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天才チューリングの論文を処分寸前で発見、約9700万円で落札


アラン・チューリングの貴重な文書が、処分直前に発見され、オークションで約9700万円で落札されました。それには「計算可能数について」といった歴史的な論文が含まれており、情報科学の原点とされています。チューリングはエニグマ解読やチューリングテストの提唱で知られ、人工知能の発展に貢献しました。しかし、彼は同性愛のため不当な扱いを受け、自ら命を絶ちました。この発見と高額落札は、チューリングの名誉回復の象徴です。

20世紀最大の天才の一人、アラン・チューリング(1912〜1954)

現代のコンピューターや人工知能の土台を築いたこの人物が、かつて書き残した貴重な文書群が、なんとゴミとして処分される寸前に発見されました。

ロンドンのとある家に保管されていた謎の紙袋。

なんとその中にあったのは、チューリングの1936年の代表論文「計算可能数について」や、博士論文の自筆コピーなど、情報科学の歴史にとって重要な一次資料でした。

それらは6月17日に英国で開催されたオークションにて、最終的に62万7000ドル(約9700万円)で落札され、世界的な注目を集めています。

目次

  • アラン・チューリングとは何者だったのか?
  • 「まさか、こんな発見になるとは」

アラン・チューリングとは何者だったのか?

アラン・チューリングは、イギリス出身の数学者であり、理論計算機科学の天才です。

彼はナチス・ドイツが使っていた暗号機「エニグマ」の解読に成功し、連合国にとって戦局を左右する大きな転機をもたらしました。

また、アルゴリズムの概念を理論的に体系化した功績は、今日のデジタル世界の礎となっています。

さらに、機械が知性を持つかどうかを判定するモデル――のちに「チューリング・テスト」として知られるようになる手法――を提唱し、人工知能の開発における重要な指標を打ち立てました。

しか、彼の偉業や卓越した頭脳にもかかわらず、チューリングは当時の社会の偏見から逃れることができませんでした。

1952年、イギリスの裁判所は当時違法とされていた「同性愛」の罪で彼を有罪とし、チューリングは化学的去勢(ホルモン療法で性浴を減退させる処置)という刑罰を受け入れました。

そしてその2年後、彼は自ら命を絶っています。

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生前のチューリング/ Credit: ja.wikipedia

また一方で、チューリングの遺した業績の数々は長らく秘密とされ、公的な賞賛を受けることはありませんでした。

そんな彼の業績と遺産を救ったのが、親友であり同じく数学者であったノーマン・ラトリッジです。

ラトリッジは「陽気な蝶ネクタイの天才」として知られ、生前のチューリングと深い友情を築いていました。

2人は手紙や学術草稿を頻繁にやりとりし、互いのアイデアを高め合っていたとされます。

そしてチューリングの死後、彼の母サラ・チューリングは、息子の資料を「大切な記録になるかもしれない」として、ラトリッジに託しました。

それは未来への、ささやかで確かなバトンだったのです。

「まさか、こんな発見になるとは」

ラトリッジの死後、彼の所持していた書類の多くは妹の家に移され、10年近く保管されていました。

その後も誰もその価値に気づかないまま、長きにわたり紙袋の中に眠ったままになっていたのです。

転機が訪れたのは2024年11月。

ラトリッジ家の親族たちが遺品整理をしていたときのことです。

「A.M. Turing」と記された文書がいくつも見つかり、ただならぬ気配を感じた一族は、レアブックオークションの専門家ジム・スペンサーに鑑定を依頼しました。

スペンサーは紙袋の中を見て、衝撃を受けます。

そこにあったのは、1936年の「チューリング論文」の初版、1938年の博士論文の自筆コピー、そして1952年の最後の出版物など、計算機科学の原点ともいえる史料の数々でした。

「心の中で、これは私の人生で扱った中で最も重要な資料だと確信しました」とスペンサーは語っています。

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Credit: en.wikipedia

オークション前夜には「本当に価値を理解してくれる人が現れるのか」と不安で眠れなかったといいますが、その心配は杞憂でした。

6月17日に開催されたオークションで、1936年の論文は27万9912ドルという高額で落札され、全体では当初の予想の5倍を超える62万7000ドル(約9700万円)という記録を打ち立てたのです。

これは単なる学術資料の売買ではありませんでした。

それは長らく不当な扱いを受けた天才への「歴史的な償い」でもありました。

2013年にエリザベス2世から恩赦を受けたチューリングは、2019年にはイギリスの50ポンド紙幣の肖像にも採用され、その名誉は回復されつつあります。

今回の発見と落札は、その流れをさらに押し広げた象徴的な出来事となりました。

全ての画像を見る

参考文献

Saved from the shredder, Alan Turing’s papers sell for $627,000
https://www.popsci.com/science/alan-turing-papers-auction/

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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