「なんだか最近、集中できない」「人の名前がすぐに出てこない」
そんな悩みを抱える方に、意外な“芳香”からの助け舟があるかもしれません。
それは料理にもよく使われる、あの緑のハーブ「ローズマリー」です。
実はこの香りには、古代から「記憶力を高める力」があると信じられてきました。
そして今、現代科学がその言い伝えに証拠を見つけつつあるのです。
では、なぜローズマリーの香りは集中力や記憶力を高めることができるのでしょうか?
目次
- ローズマリーが認知機能を高める仕組みとは?
- ストレス・不安の低減、睡眠の質の向上にも!
ローズマリーが認知機能を高める仕組みとは?
ローズマリーは、地中海沿岸を原産とする香り高い植物で、古代ギリシャやローマでは「記憶力を高める香り」の象徴として扱われてきました。
当時の学者や学生たちは試験前にローズマリーを身につけたり、香りを嗅いだりして集中力を高めようとしたと伝えられています。
その理由は「気持ちがシャキッとする香りにある」と経験則で信じられてきたのですが、現代の科学もこれに注目し、調査が始まりました。
そのひとつがアロマ環境と認知機能の実験です。

被験者を2つのグループに分け、一方には無臭の環境、もう一方にはローズマリーの香りが漂う空間で記憶テストを行ったところ、ローズマリーの香りを嗅いだグループの方が有意に成績が高かったという結果が出たのです。
この効果の背景にあるのは、ローズマリーに含まれる「1,8-シネオール」という成分です。
この揮発性物質は、脳内の「アセチルコリン」という神経伝達物質の分解を抑える働きを持っています。
アセチルコリンは、学習や記憶にとって極めて重要な物質であり、そのレベルが高いほど認知機能が活性化することが知られています。
つまり、ローズマリーの香りを嗅ぐことによって、アセチルコリンの働きが保たれ、記憶力や集中力が一時的に高まる可能性があるというわけです。
ストレス・不安の低減、睡眠の質の向上にも!
ローズマリーの効果は、単なる記憶力アップにとどまりません。
近年の研究では、精神的なストレスや不安感の軽減、睡眠の質の向上にも関与している可能性が示されています。
実際に、ローズマリーの香りを吸引した被験者の中には不安レベルが低下し、心拍数が安定したという報告があります。
これは副交感神経系の活性化によるリラックス効果だと考えられています。
脳にとってストレスは大敵です。
慢性的なストレス状態では、記憶をつかさどる「海馬」の働きが抑制され、集中力や学習能力も落ちてしまいます。
つまり、ローズマリーの香りは「心の平穏」と「認知力向上」の両方に働きかける可能性を持っているのです。

さらに注目されているのが、ローズマリーに含まれる「カルノシン酸(carnosic acid)」です。
この成分は強力な抗酸化・抗炎症作用を持ち、脳細胞を酸化ストレスから守る働きをします。
酸化ストレスは、アルツハイマー病やその他の神経変性疾患の大きな原因とされています。
実際に2025年には、このカルノシン酸を安定化させた化合物「diAcCA」が開発され、マウス実験では記憶力の改善やシナプスの増加、アルツハイマー病に関係する異常タンパク質の減少が確認されています。
人間への応用にはまだ時間がかかりますが、「香り」から未来の認知症治療が始まるかもしれないという期待が高まっています。
ローズマリーは誰でも手軽に手に入る植物です。
集中したいとき、記憶力を高めたいとき、あるいはストレスを感じたときは、ローズマリーの香りをそっと吸い込むといいかもしれません。
参考文献
Rosemary Can Sharpen Your Mind, And Could Help Fight Alzheimer’s
https://www.sciencealert.com/rosemary-can-sharpen-your-mind-and-could-help-fight-alzheimers
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部