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軽ダンベルで筋肥大――最新研究で重さ神話崩壊


ノルウェー体育科学大学(NIH)が行った研究により、軽いダンベルを限界まで使うことで重いバーベルと同等の筋肥大が得られることが示されました。これまで高負荷のトレーニングが筋肉を増やすため必須とされてきましたが、低負荷トレーニングでも効果が得られる可能性が明らかになりました。特に多関節運動では重い重量と同程度の筋力増加が確認され、トレーニングのバリエーションに新たなアプローチを提供します。ただし、単関節種目では高負荷の方が筋力向上に優れていることがわかっています。この研究はジムに通えない人や重い負荷に不安がある人に希望を提供します。

ノルウェーのノルウェー体育科学大学(NIH)で行われた研究によって、一部の筋肉トレーニングでは、軽いダンベルでも「もう無理!」と思うところまで頑張れば、重いバーベルを使った場合とほぼ同じくらい筋肉が太くなることがわかりました。

これは筋肉を大きくするのに必ずしも“重いバーベル”が絶対条件ではないことを示す研究結果であり、重い重量に尻込みしていた人や器具を持たない人にとって朗報と言えるでしょう。

まさに「筋肉を太くする方法は一つじゃない」ことを裏付ける発見です。

新たな研究成果は私たちの日常トレーニングをどのように変えるのでしょうか?

研究内容の詳細は2025年05月01日に『bioRxiv』にて発表されました。

目次

  • 筋トレ界のパラダイムシフト
  • 軽すぎて笑った? それ、筋肉つきます
  • 限界まで追い込む──それだけでいい?

筋トレ界のパラダイムシフト

なぜ今、ライトウェイトを検証するのか
なぜ今、ライトウェイトを検証するのか / Credit:Canva

骨格筋(いわゆる筋肉)は体重の約3~4割を占めており、人体で最大の“臓器”とも言われます。

筋肉量や筋力を高めることはアスリートの競技力向上はもちろん、高齢者の健康維持にも重要です。

その筋肉を効率よく鍛えるにはどうすればよいのでしょうか。

従来、筋肥大(筋肉を太くすること)や筋力アップのためには高負荷のトレーニングが推奨されてきました。

例えばトレーニング科学の世界では「最大挙上重量(1RM)の70%以上の負荷を用いるべきだ」といった指針があります。

重い重量を扱えば筋肉に強い刺激が入り、筋線維が太くなって筋力も上がるという考えです。

一方で、近年の研究から「もっと軽い重さでも、限界まで回数をこなせば筋肥大効果は遜色ない」ことも報告され始めました。

実際、低重量・高回数のトレーニングでも筋肉を大きくできる可能性が示され、「筋肥大に至る道はいくつもある(Many roads lead to Rome)」という見方が登場しています。

しかしそれらの知見の多くは筋肉の太さ(筋肥大)に関するもので、筋力の向上については十分に検証されていませんでした。

また対象者も未経験者や若年者が中心で、普段からトレーニングを積んだ人で軽い負荷の効果を調べた例は限られていました。

そこで今回紹介する研究では、低負荷トレーニング(Light Load: LL)と高負荷トレーニング(High Load: HL)の効果を、経験豊富なトレーニー(訓練者)で直接比較することにしました。

筋肉のサイズだけでなく筋力や筋細胞の変化まで含めて包括的に調べ、「軽い負荷でも重い負荷と同等の適応が起こるのか」を検証することが目的です。

軽すぎて笑った? それ、筋肉つきます

軽すぎて笑った? それ、筋肉つきます
軽すぎて笑った? それ、筋肉つきます / Credit:Canva

研究チームは、週2回の脚の筋力トレーニングを9週間続けてもらう実験を行いました。

参加者は平均26歳の男女14名で、全員が日頃からレジスタンストレーニング(筋トレ)をしているトレーニング経験者です。

ユニークなのは、そのトレーニング方法を左右の脚で変えたことです。

各被験者は片脚では高負荷トレーニング(3~5回持ち上げるのが限界の重量=3~5RM)、反対側の脚では低負荷トレーニング(20~25回が限界の重量=20~25RM)を行いました。

どちらの脚も毎回「自力で持ち上げられなくなるところまで」反復し、セット数も左右で同じになるよう組まれました(つまり高負荷の方は少ない回数×高重量、低負荷の方は多い回数×低重量となります)。

トレーニング種目は脚全体の力を鍛えるレッグプレス(多関節運動)と、太もも前面の力を鍛えるレッグエクステンション(単関節運動)の2種目です。

それぞれの脚について、開始前と9週間後に筋力と筋持久力、それから筋肉量や筋細胞の変化を測定・解析しました。

結果、筋力と筋肥大の面で軽い負荷トレーニングは重い負荷トレーニングに匹敵する効果を発揮することが示されました。

多関節種目であるレッグプレスの最大挙上重量(1RM)は、軽負荷・高負荷のどちらの脚も約21%増加し、両者に有意差はありませんでした。

また太ももの筋厚も超音波で計測しましたが、どちらの脚も7~8%程度の同程度の増加を示しました。

一方、レッグエクステンション(単関節種目)の筋力については高負荷トレーニングを行った脚のほうが上昇幅が大きく、軽負荷より優れていました。

興味深いことに、筋持久力(一定の軽い重量で何回持ち上げられるか)は軽負荷脚は+9 %、逆に高負荷脚は−2.7 %とわずかに悪化しており、持久力面では軽負荷のほうが効果的でした。

要するに、筋肉量については軽い負荷でも十分増やせ、筋力も複数の関節を使うような大きな動作であれば重い負荷の場合と同程度まで高めることができたのです。

(※もっとも、これらは 見た目の太さや体積増加を示す代表指標ではあるものの、筋内水分や結合組織の変動を完全に除外するわけではない点にも留意が必要です。)

一方で、種目によっては依然として高負荷の利点も見られました。

筋肉内部の変化を見るために、被験者の大腿筋から筋肉組織の生検も行われました。

筋線維のタイプ(遅筋線維・速筋線維の割合)や各筋線維の太さには、どちらのトレーニング脚でも有意な変化は認められませんでした。

しかし、筋肉の幹細胞といわれる「サテライト細胞」の数は変化が見られました。

サテライト細胞は筋線維の成長や修復を助ける細胞で、トレーニング刺激に応じて増減します。

今回の実験では、サテライト細胞の数が遅筋線維で約25%増加しており、これは高負荷・低負荷いずれの脚でも同様でした。

言い換えれば、サテライト細胞の増加は筋線維の種類によって起こりましたが、負荷の重さには左右されなかったということです。

なお、筋線維に含まれる核(マイオニュークレイ)の数はわずかに減少傾向(約6〜8%)でしたが、大幅な変動とは言えませんでした。

限界まで追い込む──それだけでいい?

限界まで追い込む──それだけでいい?
限界まで追い込む──それだけでいい? / Credit:Canva

今回の研究により、「限界まで追い込むのであれば軽い重量でも筋肉を太くできるし、ある程度の筋力もつけられる」ことが示されました。

従来から知られていた「低負荷でも筋肥大はできる」という現象が、筋力の向上(特に複数関節を動員する大きな筋力発揮)にも及ぶ可能性が示唆された点で、画期的な知見と言えます。

研究チームも「これまで『重さは違っても筋肥大は同じ』と言われてきたが、多関節の筋力も同様に伸びる可能性がある」と述べ、軽負荷トレーニングによる筋力アップ効果に注目しています。

特にトレーニング経験者でこの傾向が確認されたことで、「高重量を扱わなければ筋肉も筋力も伸びない」という一般的な常識を改める必要性が出てきたと言えるでしょう。

では、なぜ軽い負荷でも筋肉が発達できるのでしょうか。

その鍵はトレーニングの「努力強度」にあります。

筋肉を大きくするためには筋線維に十分な負荷刺激を与える必要がありますが、それは必ずしも重いバーベルでなくても構いません。

重要なのは筋肉を疲労困憊させることです。

軽い重量でも回数を重ねていって最後には持ち上げられなくなる(オールアウトする)状態に達すれば、筋線維は十分な刺激を受けたことになります。

今回の結果はまさにその理論を裏付けており、研究者らは「広い反復回数の範囲で筋肥大は達成可能である。ただし努力を惜しまず各セットを限界まで行った場合に限る」と強調しています。

適切なフォームを保った上で限界まで追い込むことさえできれば、重量設定そのものは柔軟でよいというわけです。

これはトレーニング方法の幅を広げる心強い知見です。

さらに今回の研究では、軽負荷トレーニングによって筋肉中のサテライト細胞が増加することも確認されました。

しかもその増え方は高負荷の場合と変わらず、細胞レベルでも軽い重量のトレーニングが効果を発揮していることを示しています。

このような分子生物学的裏付けが得られたことにより、「重い重量を使わないと筋肉が本当に大きくならないのではないか」という疑念に対しても科学的な説明がつきます。

実際、筋肉の成長にはサテライト細胞の役割が重要であることが知られており、筋線維に新たな核(マイオニュークレイ)を供給して筋肥大を可能にするプロセスに関与します。

今回、高負荷・低負荷の双方で遅筋線維のサテライト細胞プールが拡大したことは、軽い負荷でも筋肉の基礎的な適応メカニズムがしっかり働いていることを意味します。

研究チームはまた、本研究の実験デザインが実際のトレーニング現場に即したものである点を強調しています。

今回の被験者は両脚でそれぞれ異なる負荷を試しましたが、いずれも毎セット限界まで行うという点では共通していました。

総ボリュームは軽負荷が1.4〜2.9倍と大きくなりました。これは研究者が“現場同様にセットはそろえ、ボリュームは結果として差が出る”設計を意図したためです。

これは通常の筋トレでも行われる方法であり(高重量ならセットあたりの回数が少なく、低重量なら多くなる)、意図的に総ボリュームを制限しないことで現実的な条件を再現しました。

その結果、低負荷条件が本来持っている効果を引き出せたと考えられます。

研究者らは「本研究のアプローチは“現場の筋トレ”そのままで、複数セットを行う実際のシナリオを正確に反映している」と述べています。

言い換えれば、研究室レベルの実験ではなく現実のジムでのトレーニングそのままの条件で比べても、軽い負荷は十分に健闘したということです。

ただし、高負荷を使う利点が全く無くなったわけではありません。

今回、レッグエクステンション(膝関節の伸展動作)の筋力向上では高負荷の方が優れていましたが、これは動作が単関節で神経系の適応が大きくものを言う場面では依然として高重量が有利なのかもしれない、と研究チームは分析しています。

高重量を扱うことでより大きな神経系の興奮や筋出力の向上が得られ、特に特定の筋肉だけを使う種目ではその差が表れやすい可能性があります。

一方で、複数の筋肉・関節を使う複雑な種目では、高重量・低重量いずれの場合も全身的な適応(筋肥大やテクニックの向上など)が作用し、結果として筋力の伸びに大差がなくなると考えられます。

実際、先行研究でも未熟練者に対しては高重量の方が筋力向上に有利とされてきましたが、熟練者では低重量でも工夫次第で同等の効果が得られる可能性が示されています。

筋力発揮のメカニズムは一様ではなく、筋肥大によるもの、筋線維の動員効率が上がるもの、神経系の順化によるものなど様々ですが、軽負荷トレーニングは主に筋持久力や筋肥大を通じて間接的に筋力を底上げし、高負荷トレーニングは神経的適応で直接的に筋力を引き出す――といった違いがあるのかもしれません。

この点については今後の研究課題ですが、少なくとも「高重量でなければ筋力はつかない」という伝統的な信念は必ずしも当てはまらないことを本研究は示唆しています。

重いバーベルを持ち上げるのは怖い、器具がない、自宅で手軽に鍛えたい――そうした事情でトレーニングを諦めていた人々にとって、今回の結果は希望を与えるものです。

実際、著者らは「筋肉を大きくするのに重い重量は必ずしも必要ではない。これはアスリートだけでなく一般の人々にも当てはまる重要な発見だ」と述べています。

筋肉さえ疲れるまで追い込めば、自分にとって20〜30回で限界が来る重さ(例:5 kg前後の人もいる)でも効果を得られる可能性があります。

私たちの身体は思っているより柔軟で、多様なアプローチに適応できるようです。

「ローマに通じる道は多い」ということわざがありますが, 研究チームも今回の成果をまさにこの言葉で表現し、異なる負荷設定でも目標に辿り着けることを強調しています。

筋肉を太く強くする方法は一つではありません。

自分に合った道を選び、しっかり継続することが肝心だと言えるでしょう。

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元論文

Comparable Strength and Hypertrophic Adaptations to Low-Load and High-Load Resistance Exercise Training in Trained Individuals: Many Roads Lead to Rome
https://doi.org/10.1101/2025.04.28.650925

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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