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鼻うがいで「脳食いアメーバ」に感染した女性が死亡、米テキサス州


アメリカのテキサス州で、71歳の女性が鼻うがいをしたことで「脳食いアメーバ」に感染し、8日で死亡しました。感染源は、RVの蛇口から供給される煮沸していない飲料水でした。感染症「原発性アメーバ性髄膜脳炎(PAM)」を引き起こすフォーラーネグレリアというアメーバが鼻から侵入し、短期間で致死的な症状を引き起こしました。CDCは鼻うがいに使用する水について、蒸留水や滅菌水を使用することを強く推奨しています。日本でも感染のリスクが指摘されており、過去には似た事例も報告されています。

風邪の予防や花粉症対策として広く知られる「鼻うがい」。

しかし、その何気ない習慣が、まさか命取りになるとは誰が想像したでしょうか。

このほど、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)らの報告で、2024年に米テキサス州で、71歳の女性が「鼻うがい」によって「脳食いアメーバ」に感染し、発症からわずか8日で死亡する衝撃的な症例が起きていたことが報告されました。

感染源は、レクリエーショナル・ビークル(RV=移動式住居車)の蛇口から出る煮沸していない水だったとのことです。

目次

  • 女性に感染したアメーバとは?
  • 日本でも感染しうる?

女性に感染したアメーバとは?

死亡した女性は、体調を崩す直前の4日間にわたり、RVの飲料水用の蛇口から出る水を使って鼻うがいを行っていました。

一見、安全そうに見えるこの水。

しかし実際には適切な消毒がされておらず、細菌や病原体が繁殖する「バイオフィルム」が形成されていた可能性がありました。

女性が感染したのは「フォーラーネグレリア(学名:Naegleria fowleri)」という単細胞のアメーバです。

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フォーラーネグレリア/ Credit: ja.wikipedia

一般に水中に存在するこの微生物は、鼻から侵入し、嗅神経を通って脳に到達。脳組織を文字通り“食べながら”進行するという、恐ろしく攻撃的な病原体です。

病名は「原発性アメーバ性髄膜脳炎(PAM)で、発症すると頭痛や発熱、吐き気から始まり、幻覚、意識混濁、けいれんを経て、短期間で死に至ることが多い恐ろしい病気です。

CDCの調査によれば、1962年から2023年にかけてアメリカ国内で報告された164件のPAM症例のうち、生存したのはわずか4人のみ。

致死率はほぼ100%とされる“最凶クラス”の感染症なのです。

日本でも感染しうる?

フォーラーネグレリアは25〜35℃の温かい淡水を好みます。

湖や池、温泉、清掃の不十分なプールに加えて、使用されないまま放置されたRVの水タンクも格好の温床です。

さらに恐ろしいのは、このアメーバが人の体内に入ると、通常の「鞭毛型」から活発な「トロフォゾイト型」と呼ばれる形態に変化し、脳細胞を餌にして猛烈に増殖を始める点です。

皮膚からの侵入や口からの飲み込みによる感染は極めて稀で、多くの場合は体の免疫システムによって排除されます。

しかし「鼻から入った場合」は例外です。

嗅上皮を食い破って嗅神経をたどり、脳に直通するルートを進んでしまうのです。

そのため、CDCは鼻うがいを行う際、必ず「蒸留水」「滅菌水」または「一度沸騰させた水を冷ましたもの」を使うよう強く警告しています。

水道水や、消毒処理が不明な水源からそのまま水を使うのは、まさに“脳に通じる扉”を自ら開け放つような行為と言えるでしょう。

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フォーラーネグレリアの生活環/ Credit: ja.wikipedia

今回の事例はアメリカでの発症でしたが、日本も決して無関係ではありません。

1996年には、佐賀県で25歳の女性がフォーラーネグレリアに感染し、わずか9日で死亡するという症例が確認されています。

水源や感染経路は特定されませんでしたが、日本の淡水環境にも存在することが証明された貴重な事例です。

さらに国内の温泉施設や川で、近縁種であるネグレリア属のアメーバが多数検出されており、日本でも“脳食いアメーバ”感染のリスクが潜在していることは間違いありません。

風邪対策として定着した「鼻うがい」。だからこそ、油断は禁物です。

わずかな注意を怠ることで、取り返しのつかない事態を招くこともあるのです。

水は生命の源であると同時に、ときに命を奪う媒介にもなる。そんな二面性を私たちは決して忘れてはいけません。

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参考文献

Texas Woman Dies From Brain-Eating Amoeba After Flushing Sinuses
https://www.sciencealert.com/texas-woman-dies-from-brain-eating-amoeba-after-flushing-sinuses

元論文

Notes from the Field: Primary Amebic Meningoencephalitis Associated with Nasal Irrigation Using Water from a Recreational Vehicle — Texas, 2024
https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/74/wr/mm7419a4.htm

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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