西部へ導入されました。
ヨセミテ国立公園では1950年代から導入され、1970年代には完全に定着。
強靭な肉体と驚異的な繁殖力によって、生態系を激しくかき乱してきました。
とくに問題なのが、その食欲です。

ウシガエルは口に入るものなら、昆虫、魚、小鳥、ネズミ、そしてブチイシガメの子ガメまで何でも食べます。
彼らは獲物を簡単に丸呑みしてしまうのです。
実際、研究者たちは捕獲したウシガエルの胃の中から、6匹の子ガメを発見しています。
そこで今回の研究では、ウシガエルの影響を評価するために、4つの調査地点が選ばれました。
2つはウシガエルが存在する池、残りの2つは存在しない池です。
そして2016年から2022年までの間、研究チームは罠や網、ライトトラップ、手捕りなどを駆使して、2つの池から合計1万6384匹のウシガエルを捕獲・駆除しました。
さらに、ブチイシガメについても継続的にモニタリングを実施。
甲羅の長さや体重、年齢、捕獲数、出現密度などを丹念に記録し続けました。
では、このような徹底的な駆除と調査の結果、どんなことが分かったのでしょうか。
1万6000匹のウシガエルを駆除した結果、在来種の子ガメを確認

調査の中で、ウシガエルが残っていた池に生息するブチイシガメは、すべて年老いた大型個体だけでした。
つまり、子ガメが育っていないのです。
これは、ウシガエルの捕食によって若い個体が淘汰されていたことを意味しています。
一方、ウシガエルのいない池では、ブチイシガメの約35%が子ガメや若年個体でした。
個体数もウシガエルのいる場所より2倍〜100倍も多く、ブチイシガメの個体数の減少は、やはりウシガエルの存在が原因だと推測できます。
そして決定的な変化が訪れたのが、2019年以降です。
この年までにウシガエルの駆除がほぼ完了したことで、ウシガエルがいた池でも初めて子ガメの自然出現が確認されました。
つまり、駆除からわずか3年で在来カメが復活したのです。

ブチイシガメは成長が遅く、産卵数も少なく、しかも寿命が長いため、個体群が一度崩れると回復には非常に時間がかかることで知られています。
それだけに、この「子ガメの復活」は、地道な駆除と保護の努力が報われた瞬間と言えるでしょう。
研究者たちは今後も調査を続け、他の保護地域や再定着プロジェクトへの応用も視野に入れています。
ただし、駆除は手間もコストも大きく、すべての地域で実施するのは非現実的です。
そのため、ウシガエルの再侵入リスクの低い保護優先区域を選定することが重要でしょう。
今後は粘り強さと共に効率的な対策が必要なのです。
今回の取り組みによって、2つの池で、またカメの甲羅が陽にきらめく日々が戻ってきました。
1万6000匹のガマの声を抑えることで、生き物たちの静かな復活の声が、今、響き始めています。
参考文献
Native Turtles Return to Yosemite After Removal of Invasive Bullfrogs
https://www.ucdavis.edu/climate/news/native-turtles-return-yosemite-removal-invasive-bullfrogs
元論文
Effects of invasive American bullfrogs and their removal on Northwestern pond turtles
https://doi.org/10.1016/j.biocon.2025.111090
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部