私たちはよく「見た目がいいと人生で得をする」と耳にします。
実際に、美男美女が就職や恋愛で有利だという話には思い当たる節があるでしょう。
しかし「美しい=得をする」は世界共通ではないことが明らかになりました。
独マンハイム大学(Uni Mannheim)の最新研究で、見た目の「美しさ」が必ずしも「成功」や「信頼」などの社会的価値と結びついていない文化圏が存在していたのです。
研究の詳細は2025年5月21日付で科学雑誌『Scientific Reports』に掲載されています。
目次
- 美しさが社会的強みにならない文化圏とは?
- 美しさの価値は絶対ではない―文化が違えば「強み」も変わる
美しさが社会的強みにならない文化圏とは?
今回の研究では、世界68の言語を対象に、AIが学習した「美しい」「醜い」といった言葉の意味的なつながりを分析しました。
具体的には、「美しさ(beautiful)」という語が、その文化圏における社会的な「成功(success)」や「信頼(trust)」とどれくらい近いかを数値化することで、その言語圏における“美の価値”を測定したのです。
結果は驚くべきものでした。
たとえば英語圏では、「美しさ」は「成功」や「能力の高さ」「自信」と強く関連づけられていました。
これは「美しい人は有能で信頼できる」といったポジティブなステレオタイプが深く根づいている証拠です。
特にフランス、イタリア、フィンランドなど西ヨーロッパの国々で顕著でした。

ところが東南アジアのベトナムやミャンマー、さらには東欧のルーマニアでは、こうした関連性がまったく見られなかったのです。
むしろ「美しい」という語が「無能」や「失敗」と結びついているケースさえありました。
このような文化圏では、美しさがかえって「表面的なもの」「信用できない」といったネガティブな印象をもたらす可能性があるのです。
研究チームは、こうした違いが宗教観や歴史的背景、社会規範の違いから生じているのではないかと考えています。
たとえば、「内面の美徳」や「謙虚さ」が重視される文化では、外見の美しさが評価軸として優先されない傾向があるのかもしれません。
美しさの価値は絶対ではない―文化が違えば「強み」も変わる
私たちはつい、「見た目が良ければ得をする」と思いがちですが、今回の研究はその常識に大きな揺さぶりをかけました。
世界には、「見た目の美しさ」が必ずしも評価されない文化が存在します。
そこでは、他の資質――たとえば知性、勤勉さ、誠実さ――がより重視されている可能性が高いのです。
これは私たちに重要な問いを投げかけます。
「社会が求める美しさとは、いったい誰が決めるものなのか?」と。
もし「見た目に自信がない」と悩んでいるなら、少し視野を広げてみるといいかもしれません。
文化が違えば、美しさの価値もまるで変わります。
そして、あなたの持つ別の魅力が、最も強い社会的な魅力になるかもしれないのです。
参考文献
Beauty is an advantage, but not everywhere
https://www.uni-mannheim.de/en/news/beauty-is-an-advantage-but-not-everywhere/
元論文
Cultural differences in the beauty premium
https://doi.org/10.1038/s41598-025-02857-4
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部