ロボットと言えば、アクシデントが起こった時にも冷静で静かなイメージがあります。
たとえ皿を落としても、壁にぶつかっても、淡々と作業を続けるその様子に、私たちは「機械らしさ」を感じるのかもしれません。
ですが、もしロボットが「うわ、クソ!」と叫んだら?
それを聞いたあなたは不快に思うでしょうか?それとも、ちょっと親しみが湧くでしょうか?
アメリカ・オレゴン州立大学(OSU)の研究者たちは、まさにこの問いに挑みました。
ロボットがミスをした時に、あえて口汚い言葉を発したら、人間はどう感じるのか? というテーマで、3段階にわたる実験を実施したのです。
研究の詳細は、2025年5月9日付でプレプリントサーバー『arXiv』で発表されています。
目次
- ロボットに「口汚い言葉」を使用させる実験
- 口汚いロボットに人は親しみを覚えるが注意は必要
ロボットに「口汚い言葉」を使用させる実験

ロボットと聞いてまず想像するのは、冷静沈着で感情を持たない存在かもしれません。
ですが、近年の人間とロボットの関係性を考えると、ロボットに「感情」や「人間らしさ」があると、むしろ信頼感や親しみやすさが高まる傾向にあります。
たとえば、失敗したときに「ごめんなさい」と謝るロボットは、それだけで人間から好印象を得ることが知られています。
人は感情を持ち、ミスをしたときにそのことを表現する生き物です。
そのため、ミスを淡々と処理するロボットよりも、なにか感情を示すロボットの方が「仲間」として感じやすいのかもしれません。
このような背景を踏まえ、研究チームは、「あえて社会的に“失礼”とされるような口汚い言葉をロボットに使わせたらどうなるのか?」という斬新な問いを設定しました。
研究は3段階で行われました。
まず1つ目は、大学生76人を対象としたオンラインビデオ実験です。

移動しながら物体を操作できる家庭向ロボットが、「カップを倒す」「ペンを落とす」「テーブルにぶつかる」などのちょっとした失敗動画が用意されました。
このミスに対してロボットは次の3パターンの反応を示しました。
- 無言
- 軽い感嘆詞(”Oh no!”, “Oops”など。日本語例:「おっと!」など)
- 口汚い言葉(”Oh f○○k!”, “S○○t!”, “Godd○○○it!”など。日本語例:「くそっ!」など)
動画を見た参加者は、ロボットの親しみやすさ、知能、好感度、ユーモア度、そして不快感などを評価しました。
2つ目の実験では、同じ設計で一般の米国成人(98名)を対象にオンライン実験を行い、学生以外の反応を調査。
3つ目は、実際のロボットを用いた現場での検証です。
大学キャンパス内で、ロボットがテーブルにぶつかるという小さなミスを起こし、対面した52人の学生に評価をしてもらいました。
では、失敗した時に思わず言葉を発するロボットに対して、人はどんな印象をもったのでしょうか。
口汚いロボットに人は親しみを覚えるが注意は必要
結論から言うと、ロボットが喋ること自体が、無言のロボットよりも高く評価されました。
「何も言わない」ロボットは、親しみやすさやユーモア、信頼性などのスコアがすべて最低でした。
対称的に、「おっと!」などの軽いリアクションと、「くそっ!」のような口汚いリアクションは、多くの項目で高評価を得ました。
特に、「ユーモア」「親しみやすさ」では、口汚いロボットがもっとも高いスコアを獲得。
「人間らしさがある」「ちょっと面白い」「共感できる」という声が多く寄せられました。

とはいえ、すべてが良かったわけではありません。
特に口汚い言葉の中でも「Godd○○○it(神をののしる表現)」については、宗教的感情に触れるため、多くの参加者が強い不快感を示しました。
また、対面実験では「Damn it(くそっ!)」を使うロボットが、好意的に受け入れられるケースが多かったものの、無言に比べて「少し怖かった」と感じる人もいました。
さらに、若年層や一部の参加者は口汚いロボットをより「人間らしくて面白い」と感じ、好感度や不快感などは「汚い言葉を使わずに驚くロボット」と同等だと評価する傾向が見られました。
しかし一般成人では、ほとんどの尺度で両者を同等に評価するものの、口汚いロボットの方が不快に感じる傾向がありました。
これらの結果から分かるのは、口汚いロボットは「共感」や「笑い」の対象になりうるが、文脈や表現の内容には慎重さが必要だということです。
研究者たちはこの点を重視し、「口汚い言葉を発するかどうかはロボットが自律的に判断するのではなく、ユーザーに合わせてカスタマイズすべきだ」としています。
将来的には、家庭用AIアシスタントや介護ロボットが、ユーザーの感情に寄り添って「軽い愚痴」や「冗談」を言うことで、より豊かなコミュニケーションが生まれるかもしれません。
今後の研究では、文脈を理解し、適切な表現を選びとるロボットの発話戦略のパーソナライズ化や、文化圏ごとの受け入れ度合いの違いについても検証が求められます。
それでも、今回の研究で判明した「全体的に、無言のロボットより口汚いロボットの方が人は親しみを感じやすい」という事実は興味深いものです。
私たちは、完璧で冷静沈着なロボットよりも、失敗して「チッ」と舌打ちするような、感情の起伏のあるロボットを求めているのかもしれません。
参考文献
Who Gives a S#!t About Cursing Robots?
https://spectrum.ieee.org/cursing-social-robot-interaction
元論文
Oh F**k! How Do People Feel about Robots that Leverage Profanity?
https://doi.org/10.48550/arXiv.2505.05831
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部