氷山といえば、白色の巨大な氷の塊を思い浮かべる人が多いでしょう。
しかし最近、カナダ・ラブラドル沖で発見された「黒い氷山」がSNSを中心に話題となっています。
その普通とは違う異様な姿に、ネット上では「宇宙から飛んできたものか」「中に恐竜でも眠ってるんじゃ?」と様々な憶測が広まっています。
実際のところ、この黒い氷山はいったい何なのか。そして、なぜ氷が黒く見えるのでしょうか?
目次
- 黒い氷山との出会い
- 黒い氷山はどうやって作られたのか?
黒い氷山との出会い
この「漆黒の氷山」を発見したのは、カナダ東海岸のニューファンドランド島に住む地元の漁師、ハルル・アントニウセン(Hallur Antoniussen)さんです。
彼は今年の5月中旬、漁船「サプティ号」に乗り、ラブラドル沖でエビ漁をしていた際にこの黒い氷山を目撃しました。
船のクレーンに登ったアントニウセンさんの目に飛び込んできたのは、まるで煤(すす)を塗り込めたような漆黒の氷の塊でした。
「転がって浜に打ち上げられた氷山は見たことがありますが、これはそれらとはまったく違っていました。
全体が真っ黒で、形もダイヤモンドのようだったのです」と彼は語っています。

氷山の大きさは海上では正確に測れませんが、一戸建て住宅の少なくとも3倍以上はあったといいます。
写真を撮影したのは約6キロ離れた場所から。
普段はカメラを持ち歩かないアントニウセンさんですが、この異様な光景を見て急いで自室に戻り、携帯電話で撮影したとのことです。
SNSに投稿された写真は瞬く間に拡散し、多くの憶測が飛び交いました。
しかしこの氷山の正体は、単なる珍現象ではなく、数千年、あるいは数万年の時間を経た「氷の旅路」が生んだ自然の芸術だったのです。
黒い氷山はどうやって作られたのか?
氷山が通常白く見えるのは、内部に閉じ込められた無数の空気の泡が、あらゆる波長の光を散乱させるためです。
しかし時間が経つにつれて氷が圧縮され、内部の空気が押し出されると、氷はガラスのように透明になり、赤系の光の波長は吸収され、青い光だけが散乱されるため、青白く見えるようになります。
では、黒くなるのはなぜでしょうか?
カナダ・ニューファンドランドメモリアル大学の氷河学者レフ・タラソフ教授によれば、このような氷山には土や岩、さらには火山灰のような暗い物質が混ざり込んでいる可能性があります。
氷河は内陸から海に向かって流れ出る過程で地面を削り、岩石や堆積物を取り込んでいきます。
こうして巻き込まれた細かな岩粉が長い年月をかけて氷の内部に均等に分散すると、全体的に灰色や黒っぽい色合いに見える氷山ができあがるのです。
実際、タラソフ教授はグリーンランドで、黒い氷塊の小さな例を観察したことがありますが、今回のような大きさと均一な色合いを持つものは初めてだったそうです。

さらに興味深い説として、グリーンランド北西部には過去に隕石が衝突した痕跡があり、その際の宇宙塵が氷に混ざった可能性も否定できないといいます。
あるいは、アイスランドやグリーンランドに存在する火山からの噴煙が、氷床に降り積もった結果かもしれません。
またこの黒い氷山は、短期間でできるものではなく、少なく見積もっても数千年、多く見積もると10万年の歳月をかけて作られた可能性があるとのことです。
参考文献
Rare Black Iceberg Goes Viral – So What Is Going on Here?
https://www.sciencealert.com/rare-black-iceberg-goes-viral-so-what-is-going-on-here
Rare black iceberg spotted off Labrador coast has social media buzzing
https://www.cbc.ca/news/canada/newfoundland-labrador/black-iceberg-labrador-coast-1.7551078
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部