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数年かかる絵画修復を”数時間で完了”させるAI生成「マスク」を開発


MITのアレックス・カチキン氏が、AIを利用した新しい絵画修復手法を開発しました。この手法は、AIが生成するフィルム状のカラーマスクを絵画に貼り付けることで、驚異的な速さで修復を行うものです。従来数ヶ月から数年かかっていた作業が、わずか数時間で完了可能となりました。AI技術により精密な色再現が実現し、修復は簡単に解除可能。これにより、博物館で未展示の多くの絵画が復活する可能性があります。この技術の詳細は2025年6月11日付の科学誌『Nature』に掲載されました。

素人が名画の修復を勝手に行い、散々な結果になってしまったというニュース、どこかで聞いたことがあるのではないでしょうか?


あのような騒動が注目されるたびに、「絵画修復とは、やはり素人には難しく、繊細で時間のかかる仕事なのだ」と実感させられます。


そんな中、アメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)のアレックス・カッキネ氏が、絵画修復の未来を一変させるような画期的手法を発表しました。


彼が開発したのは、AIを活用して生成されたフィルム状のカラーマスクを、実際の絵画に“貼り付ける”ことで修復を行うという、まったく新しいアプローチ。


この技術により、従来は数ヶ月から数年かかっていた修復作業が、わずか数時間で完了する可能性が出てきたのです。


この成果は、2025年6月11日付の科学誌『Nature』に掲載されました。




目次



  • 絵画修復の常識を塗り替える「取り外せる修復マスク」技術を開発
  • 作業時間66分の1!?わずか3時間半で絵画を修復することに成功

絵画修復の常識を塗り替える「取り外せる修復マスク」技術を開発


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絵画修復は熟練の絵画修復士によって行われる「時間のかかる作業」 / Credit:Canva

従来の絵画修復は、熟練の絵画修復士が筆を取り、失われた部分を手作業で“描き直す”という気の遠くなるようなプロセスです。


美術館やギャラリーが所有する絵画のうち、実に70%近くが展示できない理由の一つが、こうした修復の手間とコストにあるとも言われています。


MITの大学院生アレックス・カチキン氏は、機械工学を専門とする傍ら、趣味として古典絵画の修復にも取り組んできました。


彼はこうした業界の実情に疑問を抱き、「もっと迅速で、しかも倫理的に正しい修復方法はないのか?」と考えたのです。


そこで彼が考案したのはAIを用いた修復マスクの作成でした。


最初に、伝統的な手法で過去の修復跡を丁寧に除去し、オリジナルの絵肌をできる限り取り戻します。


その後、作品を高解像度スキャナーで詳細に読み取り、デジタルデータ化します。


このスキャン画像をAIに解析させることで、「絵がもともとどのような姿だったか」を予測し、完全なデジタルモデルを作成しました。


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AIによって絵画の欠損部分を予測。補完する色をシート状のマスクにプリントする / Credit:Alex Kashkin(YouTube)_Overview of Physically-Applied Digital Restoration(2025)

そして、ここからがこの研究の革新的な部分です。


AIが生成した“理想の絵”とオリジナルのスキャンを比較し、どの部分が欠損していて、どんな色で補えばよいのかをマッピング。


その情報を基に、超高精細インクジェットプリンターを使って、透明な極薄ポリマーシートに色をプリントしていきます。


このマスクは2層構造になっており、1層目に必要なカラーインク、2層目にホワイトインクを重ねて印刷することで、再現性の高い色表現を実現しています。


そして最後に、このマスクを絵画の上にピタリと重ね、ワニス(表面を保護するための透明な塗料)を薄く吹き付けて固定します。


ちなみに、このマスクもニスも既存の保存用溶剤で簡単に除去できるようになっており、オリジナルの絵には一切ダメージを与えません。


つまりこの手法は、修復しながらも“取り外し可能”な、保存倫理に適った技術だと言えます。


では、この技術を用いることでどれほど素早く絵画修復ができるのでしょうか。


作業時間66分の1!?わずか3時間半で絵画を修復することに成功


今回の技術の実証として、カチキン氏は彼が所持する15世紀の油彩画を使い、実際に修復マスクを製作・装着するまでを実施しました。


その結果、なんと5612箇所もの損傷部位を、約3時間半という圧倒的スピードで修復することに成功したのです。


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たったの3時間半で修復完了 / Credit:MIT

使用された色数は5万7314通りのユニークな色


これだけ複雑な配色を再現しながら、作業時間は従来手法の66分の1で済んだというのですから驚きです。


このマスクは単なる「お化粧」ではなく、作品の色彩や筆致を忠実に再現するために、AIが細部まで計算して作成されたものです。


さらに、このプロセスでは修復の全記録がデジタルデータとして残るため、後世の絵画修復士がその意図や内容を正確に把握できます。


今後は、他の作品への適用やマスクの大量生産、そしてAIアルゴリズムのさらなる改良など、幅広い展開が期待されます。


カチキン氏が開発した手法を用いるなら、修復に数年、数カ月かかる絵画であっても、わずか数時間で完成させられるでしょう。


絵画修復士の負担軽減と効率向上にとどまらず、これまで倉庫で眠っていた膨大な作品たちが、再び日の目を浴びる機会も増えるはずです。


「時間がかかるから」という理由で諦められていた多くの名作が、新しいAI技術によって次々に甦る可能性があるのです。



全ての画像を見る

参考文献

Years of painting restoration work done in just hours by new technique
https://newatlas.com/good-thinking/ai-classic-painting-restoration/

Have a damaged painting? Restore it in just hours with an AI-generated “mask”
https://news.mit.edu/2025/restoring-damaged-paintings-using-ai-generated-mask-0611

元論文

Physical restoration of a painting with a digitally constructed mask
https://doi.org/10.1038/s41586-025-09045-4

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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